消えかけた未来を繋ぎ止めた覚悟
2004年にメジャーデビューした「フジファブリック」は、抒情的なメロディと歌詞が魅力的なロックバンドである。
かつてのVo/Gt、志村正彦を中心に結成。ほとんどの楽曲の作詞作曲を志村が担当していたが、2009年12月、志村正彦が急逝。
2011年に、残されたメンバー、山内総一郎(Vo/Gt)、金澤ダイスケ(Key)、加藤慎一(B)の三人が新体制で再活動。メンバー全員が作詞作曲を担当することに。2014年には、初の日本武道館を成功させた。
2019年にバンドはメジャーデビュー15周年を迎え、10月には大阪城ホールでの公演が決まっており、バンド史上最高の勢いを感じることができる。
そして2019年1月に発売された10thアルバム『F』は、変幻自在の多彩な楽曲が収録され、これまで積み上げた15年を体感できる一作となった。
その中の2曲目に収録されている、『破顔』。作詞作曲を担当するのは、現Vo/Gtの山内総一郎。
アニメ「3Dガール」のEDテーマにもなったこの曲の歌詞には、これまでの「過去」と「現在」の「ありのまま」を歌い、未来に向かおうとするフジファブリックがよく表れている。
今回は、そんな彼らの決意を紐解き紹介していく。
破顔
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枯葉のリズム 終わりの季節 僕の手を引いてた
白い吐息は消えかけていた未来
≪破顔 歌詞より抜粋≫
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紅葉の時期が過ぎ、四季の最後である冬を迎えた描写から始まるが、「僕の手を引いてた」と何処か引っ掛かりが見える。
冬といえば、植物や生物が眠りにつき、どこか寂しさを感じる季節である。そして志村正彦が亡くなった季節であり、バンドのみならずファンとしても、意識せざるを得ない季節だ。
その冬に起きた大きな喪失によりフジファブリックは、冬の日の「白い吐息」のように消えかけたのである。
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遥かな空に霞む星たち今日も揺らしている
微かな印でも奇跡と呼んでいたい
≪破顔 歌詞より抜粋≫
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消えかけた未来を繋ぎ止め、「フジファブリック」という名前を残し新体制での活動を決めた三人。そんな並々ならぬ覚悟で掲げた決意は、時に明るさを変える瞬間があっても、常に星のように光らせてきた。
その覚悟から生まれた一瞬一瞬の節目は、どんな小さな出来事でも「奇跡」なのである。
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繰り返しでも振り出しでもいい無邪気に見せて
≪破顔 歌詞より抜粋≫
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これまで積み上げてきたものが無駄になってしまっても、また一から積み直さなくてはいけなくなってしまっても、ただ目の前の「音楽」に、彼らはまっすぐ向き合ってきた。
「ありのまま」で先へ
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会いたい人に会えたかな なりたい人になれたかな
君が君らしくいることで僕が僕らしくいれたよ
≪破顔 歌詞より抜粋≫
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志村正彦は亡くなる直前まで音楽に向き合い、自らの「音楽」を創り続けようとした男だった。そして彼にしか創れない様々な名曲を生み出した。唯一無二の彼の「音楽」を誰よりも理解していたのは、他ならぬメンバー達である。
だからこそ、彼らは、志村正彦の「音楽」と共に前に進むことを決めたのだ。
残された三人が、もし、志村の才能を超えようとしていたら、その過去に縛られ、バンドの存続はありえなかった。志村正彦とその「音楽」を愛し、志村らしさを全員で受け入れることで、「フジファブリック」は15周年を迎えることができたのだ。
志村正彦らしさが詰められた「音楽」と、残された三人の自分達らしさを出した「音楽」を共存させることで、過去を風化させることなく、現在へと繋いでこれたのである。
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ただ息をする今日という日が何より素晴らしいことさ
何もいらない さあ行こう 心配なんか何もない 何もない さあ行こう
≪破顔 歌詞より抜粋≫
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壮絶な過去を繋ぎ止めた彼らが歌う、あまりにもシンプルな喜びの言葉。全てを受け入れた、何も飾らない「ありのまま」の姿で未来に向かおうとする意志が伝わってくる。
タイトルに使われた「破顔」という言葉は、自然と顔をほころばせて笑う表情を意味しているが、この「ありのまま」の姿から零れた言葉なのだと考えることができる。
「フジファブリック」は現体制としての再活動から、精力的に新曲を発表し、新たなファンを獲得してきた。
そんな彼らから発せられた、「心配なんか何もない」、「さあ行こう」という歌詞は、困難を乗り越えてきた自信から生まれたフレーズであり、これから先も、飾ることのない、「フジファブリック」であり続ける覚悟が詰まった言葉なのだ。
過去も今も受け止めて進んでいく
メンバーはよく、ライブのMCやインタビューで志村の話を語る。
それは過去を断絶することなく、地続きでバンドを続けている証だ。
彼らが「ありのまま」に繋いでくれている「イマ」が、これまでとこれからのファンの双方を魅了させる。そしてその決意のままに鳴らした歌が、聴く人の心を共に先へと連れていってくれる。
彼らを遮るものは何もない、「イマ」を越えてどこまでも進んでくれることを期待する。
TEXT 京極亮友