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待ち続けるのは誰?ヨルシカ「ノーチラス」に込められた祈り

透明感のあるヴォーカルと、一篇の物語を読んでいるかのような世界観が魅力のヨルシカ。8月28日に発売される2ndアルバム「エルマ」から、『ノーチラス』の歌詞や込められた思いを読み解き、聴く人の心を掴んで離さないヨルシカの秘密に迫ります。

夜明けの空気感まで感じさせる繊細な描写


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時計が鳴ったからやっと眼を覚ました
昨日の風邪がちょっと嘘みたいだ
出かけようにも、あぁ、予報が雨模様だ
どうせ出ないのは夜が明けないから
≪ノーチラス 歌詞より抜粋≫
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目を覚まさせる時計の音、風邪、雨と、冒頭から一篇の詩を読んでいるかのように、情景が浮かんでくる歌詞が並ぶ。

「風邪」という言葉1つで、体温や体のだるさ、朝の空気感などを表現するセンスは見事だ。

しかし、せっかく目を覚まして出かけようと思っても、雨模様の1日では、出かけるのも億劫だ。

「夜が明けない」というのは、心の夜明けでしょう。

悲しみの雨が降り、気分が塞いで、どうにもこうにも動き出すことができない気だるさを感じさせる。

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喉が渇くとか、心が痛いとか、人間の全部が邪魔してるんだよ
≪ノーチラス 歌詞より抜粋≫
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せっかく深い眠りから目覚めても、そこには紛れもない現実があり、自分を苦しめる。

夢の中なら忘れられた様々な感情が押し寄せてきて、身動きが取れない歯がゆさや苛立ちが滲んでいる箇所だ。

「さよなら」したのは誰?


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さよならの速さで顔を上げて
いつかやっと夜が明けたら
もう目を覚まして。見て。
寝ぼけまなこの君を何度だって描いているから
≪ノーチラス 歌詞より抜粋≫
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冒頭から漂っている気だるさや虚しさ、苛立ちといった負の感情は、この「さよなら」に繋がっている。

おそらく、大切な人と何らかの形で別れを迎えたのだろう。今はまだ悲しみの最中で立ち止まっている状況だ。

しかし、時を経て、いつか前を向ける時が来たら、その時にはちゃんと見つめてほしい。

ここへ来て、始めて「さよなら」したのは自分ではなくて「君」であることが分かる。

大切な何かとの別れを経て、まだ闇の中にいる「君」はまだ、こっちを見てくれない。

だからずっと夜明けを待っているのだ。いつかこっちを向いてくれる日を夢見ながら。

その日を何度も思い描く心が、どこまでも純粋でけなげである。

どこにも行けない日々


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傘を出してやっと外に出てみようと決めたはいいけど、靴を捨てたんだっけ
裸足のままなんて度胸もある訳がないや
どうでもいいかな
何がしたいんだろう
夕飯はどうしよう
晴れたら外に出よう
人間なんてさ見たくもないけど
≪ノーチラス 歌詞より抜粋≫
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2番では、雨の中出かける気持ちにようやくなったものの、肝心の靴がないことに気付いて呆然としている。

靴は自分を守る防具で、心に吹く隙間風や切なさ、虚しさを遮ってくれるもの。

そんな防具もなくしてしまった丸裸の心で、外に出て行くことはできない。

せっかく決意を決めたのに、外へ行くための用意がない。結局また、どこへも行けない自分に逆戻りだ。

「晴れたら外に出よう」というのは、心に降る雨が止み、外へ出て行ける準備が整ったら、という意味にも取れる。

しかし、雨だから出かけられないと言い、次は靴がないから外へ行けないと言っている。

晴れ間を待っているというのは、ただ言い訳を繰り返しているようにも見えるのだ。

外に出て人と触れ合うのが怖い。安全な場所に引きこもっていたいという負の感情は、ずっと漂ったままだ。

2人でまた会えるという幻想


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このままの速さで今日を泳いで
君にやっと手が触れたら
もう目を覚まして。見て。
寝ぼけまなこの君を忘れたって覚えているから
≪ノーチラス 歌詞より抜粋≫
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“憂鬱な気持ちを抱えながら、それでも自分なりにまっすぐ進んだら、その先で君に会える。

