「DAYS」はFLOWの転換点
パーティーバンドともいわれるほど、ノリがよくテンションの高いFLOWは、前向きな楽曲が多い。そんな中でリリースされた『DAYS』は、彼らの持つイメージをいい意味で壊した楽曲だ。『DAYS』がアニメ『交響詩篇エウレカセブン』のオープニングテーマになったことで、バンドとしての知名度は一気に広まった。アニメからFLOWの楽曲に興味を持つファン層は一定数いるが、『DAYS』はまさにそのきっかけを作った曲といえる。
アニメの主題歌であり、明るくハイテンションな楽曲からミドルテンポの楽曲へと、バンドとして新たなアプローチに挑戦し、FLOWはバンドとして、より一層表現の幅を広げた。
では、FLOWが新たなアプローチを確立するきっかけとなった『DAYS』の歌詞を見ていこう。
過去と現在の狭間で迷子になった「僕」
----------------
変わり行く季節が 街並み染めてゆく
曖昧な時間が流れて
涙色の空を 僕は見つめていた
悲しみの波が押し寄せる
≪DAYS 歌詞より抜粋≫
----------------
歌い出しの歌詞は、どこか夕暮れを思わせる描写だ。「変わり行く季節」で、時の流れを感じさせつつ、しかしそれは「曖昧な時間」だ。どこかぼんやりとしていて、自分が一体どこにいるのか、いまいち掴み損ねているような浮遊感が特徴的だ。
その理由は「涙色の空」「悲しみの波」という言葉から分かる。「僕」は悲しみに暮れて、現実を直視することが出来ず、ただぼんやりと過ごしているのだ。
涙でぼやけた空を「涙色の空」と表現することで、空の美しさやぼやけた視界、「僕」の心情がはっきりと見て取れる。無慈悲に流れていく時間と、立ち止まったままの自分。途方に暮れて動けない感覚は、誰しも味わったことがある、普遍的なものだ。
----------------
夢は遠くまで はっきりと見えていたのに
大切なものを見失った
≪DAYS 歌詞より抜粋≫
----------------
失ったものは夢なのか、人なのか。この道をまっすぐに進めば間違うことのなかったはずの未来。たしかに道は見えていたはずなのに、気付いたら足を踏み外し、たった一人で途方に暮れている。
「なぜ?どうして?」そんな心の叫びがこだまするような、悲しくも美しい歌詞だ。
----------------
夢は遠くまで はっきりと見えていたのに
あの日交わした約束は砕けて散った
激しく儚い 記憶のカケラ
たとえ二人並んで見た夢から覚めても
この想い 忘れはしない ずっと
≪DAYS 歌詞より抜粋≫
----------------
サビのフレーズが印象的な『DAYS』だが、夢も約束も叶うことなく、無に帰した。叶わないからこそ美しく、いつまでも心に焼き付いて離れない。そんな苦しみを「激しく儚い記憶のカケラ」と表現するところがニクい。
友達か、恋人か、同じ思いを抱き、同じ方向を見ていたはずの過去が鮮やかに甦る。それはまるで昨日のことのように想い出され、「僕」の心を掴んで離さないのだろう。
たった一度の嘘から始まる別れ
----------------
色褪せた景色を 風が流れてゆく
思い出は そっと甦る
通い慣れた道 歩み進んでも戻れない
最初の嘘 最後の言葉
≪DAYS 歌詞より抜粋≫
----------------
「色褪せた景色」「通い慣れた道」これがすべて、過ぎ去った日々を示している。とても慣れ親しんだ風景なのに、すべてがよそよそしく、虚しく遷ってしまうのは、大切な人がいないからだ。
「最初の嘘 最後の言葉」から分かるように、この二人には初めから終わりの予感が漂っていた。最初についた嘘がどのようなものであったかは定かでないが、小さな嘘がほころびを生み、二人の関係を変容させてしまう。
きっかけは小さな嘘、それが最後の別れの言葉にまでつながっていくところが深い。嘘はどちらがついたのか、分からない。しかし、嘘でつながれた関係であっても、「僕」は二人の時間を大切にしていたのだ。
終わってしまうことのないように、必死にもがき、あがき、たぐり寄せても、どんどん二人の距離は離れていき、やがて取り返しのつかないことになる。
ラップ詞が印象的なフレーズ
----------------
強がってばっか 誤魔化す感情に
過ぎ去った季節からの解答
So 今さら何も出来やしないって
分かってたってもぅ ダメみたい
所詮 繰り返すだけの自問自答 重ね続けてる現状
長い夜 一人静けさを照らす街灯
思い出が走馬灯の様にグルグル 脳裏を走り出す
淡い記憶に 何度もしがみつこうとするが消えてしまう
悲しみの Merry-Go-Round 真夜中の Melody Slow Dance
≪DAYS 歌詞より抜粋≫
----------------
KEIGOとKOHSHIのラップ詞が印象的なこのフレーズでは、取り返しのつかない過去にしがみつく切なさが痛いほど伝わってくる。
「今さら何も出来やしない」と分かっているのにあがいてしまう。「ダメみたい」という歌詞に、自分の感情なのに自分でコントロールできない焦りや悲しさがにじみ出している。
頭では、今さら、もう何をしても意味がないことも、別れを避けられないことも分かっているのに、いてもたってもいられない。まるで他人事のような「ダメみたい」は、自分で自分を持て余している「僕」の感情を、見事に言い当てているのだ。
遠く離れても忘れない人
----------------
あの日交わした約束は砕けて散った
激しく儚い 記憶のカケラ
たとえ二人 並んで見た夢から覚めても
この想い忘れはしない ずっと
追憶の日々が照らす 今を
≪DAYS 歌詞より抜粋≫
----------------
『DAYS』とタイトルからも分かる通り、この曲は二人の物語を描いている。二人で過ごした、過ぎ去ってしまった大切な日々、記憶。それは時を経ても色褪せることなく、むしろより一層鮮やかに輝いて「僕」を苦しめるのだ。
燃えるような青春か、甘酸っぱい恋か、苦い思いか。儚く散ってしまった大切な人とのかけがえのない時間は、忘れ得ぬ思い出となって、「僕」の心に生き続け、いつまでも過去の呪縛から解放してはくれないのだろう。
そして「僕」も、過去を抱きしめて生きることを受け入れている。「追憶の日々が照らす今を」と結んでいるように、胸を締め付けるほどに鮮やかな過去があるからこそ、今という時間が輝くのだ。
過去を抱いたまま歩み出していく「僕」は今、何を思うのだろうか?癒えない傷や忘れ得ぬ思いといった普遍的なテーマが、聴く人の心に刺さる名曲である。
FLOW 『DAYS』(Music Video Short Ver.)
TEXT 岡野ケイ