切ない、悲しいだけではない別れの歌
この曲は大切な人との別れが題材です。ただ、悲しいだけではありません。歌詞を最後まで読むと、その意味が分かると思います。
聴いていると泣けてしまう、そして胸熱くなる世界観。
壮大な空のイメージが頭の中に広がるサウンド。
『アスノヨゾラ哨戒班』の魅力をがっつり語っていきますね!
「アスノヨゾラ哨戒班」とは?
『アスノヨゾラ哨戒班』はOrangestarによって2014年8月19日にニコニコ動画で公開された楽曲です。
使用されているVOCALOIDはIA。動画に使用されている絵は、Orangestarとのタッグで知名度を上げたプロのイラストレーター、M.Bが担当しています。
軽快な打ち込みサウンドと、大切な人といつまでも一緒にいたいという歌詞のメッセージ性が聴く人の胸を打ち、すぐさま人気曲に。
公開翌日のニコニコ動画デイリーランキングでは1位を獲得。投稿から約1年後、2015年9月には100万再生を達成しました。
また、2015年1月にはYouTubeでも動画が公開され、こちらもぐんぐん再生数を伸ばします。
2019年4月時点で、動画の合計再生回数は(ニコニコ動画、YouTubeを合わせて)1630万超え!驚異的な数字ですね。
音源が欲しいという方は、Orangestarのファーストメジャーアルバム『未完成エイトビーツ』などに収録されていますので、ぜひご購入ください!もちろん、他の収録曲も素敵ですよ!
「アメリカ在住ボカロP」として大活躍したOrangestar
では作者であるOrangestarのご紹介。
Orangestarは2013年4月2日に投稿された『ノラボク』でボカロPとしてデビュー。蜜柑星Pという名義でも知られています。
『イヤホンと蝉時雨』や『Alice in 冷凍庫』そして『アスノヨゾラ哨戒班』などが代表曲です。
高校生時代の2014年に、ボカロPとしての活動は続けつつ、アメリカに留学。
なので、キャプションにあるように「アメリカ在住のボカロP」ということがボカロファンの中で話題になりました。
先にも書いた通り、2015年にアルバム『未完成エイトビーツ』でメジャーデビュー。
2017年にはセカンドアルバム『SEASIDE SOLILOQUIES』をリリースしています。しかし同年8月に『快晴』を投稿してから活動を休止。
2018年、TwitterでOrangestarの父親が「あと一年で息子が帰ってくる」と発言。ということで、2019年の復帰を待望されています。
ちなみに父親によって、Orangestarの楽曲『回る空うさぎ』を実の弟、妹が歌っている動画が投稿されています。
とてもかわいいですので、ぜひ観てみてください!
▷【癒される!】回る空うさぎ★Orangestarの弟妹が歌ってみた★
この疾走感ある曲調の秘密は?
ではここから『アスノヨゾラ哨戒班』の中身を見ていきましょう。
曲調は、スピード感のあるピコピコサウンド。左右に揺れ動くシンセサイザーの音色が気持ちいいので、ぜひイヤホンで聴いてみてください。
使われている楽器(シンセ)の数は多くありませんが、立体的なミキシングが曲に広がりを与えています。
ドラムパターンはバスの四つ打ちと細かく刻まれるハイハットの音が耳につきますね。これが疾走感のキモになっています。
よくよく聴いていて、面白いなと思う部分があります。それはリバーブがかなり薄い、というところ。
リバーブは音の反響を作るエフェクトのことを指します。お風呂で声が響く、あの現象のことですね。
大サビ前のボーカルにはしっかりかけられていますが、それ以外のパートだとあまり聴こえません。
曲に奥行きを持たせるために使われることの多いリバーブ。ないとちょっと淡白な音像になってしまいます。
しかし『アスノヨゾラ哨戒班』はあえてリバーブを薄くして、音の輪郭をはっきりさせているのです。
確かに、左右に動くシンセサイザーにかけてしまうと音が混ざり合ってしまい、このスピード感は生まれないかもしれませんね。
ただ、そんな音作りなのにこの浮遊感、壮大感。さすがOrangestarと言ったところでしょうか。
切ない別れ…しかし、だからこそ少年は変わる。
ここからは歌詞を見ていきましょう。冒頭の歌詞を抜き出してみました。「敵を選んで戦う少年」が登場していますね。
タイトルの「哨戒」という言葉は、敵の襲撃を警戒する、という意味合いがあります。なのでさきほど出てきた少年が、哨戒班、戦いの見張り役であると察せられます。
一体何を見張っているのでしょうか?
