あいみょんの二面性を知る「今夜このまま」
2016年11月にシングル『生きていたいんだよな』でメジャデビューしたあいみょんは、2018年には紅白歌合戦の出場を果たすなど、現在幅広い世代の人気を博している。
シンガーソングライターとして、『君はロックを聴かない』や『愛を伝えたいだとか』など、多くの名曲を発表してきた。
あいみょんの楽曲には、『マリーゴールド』などのように少女漫画然とした情景が浮かぶ楽曲もあれば、アダルトな一面が垣間見えるような楽曲もある。
本作『今夜このまま』は、そんな“大人な”あいみょんの一面が見られる楽曲である。
また、この楽曲は、2018年に6thシングルとしてリリースされ、2019年2月にリリースされたアルバム『瞬間的シックスセンス』にも収録されている。
『今夜このまま』は、日本テレビ系水曜ドラマ「獣になれない私たち」の主題歌としても話題になった。
不器用な恋する大人に捧ぐ
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抜け出せない
抜けきれない
よくある話じゃ終われない
簡単に冷める気もないから
とりあえずアレ下さい
消えない想いは
軽く火照らせて飛ばして
指先から始まる何かに期待して
泳いでく 溺れてく
今夜はこのまま
泡の中で眠れたらなぁ
≪今夜このまま 歌詞より抜粋≫
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アルコールが抜けない “酔い”と、恋愛に染まっていく “酔い”を重ねて歌う『今夜このまま』。子供の頃は、純な気持ちで愛情を言葉にできていたけれど、大人になると、どうも身動きが取れなくなってしまう。
その足枷を、今夜少しだけ緩めてくれる、その一つの手段がこの曲では、「とりあえず」の一杯なのだ。
始めは誰だって、恋愛にもアルコールにも、息ができなくなるほど溺れるつもりはない。
それでも、徐々にのめり込んでいってしまう感情の機微を、『今夜このまま』は鮮やかに描いている。
抜け出せないのは二つの『酔い』
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そんなに多くはいらないから
幸せの横棒ひとつくらいで
満たされたい 満たしてみたい
乱されたい 会いたい
いつかの誰かに
やるせない
やりきれない
よくある話じゃ終われない
簡単に辞める気もないから
とりあえずアレ下さい
癒えない想いが
加速するばかりなんだ
止められない
放たれてく 夜になる
私はこのまま
≪今夜このまま 歌詞より抜粋≫
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始めは、小さな感情の起伏だった恋心は、大きくなるにつれ、様々な欲を引き連れてくる。
単純に、「好き」「愛してる」だけで繋がることができなくなってしまった大人の、葛藤にも似た恋心は、きっとテレビドラマの中だけの話ではない。
アルコールの酔いで隠していた本心が見えてしまう前に、酔いが覚めてしまう前にもう一杯、というのは一種の弱さとも言える。
『今夜このまま』には、一目惚れをしたり、愛の告白をしたり、そういったドラマチックな急展開はないけれど、徐々に全身にアルコールの酔いが巡って、体の自由が利かなくなっていくような恋愛に翻弄されていく様子が、リアリティを持って紡がれている。
少女漫画のような情景が浮かぶ楽曲だけでなく、『今夜このまま』のような、現実に生きる大人にも痛烈に刺さるメッセージを、あくまでキャッチーに歌うのが、あいみょんの魅力であるのだ。
TEXT DA