この作品のユニークなところは、the pillowsの30周年記念映画として作られたにも関わらず、物語の主人公が一人のカメラマン志望の青年であり、あるきっかけでthe pillowsを知り、深くかかわっていくことになるというもの。
山中はこのアイデアについて「CDや映像などで、自分たちのことを知るすべはあるが、この映画ではそれらでは見られない別の側面を見せたかった」と述べています。普通であれば主人公はミュージシャンを想像しますが、敢えて「the pillowsが好きな青年」にスポットを当てたという点に、この作品の面白さがあります。
キャストは、主人公・祐介を俳優の岡山天音が担当、その他に後東ようこ、岡田義徳らをはじめ実力派俳優陣が集結しています。その一方で、山中をはじめゲストミュージシャンとしてthe pillowsの面々に加え、the pillowsにゆかりのあるミュージシャンが総出演し、作品に花を添えています。
今回は山中に、改めてthe pillowsのこれまでの活動を振り返ってもらうとともに、映画作りの意図や作品を作り上げた現在の思いなどを語ってもらいました。
「今までやったことのないことを」と考え企画した映画
──いよいよ今年はthe pillows結成30周年を迎えますが、この30周年を振り返るといかがでしょう?山中さわお:いや〜やっぱり30年は長いですね。バンドがそんなに長く続くとは思っていませんでした、僕自身が一つのことをそんなに長く続けられる人間だと思っていませんでしたし。
それにやっぱり人間が3〜4人も集まると、いつも絶好調、という風にはいかないですしね。
まあ別にバンドに限らず、そういう人間が集まって同じことを続けるというのは、難しいことだろうなと思っていたので、本当にこんなに続くとは思っていませんでした。
──でも30年も続くと「35年なんてすぐだな」とか「40年はいけるような気がしてきた」という感じも…
山中さわお:まあ、もうやめる理由がないですよね(笑)。そうはいってもペースは落ちるんじゃないかなと思います。
毎年ずっとアルバムを出して、27公演ツアーをやるということをずっと続けてきたけど、…やっぱり年齢的にそろそろ難しいのかな、って。
だから今の自分たちにふさわしいペースを作らなければ、という課題はあります。
──一方で作るもの、書くものというものはこのタイミングに変わっていきそうだということを意識したりはしますか?
山中さわお:確かに。たとえば歌詞なんかは、若いときに作った曲の中には、今でも違和感なくいけるものと、“ちょっとこれは50歳の顔で歌うにはしっくりこないな”というものもありますし(笑)。当然新曲を書くときにも、その難しさはあります。
かといって“まあまあ売れて、まあまあ金を持っていて平和ですよ”なんて歌詞は誰も聞きたくないでしょう?(笑)。
僕らも歌いたくないし。歌いたいことのテーマというのは、それほど大きく変わっていないので、ずっと同じようなことを歌っていくんだな、とは思っています。
その中で、表現の仕方が今の自分にフィットするものを、選ぶようにはなっていると思います。
──そういったことは、自然に変わっていってる感じなのでしょうか?
山中さわお:いや、意識的にというか、そんな思いが頭をよぎったことはありました。20周年を超えたあたり、40歳を超えたあたりで…歌詞だけでなく髪型やファッション、すべてなんですけど、どういう風にやっていけばいいんだろう?みたいなことを。
若作りみたいなのは一番ダメだと思うし、うまく若く見える秘訣みたいなのを追究するんじゃなくて、格好はおじさんでもカッコよくならなければ、と思ったので、そのことはすごく頭にあったんです。その中で歌詞も、今の自分たちに対して違和感がないことを書こうとは思っています。
──今回、30周年の記念として作られた映画はタイトルを『王様になれ』とされましたが、それはたとえば2017年にthe pillowsの曲『王様になれ』の詞ができて以降、今までずっと頭の中で、なんらか引きずっていたものがあったのでしょうか?