その時には、君は自分を見てくれるんじゃないか”そんな幻想を抱いて、今日を生きていくのでしょう。

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丘の前には君がいて随分久しいねって、笑いながら顔を寄せて
さぁ、二人で行こうって言うんだ
ラップランドの納屋の下
ガムラスタンの古通り
夏草が邪魔をする
≪ノーチラス 歌詞より抜粋≫
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久しぶりの君に会える日を心待ちにしながら、会えた時にはどんな会話をするのか、どんな風景が広がっているのか、胸に描きます。

そうすることで、暗く冷たい、億劫で憂鬱な日々を、何とかやりすごそうとしているのです。

「ノーチラス」に込められた思い


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このままの速さで今日を泳いで
君にやっと手が触れたら
もう目を覚まして。見て。
君を忘れた僕を
≪ノーチラス 歌詞より抜粋≫
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「君を忘れた」と言いながら、ずっと「見て」と語りかけ、「寝ぼけまなこ」の姿を思い描くのは、忘れようとしても忘れられないからです。

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さよならの速さで顔を上げて
いつかやっと夜が明けたら
もう目を覚まして。見て。
寝ぼけまなこの君を何度だって描いているから
≪ノーチラス 歌詞より抜粋≫
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どんなに時間がかかっても、ここで待っている。いつか君が目を開けて、しっかりと自分を見つめてくれるその日まで。

「ノーチラス」にはギリシャ語で水夫や船舶という意味があります。

いつ目覚めるかもしれない人を、じっと待ち続ける姿は、自然に左右されながらもじっと耐え忍び、恩恵を手にする水夫の姿に似ています。

魚がかかるまで、ずっと待ち続けるように、「君」がこっちを見てくれる、他でもない自分を見つめてくれる日を待ち焦がれる。

そんな切なく、淡い思いが漂う、美しい楽曲です。


TEXT 岡野ケイ

<n-buna(ヨルシカ) profile> 2012年から活動を開始したサウンドクリエイター。 「透明エレジー」「ウミユリ海底譚」「夜明けと蛍」「メリュー」「アイラ」「白ゆき」と多数のミリオンヒット曲を投稿し、2015年「花と水飴、最終電車」、2016年「月を歩いてる」の2枚のボーカロイドオリジ···

この特集へのレビュー

男性

みみ

2020/06/23 10:29

あくまでも僕の勝手な考察と感想なのですが、

①この歌はエルマとエイミーの物語だと言うこと
②エイミーが人生の最後に書いた歌であること
を考えながら聞いていたらラスサビ前のCメロから少し考えが変わってきました。
「丘の前には君がいて随分久しいねって、笑いながら顔を寄せて
さぁ、二人で行こうって言うんだ」
エルマとエイミーは昔2人で音楽活動をしていました。
しかし、2人は解散しその後にエイミーの寿命が1年しかないことがわかり、彼は人生をかけた旅に出ます。そしてその最後の詩がこの曲です。彼は最後までエルマが久しぶり、2人でまた音楽をしようといってくれるの待っていたのかな。

そして、その後改めて繰り返しのサビがきます。
「さよならの速さで顔を上げて
いつかやっと夜が明けたら
もう目を覚まして。見て。
寝ぼけまなこの君を何度だって描いているから」
何から目を覚まして欲しいのか、なぜ寝ぼけまなこなのか。
僕は、彼はエルマが再び目を覚まし音楽を志すのを待っていたのだとおもいました。そして、音楽を再び始めるから寝ぼけまなこなのかなと。そしてそんな日を何度も描いていたのかと。
以上です。

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