これが"アルバム"の楽しみ方!
シンガー・ソングライター時代のキャロル・キングでもっとも知られている曲と言えば『君の友だち』(1971年)だろう。
そしてその曲を収録したアルバム『つづれおり』(1971年)もまた同じくらいおなじみだ。なにせビルボードチャートで15週連続一位を記録し、その後も6年間チャートに居座り続けたお化けアルバムなのだから。
多くのリスナーが「アルバムを最後まで通して聴く」ことを楽しんでいた時代。『つづれおり』はアルバムというフォーマットで楽しめるアイディアを周到に組み込むことで、そんな時代の要求に見事に応えた。
では『つづれおり』が示した、アルバムの楽しみ方とはどのようなものか。
例えば『君の友だち』の歌詞をアルバムの流れの中で捉え直してみる。すると、曲単体を聴くだけでは得られない味わいを見出すことができる。
まずはいきなり『君の友だち』を聴かずに、アルバム2曲目の『去りゆく恋人』を聴いてほしい。この曲は、別れによる孤独を受け入れられずにいる心情を歌ったものだ。冒頭の歌詞を以下に引用する。
去りゆく恋人
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Doesn't anybody stay in one place
any more?
It would be so fine to see
your face at my door
≪SO FAR AWAY 歌詞より抜粋≫
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[日本語訳]
一つところにとどまる人なんていないのかしら?
ドアの先にあなたの顔があれば、どんなに素敵なことだろうか
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そして『つづれおり』をさらに聴き進めていく。すると、この『去りゆく恋人』の孤独をフォローする歌がやがてあらわれる。それが7曲目の『君の友だち』なのである。有名なそのサビの部分を引用する。
君の友だち
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You just call out my name
And you know wherever I am
I'll come running to see you again
≪You've Got A Friend 歌詞より抜粋≫
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[日本語訳]
あなたはわたしの名前を呼ぶだけでいい
わかるでしょう、わたしがどこにいようと
わたしは駆けつける、あなたの元へ
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このメッセージはまるで、『去りゆく恋人』の主人公のつぶやきを逐一ひっくり返して応えたようではないか。「今は一つところにいないけども、お望みとあらばあなたのドアに顔を出すよ」といった具合にだ。
さらに4曲目の『ホーム・アゲイン』も同様に孤独を歌った曲だが、その中にこんな歌詞がある。
ホーム・アゲイン
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Snow is cold, rain is wet
Chills my soul right to the marrow
≪Home Again 歌詞より抜粋≫
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[日本語訳]
雪は冷たく、雨は湿っぽい
わたしの魂は芯まで冷え切っていく
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『君の友だち』は、この冷え切った魂にも手を差し伸べる。
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Ain't it good to know that you've got a friend
When people can be so cold
They'll hurt you, and desert you
And take your soul if you let them
Oh, but don't you let them
≪You've Got A Friend 歌詞より抜粋≫
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[日本語訳]
友だちがいるっていいことだよ
人はときに冷たく
あなたを傷付けたり、見捨てたりする
魂さえも奪ってしまうかも知れない
ああ、だけどそれだけはさせないで
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雨や雪のように冷たい人々の仕打ちに、魂まで冷え切ってしまいそうな『ホーム・アゲイン』の主人公。『君の友だち』はそんな主人公に、ここでもまた優しく呼びかけるのである。君にはそんなときに力になれる友だちがいるんだよ、と。
互いの曲が補い合うアルバム
アルバムの前半で描かれる『去りゆく恋人』や『ホーム・アゲイン』の孤独、そしてそれらがやがて『君の友だち』の優しさに癒やされる。『つづれおり』を通して聴くことで、各々の曲の世界は有機的に絡み合い、味わいが深まっていく。
アルバム『つづれおり』は、文字通り”つづれ織り”のように、こうした楽曲同士の相互作用で織り成されている。これはアルバムというフォーマットならではの体験だ。
『つづれおり』はグラミー賞を4部門も獲得し、売上だけでなく作品としても大きく評価されている。いまやその価値を忘れられつつある、アルバムフォーマットの魅力を知るには格好のテキストなのは間違いない。
TEXT quenjiro
1958年、17歳でデビューしたアメリカの代表的シンガーソングライター。 60年代、最初の夫であるゴーフィン・キングとソングライティングおよびプロデュース業をスタート。 「locomotion」「will you love me tomorrow?」「Up On The Roof」などヒット曲を連発、60年から63年に、約20曲を全米···