山中さわお:いや、そこまで複雑に考えていたわけではありませんが…この曲名を映画のタイトルにした理由は、もっと単純なものです。映画のタイトルを、the pillowsのファンならみんな知っている僕らの代表曲にしてやろうといろいろ考えたんですけど…
たとえば「Fool on the planet」という曲があります。「星の上の愚か者」というタイトルで、歌詞の内容とかは映画の内容ともとてもフィットするんだけど、映画のタイトルとしては弱いな、と思って。
カタカナとか英語って、なんか入ってこない感じがするんです。そこでなにかワンワードで強い言葉を探したときに、「王様になれ」というのが強いかなと思って。
──そうでしたか。それにしても印象的なタイトルですよね。30周年の記念に映画を作ろうと考えられたのは、どんなきっかけがあったのでしょうか?
山中さわお:僕らはアニバーサリーを15周年、20周年、25周年と、3回ほど大きなものをやっていて、いろんな企画をだいたいやってしまっていたんです。ドキュメンタリーというのも、15周年のときにやったし。
で、自分が今までやったことのないことをやりたい、そして周りのバンドがやってないことをやりたいという欲があり、オリジナルストーリーで俳優さんがお芝居をするという映画、そこにミュージシャンが本人役で登場するというのを思いついたんです。
もともと映画を作ってみたい、という思いはなんとなく30代くらいからあったんですが、それがここにきて実現したという。今回は監督・脚本をやっていただいたオクイシュージさんありきの話だったんですね。
だからオクイさんが引き受けてくれたら成立するだろう、と思って。逆にオクイさんに断られたら、映画を作っていないです。
──原案は山中さんのほうで書かれたということですが、この中で主人公の青年がカメラマン志望となっていますが、それはどんな経緯で出てきたキャラクターだったのでしょうか?
山中さわお:僕は自分にまったく接点のないことを物語にする能力はなくて、自分が経験したことしかわからないんです。
その意味だと、原案で出てくるキャラクターの職業は、実際に無名のクリエイターが僕と出会わなければならない。
そういうことが実際にあり得る職業というのは、僕にはカメラマンとデザイナーの二つしかありません。
デザイナーはどうしても仕事がインドアなので、仕事で僕と絡むのは、現場では無理。だからカメラマンのほうが都合がいいと思って。ライブでも撮影しますしね。
──あくまで祐介という主人公は、山中さんの完全なオリジナルということで?
山中さわお:そうですね。ただ僕の描いた最初の原案では、祐介はもっと偏屈でもっと人とのやり取りが下手なキャラクターを書いていたんです。
それをオクイさんがちゃんと魅力的なキャラクターにしてくれました。結局、どんな役であれ主役は魅力的に見えないといけない。だからそういう風に変えて、いい感じにしてくれました。
──このキャスティングされた俳優陣のイメージはいかがでしたでしょうか?先程最初の原案では”相当偏屈な人”というお話でしたが、それに比べると主演の岡山さんは、ちょっと違う人のような感じでもありますが…
山中さわお:いや、それがまったく逆。「この人はどうですか?」と紹介された何人かの中に岡山さんがいたんですが、そのときに彼は、たまたまその直前に『純平、考え直せ』という映画に出ていたんですよね。
その映画でちょうどthe pillowsは主題歌を担当していたこともあって知っていたんですが、彼はこの映画ではかなりきつい、”嫌な奴”の役だったんです、めっちゃ怖い役柄で。だから「こんな怖い人はダメだ、そんな怖い人は無理」って(笑)。
でも紹介された際にもらった宣材写真を見たら、すごく優しい顔で、「あれっ?全然違う!?」とずいぶん印象が変わりました。この子は本当に演技がうまいんだな、と思ったんです。
また、若いときの僕の髪型に似ていたこともあったんです。今は僕も髪型変えてしまいましたが、もともと髪も短かったし。そういうところもあって、とてもいいなと思いました。
Vo, G 山中さわお、G 真鍋吉明、Dr 佐藤シンイチロウ。 1989年結成。2004年の結成15周年では、Mr. Children、ストレテイナー、BUMP OF CHICKENなどが参加したトリビュートアルバム『シンクロナイズド・ロッカーズ』をリリース。2005年からは海外での活動も開始し、7度のアメリカツアーの他、メキ···