クリープハイプの原点
先日各種ストリーミング解禁された、クリープハイプが2010年にリリースしたアルバム「踊り場から愛を込めて」には、クリープハイプが現在の形になるに至るまでの布石を所々に感じられる。その一曲目に収録されている「リグレット」には、生粋のラブソングライターであるクリープハイプの原点が隠されている。歌詞を中心に考察した。
クリープハイプとは?
クリープハイプは、Vo./Gt. 尾崎世界観を中心にして、2001年に結成されたロックバンドだ。結成当時から何度かメンバーの変動があったものの2009年にGt. 小川幸慈、Ba. 長谷川カオナシ、Dr. 小泉 拓を正式メンバーに迎え、本格的に活動をスタートした。
「独特の世界観」の一言ではまとめられないクリープハイプの楽曲は、時に山が燃えるような怒りを訴えかけ、時にシトシト降る雨のように聴く者の心に沁み込んでくる。
それは、尾崎世界観(Vo./Gt)の唯一無二の歌声や、バンドが生み出すメロディの器の大きさが構成していることももちろんあるが、赤裸々でありながらどこか捻くれているその歌詞にも、重要な意味がある。
先日、各種ストリーミング解禁されたことでも話題になった、クリープハイプがインディーズのバンドとして、2010年にリリースしたアルバム「踊り場から愛を込めて」の一曲目に収録されている「リグレット」という楽曲には、まさにクリープハイプが掲げるラブソングとして欠かすことのできないメッセージが込められている。その歌詞を中心に考察していく。
時間が連れてくる二つの後悔
----------------
君がいなくなった日も僕はいつも通りで
とくに変わった事もなくて帰り道にCDを聴いてた
縺れた言葉は耳を傾けて 解いてやればよかったな
解いてやればよかったな
ずっと君を探してたんだよ
ずっと君を探してたんだよ こんな所にいたのか
別に話す事はないけど 別に離すこともないから
なんか嬉しいな
≪リグレット 歌詞より抜粋≫
----------------
別れを切り出した、切り出されたその日は、二人が離れてしまった理由も意味も、自分にはよく分からなかったから、悲しい気持ちも寂しい気持ちもそんなに湧かなかった。
その気持ちに共感できるかどうかは、きっと聴く者それぞれに依るところだろうが、その気持ちの現実味を孕んだ酸っぱさは、実感を持って理解することができる。
別れてから、多少なりとも時間を経て「ああ、こうしておけばよかったな」と、後悔する頃にはもう、離別という事実は過去のものになっているのだ。
そのifに対する後悔に気付いた頃にはもう、それ自身『思い出の一部』になってしまったという後悔も同時に歌っている。
クリープハイプが綴る「ラブソング」を知る
----------------
君が居なくなった日を僕は忘れてたよ
君が居なくなった日を僕は忘れてたよ
恥ずかしい髪型も難しい解釈で 誉めてやればよかったな
≪リグレット 歌詞より抜粋≫
----------------
----------------
いつも楽しい時だっていつも嬉しい時だって
あの日の事 思い出すよ
ずっと話す事はないけど ずっと離すこともないから
なんか嬉しいな
≪リグレット 歌詞より抜粋≫
----------------
この曲は決して、「君がいなくなった日」から「こうしておけばよかった」に気がつくまでずっと、別れを後悔していることを歌ったものではない。
「こうしておけばよかった」と、ふと思い立ったこと、そして「君がいなくなった日」のことが、自分の中で思い出の一つとして消化されてしまった、その瞬間のことを歌っている。
その瞬間は決して、一つの別れにつき一つというわけではないだろう。
何度も何度も、その擦り傷のような後悔を繰り返して、この詩はさらに意味を持つ。
「気付けたことが嬉しい」というフレーズは、この曲だけでなく、言葉を紡ぐアーティストとしてのクリープハイプの中身を除いてしまったような気持ちにもなる。
「リグレット」は、気付いた後悔を、またもう一度会って伝える必要はないと思うのだけれど、この気持ちを過去のことだと割り切って捨てる必要もないから、この歌を歌うのだ、という生粋のラブソングライターであるクリープハイプの原点の一縷を見る曲だ。
TEXT DĀ