さて、気分次第で戦う相手を選んでいる少年。「叶えたい未来も無くて」将来への目標がなく「夢に描かれるのを待ってた」しかし明るい未来がいつかきっとくるんだろうなぁ…なんて想像しています。
なのに「未来が怖くて 明日を嫌って過去に願って」その未来が怖い。知らないものの中に自分の身が晒されることへの不安が綴られていますね。
だから「明日よ!明日よ!もう来ないでよ!」と叫んでしまっています。少年は臆病な性格だということが分かります。
続いての歌詞です。時間は待ってくれません。怖がっていても「月は沈み陽は登る」。しかしこのフレーズで状況が変わりました。「君」という人物の登場です。
今まで怖がりながら過ごしていた夜でしたが「けどその夜は違ったんだ 君は僕の手を」君に手を引かれる少年。
サビの歌詞です。ここではまず、後半のフレーズから見てみましょう。
「また明日も君とこうやって笑わせて」君と少年が笑い合っていたことが分かりますね。
不安を抱えていた少年が楽しい時間を過ごしたようです。
だから前半の「空へ舞う 世界の彼方 闇を照らす魁星」。「魁星」は北斗七星の第一星のことを指します。
北斗七星と言えば、一年中見られる星座なので、昔の航海などでは進路の目印にされてきました。
君と出会って話すうちに未来への希望を見出した少年、という図式が見えてきますね。
「『君と僕もさ、また明日へ向かっていこう』なんて言ってますし。青春です。
2番の歌詞です。君と出会ってから少年の気持ちが少し変化しました。
前とは違って、未来への不安は感じてはいますが、それでも君と見た世界の美しさが忘れられない。それを胸に日々を過ごしています。
しかし気になるのは「忘れてないさ 思い出せるように仕舞ってるの」。どうやら君はいなくなってしまったようです。
一人きりだと自分は何もできない、という少年の弱さがここに綴られていますが、しかし、
このどうしようもない日々を壊して欲しい。臆病な自分、弱い自分を変えたい。でも、できない。しかし君は願ったんなら叶えようと言った。
いなくなってしまった君からの言葉が、少年の心を揺れ動かしています。
最後のサビで、少年の感情が爆発していますね。
君に会いたい、会いに行こう。もしかしたら君はいないかもしれない。
でも、それでも行こう。「君といたいから叫ぼう」。少年が自分の意志で未来へ向かって進んでいく決意を固めました。
辿り着いた未来できっと、この時の気持ちを思い出そう。不安だったこと、どうしようもなかった日々。ただ君という大切な存在を共に歩んでいきたい。自分の弱さを乗り越えて、君に会いにいこう。
それが少年の「明日」なのです。
さて結局、少年は何を「哨戒」していたのでしょうか?歌詞を最後まで読んでみると、2つの意味合いが見えてきます。
まず、敵。この曲で言う敵とはつまり「未来」のことです。「残酷な未来」とありましたね。もう来ないでよ!なんて叫びもありました。
少年は未来と戦っていたのです。そして、それを警戒していたようです。
そしてもう一つは君。警戒、という意味とは少し離れてしまいますが「哨戒」できるのであれば、いなくなってしまった君を探すこともできるでしょう。
大切な君に会いたいから、明日、つまりは未来の夜空でも哨戒する。これがタイトルに繋がってきます。
切ない別れの物語ではありますが、しかし少年の前向きな心変わりに胸が熱くなる歌詞の中身でした。
「キミノヨゾラ哨戒班」も合わせてどうぞ!
『アスノヨゾラ哨戒班』が投稿されてからちょうど1年後にOrangestarにより『キミノヨゾラ哨戒班』が公開されました。
『アスノヨゾラ哨戒班』の生楽器アレンジバージョンです。原曲よりもロックでエモーショナルな仕上がりです。バンド構成が好きな方なら刺さるかも。
特にギターソロは必聴ですよ。聴いていて気持ちいいです。
このバージョンを聴けば、また違う目線で歌詞を見られるかもしれませんので、ぜひともご視聴を!
TEXT 荒木若干