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モテない男の怨念がこだまする、10cc『I'm Not In Love』

ロックミュージシャンは今も昔も男の子たちの憧れの職業です。俺もモテるためにミュージシャンになるぜ、そのためにロックをいっぱい聴くぜ、と勇んで聴き始めるうちに察しのよい少年であれば、ある矛盾に気が付きます。こいつら最初からモテとるやないかと。

ロックミュージシャンは最初からモテている



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Be quie
(Big boys don't cry
Big boys don't cry

[日本語訳]
しーっ、しずかに
大きい男の子は泣かないものなのよ…

-『10cc "I'm Not In Love』から、最後の語り部分の歌詞-
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ロックミュージシャンは今も昔も男の子たちの憧れの職業です。

俺もモテるためにミュージシャンになるぜ、そのためにロックをいっぱい聴くぜ、と勇んで聴き始めるうちに察しのよい少年であれば、ある矛盾に気が付きます。こいつら最初からモテとるやないかと。

特に60年代中期あたりまでのロックの歌詞は「すでにモテている」歌詞ばかりでした。熱い恋の只中にいる歌も、辛い恋の別れの歌も、付き合ってる異性がいてこその歌なのです。

その意味でリアルタイムでモテているロックの歌詞は、異性に縁がないロックファン層のニーズを満たしているとはいえませんでした。

そういったファン層は60年代でも一定数いたはずで、ミュージシャン側も認識していたとは思うものの、まだまだモテない男を描いた歌詞というのはロックとしてサマにならないと考えられる時代でした。

ロックの歌詞の変革と、モテない男のアンセムの登場


しかし60年代も半ばになると、ボブ・ディランを始めとする若いミュージシャン達がロックの詩的表現の拡大を図り、ロックの歌詞は愛や恋について歌うだけのものではなくなり始めます。

とはいえボブ・ディランも基本的にモテ男なので、モテない男にスポットをあてることは思いもしなかったようです。

そして時を経て1975年、モテない男の鎮魂歌が突如として脚光を浴びました。それが10ccによる"I'm Not In Love"です。この歌詞の主人公は素直になれない男の子。

彼には親しくなった女の子がいるのですが、恋なんてしてない(I'm Not In Love)から勘違いしないでくれ、と繰り返し念を押します。

やれ電話するなんて大したことと自分は思ってないだの、そのことをいい触らさないでほしいだの、とにかく面倒くさいことばかり言うのです。

挙句の果てには、壁に君の写真を貼っているけどこれはシミを隠すのに使ってるんだから返してくれなんていわないでよね、と言い出す始末。

こだまするモテない男の怨念


冒頭に挙げた歌詞の部分はおそらく主人公を慰める母の声だと思われ、案の定彼がフラレたことを示唆しています。

ともかくこの作品は、「それはモテないわ」と誰しもが思うであろう、自意識過剰で異性とうまく付き合えない男の子の姿を克明に描いた、画期的な歌詞の内容でした。

"I'm Not In Love"はその歌詞よりも、600トラック以上といわれるボーカルを多重録音したサウンドメイキングにばかり注目が集まる作品です。

しかし上記のような歌詞の内容を踏まえると、その膨大な声の集合体はまるで、主人公の内部にこだまする「モテない男の怨念」かのようではありませんか。

TEXT quenjiro

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