昭和の作詞事情とは
現在では、アーティスト自身が作詞作曲をするのが当たり前ですが、『Reflections』がリリースされた1981年(昭和56年)頃は、一部のシンガーソングライターを除き、ほとんどの曲はプロの作詞家が作詞を担当していました。
それゆえに、日々の日常を描いた最近の歌詞とは違い、当時の歌詞は、非日常的な完璧な世界観を作り上げていたのです。
『Reflections』にも、松本隆、有川正沙子という、超一流の作詞家が揃い踏み。“孤独な男の旅路”というイメージで一貫されたこのアルバムは、一曲目のイントロが始まった瞬間から、映画を観るように、リスナーを別世界へと誘います。
『ルビーの指環』が大ヒットした理由
『Reflections』の中でも『ルビーの指環』は、人気歌番組「ザ・ベストテン」で、12週連続1位を記録する大ヒットとなり、スタジオには寺尾聰専用ソファーが設けられるほどでした。聖子ちゃんやマッチなど、アイドル花盛りの時代に、なぜ『ルビーの指環』という、いぶし銀のような曲がここまでヒットしたのでしょう。
それは、寺尾聰が出演していた人気刑事ドラマ「西部警察」の影響です。当時、テレビは一家に一台の時代。当然、親子で同じ番組を見ていました。ド派手なアクションドラマ「西部警察」は大人にも子供にも大人気。その中で、クールなデカ“リキ”を演じる寺尾聰も全国区の知名度でした。
『ルビーの指環』を歌う寺尾聰は、西部警察のリキそのもの。クールなリキさんが歌うクールな曲に、大人も子供もシビれたのです。“かっこいいぜ。。。”と。
ようこそ『Reflections』の世界へ
それでは、いよいよ『Reflections』の歌詞で大人の男の美学を体験して頂きましょう。まずは、HABANA EXPRESSに乗って旅のスタートです。
HABANA EXPRESS
----------------
Habanaの風に酔い
ただおまえと眠っただけさ
終りのない恋なんて 多分恋じゃないぜ
≪HABANA EXPRESS 歌詞より抜粋≫
----------------
1曲目からなんてイカしているのでしょう。
一つの恋が終わって逃げるように列車に飛び乗った主人公。終わりのない恋なんてないと言い聞かせながらも、まだ彼女の面影がつきまといます。
大人の男も、恋の終わりは辛いもの、という事ですね。
渚のカンパリ・ソーダ
----------------
ジリジリ焦げた肌に
ひとしずくの水を投げてくれ
渚から光る君は
サングラスも眩みそう
≪渚のカンパリ・ソーダ 歌詞より抜粋≫
----------------
HABANA EXPRESSで到着したのは真夏のビーチ。終わった恋からすっかり立ち直った主人公は、新たな恋人に首ったけです。
楽しむ時は思い切り楽しむ、これが大人の男のモットーなのです。
喜望峰
----------------
独りでいるより二人の方が
なおさら孤独な時もある
≪喜望峰 歌詞より抜粋≫
----------------
ひとつのところに留まれないのが大人の男の性。
恋人と心が離れた訳ではないけれど、“縛られるのはゴメンだぜ”と、主人公はまた旅へ向かいます。
二季物語
----------------
グレイの便箋 見知らぬ文字が教える
あなたは二度と 俺を訪ねはしない
眠りの汽車で旅に出た
≪二季物語 歌詞より抜粋≫
----------------
旅先で、昔の恋人の死の報せを受け取った主人公。便箋というところが、昭和らしくて素敵ですね。
二人で過ごした冬と夏、二つの季節に思いを馳せます。大人の男には、静かに過去を振り返る時間も必要なのです。
ルビーの指環
----------------
くもり硝子の向うは
風の街
問わず語りの心が
切ないね
≪ルビーの指環 歌詞より抜粋≫
----------------
季節は変わって秋。問いかける人もなく、心の中で独り語りをするという意味の「問わず語りの心」。たったこれだけで主人公の孤独を表現するセンスがすごいです。
----------------
そして二年の月日が
流れ去り
街でベージュのコートを
見かけると
指にルビーのリングを
探すのさ
貴女を失ってから・・・・
≪ルビーの指環 歌詞より抜粋≫
----------------
二年前の夏、愛しているのに素直になれず、彼女を冷たく突き放してしまった主人公。あれから、ルビーの指環を見ると、つい彼女かと期待してしまう。
大人の男には、後悔もつきものなのです。
シャドー・シティ
----------------
無理に微笑えば 何てSexy
妙に惹かれる 最後の時間
≪シャドー・シティ 歌詞より抜粋≫
----------------
またまた新たな恋に落ちた主人公。自然な明るい笑顔ではなく、無理して笑う女の表情に惹かれます。
それは、年を重ねた大人の男にしか感じられない女の色気。しかし、そこには既に別れの時が。
予期せぬ出来事
----------------
危険な賭だけど 退屈はごめんさ
俺の彼女も 気が付くころかな
シャンペン持ったまま
≪予期せぬ出来事 歌詞より抜粋≫
----------------
大人の男にとって恋はゲーム。傷付くとわかっていても、主人公は性懲りもなく恋を楽しみます。
退屈こそ、大人の男の敵なのです。
ダイヤルM
----------------
何気なく廻したダイヤル 束の間だけ掠め合い
≪ダイヤルM 歌詞より抜粋≫
----------------
1980年代初頭、電話はスマホではなく、プッシュボタンですらなく、なんとダイヤル式だったのです。今の若者は見た事すらないであろうダイヤル式電話が絵になるのは、大人の男の特権ですね。
北ウィング
----------------
そうさこの俺を 愛さなくていい
そばにいるなら
≪北ウィング 歌詞より抜粋≫
----------------
「愛さなくていい そばにいるなら」とは、まさに究極の愛の形。
しかし、ついに言葉に出せず、彼女は去って行った。独り空港に取り残される主人公。
大人の男は、いつの世も不器用なのでした。
出航 SASURAI
----------------
自由だけを 追いかける
孤独と引き替えにして
おまえの匂いは
記憶の彩りだけど
生きてゆく道連れは
夜明けの風さ
≪出航 SASURAI 歌詞より抜粋≫
----------------
恋人たちを思い出にして再び旅立つ主人公。大人の男は、やはり一人でしか生きられないのです。
夜明けと共に港から出航する船。孤独と自由という、世の男性の究極の夢を形にして『Reflections』の世界はエンドロールを迎えます。〜FIN〜
昭和の男の美学にノックアウト
『Reflections』は、文学的とも言える歌詞と、都会的な洗練された曲、そして寺尾聰の低音ボイスにタメを効かせた歌声が見事に調和した、昭和ならではの名作です。
令和の時代を迎えた今も、このアルバムを聴けば、誰もが昭和の男の美学にノックアウトされる事は間違いありません。
TEXT 岡倉綾子