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佐野元春『グッドバイからはじめよう』を読み解く

ストリングスを配したスロー・ナンバー『グッドバイからはじめよう』は、1980年にメジャー・デビューした佐野元春が、1983年に10thシングルとして発表し、ベスト・アルバム『No Damage(14のありふれたチャイム達)』にも収録されたナンバーです。卒業・旅立ちソングとして歌われるこの曲について、今回は読み解いていこうと思います。

別離・卒業・旅立ちのシンプルイズム


ストリングスを配したスロー・ナンバー『グッドバイからはじめよう』は、1980年にメジャー・デビューした佐野元春が、1983年に10thシングルとして発表し、ベスト・アルバム『No Damage(14のありふれたチャイム達)』にも収録されたナンバーです。

ですます調で表現したナンバーや、タイトルが歌詞に出てこないナンバーは今や数多いですが、本曲もそんな1曲です。

卒業・旅立ちソングは、3月~4月のこの時期にはいわゆる定番として聴かれますが、この曲は別離もテーマの中に入っているようです。

旅立ちのポジティブなところと、別れのネガティブなところが混じり合っていて、主人公の複雑な気持ちが反映されています。

恋愛としてではない、男女2人の別れ


歌詞内容を端的に言うと、彼女と僕との別れです。でも、恋愛としての別れのイメージではありません。

どういう訳か主人公には分からないけど、彼女はこの街を出ていく。僕はそんな彼女をただ、見送る。プラットホームだったイルカの『なごり雪』(1973年)のように、どこで見送っているのかは特定されていません。

彼女はサヨナラの意味で手を振るけど、僕は見送っているだけで、両手は上着かズボンのポケットに入れています。どうして彼女は手を振っているのか、僕は不思議に思っている様子です。

グッドバイからはじめよう

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どうしてあなたは
そんなに手を
振るのだろう
僕の手はポケットの
中なのに Mmh・・・・
≪グッドバイからはじめよう 歌詞より抜粋≫
----------------

いわゆるフツーの旅立ち・卒業ソングではないことが示されています。確かに、残る者と出ていく者がいることは明示されてはいます。

しかし、完璧な卒業ソングに見えないのは、例えば『仰げば尊し』を裏キーにした、森山直太朗の『さくら』(2000年)と比べてみても明らか。旅立ち・卒業といった言葉は、一切使われていないのです。使われているのは「さよなら」だけ。

そして、「終わりははじまり」という本曲の一大テーマに帰着するのです。

当時では斬新な意味を含む"さよなら"


さよならは出会いの始まりだというのは、今ではあまり目新しくはありませんが、1980年代当時は新鮮でした。さよならをポジティブに捉えたこの表現は、一部の文学小説でも使われていましたが、邦楽では本曲が初めてではないでしょうか。

当時文壇デビューした村上春樹とのシンクロナイズも、見え隠れしています。群像新人文学賞を受賞し芥川賞候補になったデビュー作『風の歌を聴け』(1978年)の主人公の「僕」が、妙に本曲の僕と重なってくるのです。

ナイーヴなところはもちろん、去る者は追わずの姿勢などがシンクロします。また、彼は波のように別れがきたなどの表現は、文学的でもあります。

そして、3分間ソングのバラードという短時間の中で、言葉少なめの歌詞を書き上げ、それに抒情性をもたらせる作りとなれば、並大抵の作曲・作詞術ではありません。

ということで、卒業ソングのリクエストには入ってこずとも、別れをシンプルに表現した、心地よいナンバーだと言えるでしょう。

TEXT 宮城正樹

この特集へのレビュー

男性

エンデュランス

2022/11/21 01:25

私はこの曲はこの世を去る家族や友人のことを思い描いたものではないかと解釈しています。

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