触れない愛と嫌悪感
タイトルにある「ポリアンナ」には「極端に楽観的な人物」を指すことばである。
これは、アメリカの児童文学から生まれた言葉であり、この小説に登場する主人公「ポリアンナ」は、辛く困難な状況でもよかったことを探して、明るく前向きに生きようとする少女である。
そしてそこから楽観さが強調され、イメージづけられたのが以上の言葉だ。
この歌詞に出てくる“あなた”は、タイトルにある、「極端に楽観的」で、第三者の抱える心の内に気づかない性格である。それを踏まえて考察していく。
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街に降る雨と鈍い灯り
夜光虫はまた渦となる
朱く錆びついた傘で二人
満たしていたいのは 空っぽな心
≪ポリアンナ 歌詞より抜粋≫
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陰湿な空気を帯びた夜雨。それを不安定に燈す街灯。この風景が、心を覆うモヤモヤを鈍く表している。
そしてその灯りに纏わりついて、グルグルと渦を描き廻り続ける虫たち。
まるで解決の糸口を見いだせずに抜け出せない思考のように、同じ場所をただひたすらに動き続ける。
決して綺麗な状態とは言い難い錆びついた傘の中で並ぶ、あなたと二人。満たしたいのに満たされない空っぽな心を引きずり歩いている。
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触れない愛と日々の香り
その情景がまた日々となる
甘く溶けそうな言葉を吐く
満たして痛いのは
≪ポリアンナ 歌詞より抜粋≫
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届けたいのに届けられない恋心を巣食わせたまま、幾度も過ぎる日々が気づけば日常になっていく。
その悩みに気づかないあなたは今日も、楽天的な言葉を述べ、能天気なままでいる。
そのもどかしさと苛立ちが、いつのまにか心の痛覚を刺激しだした時、愛や恋とは真逆の感情が芽生えだすのだ。
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嫌いだ あなたの 態度 言葉 その仕草も
壊してしまえたなら どんなに楽だろうか
≪ポリアンナ 歌詞より抜粋≫
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こちらの気も知らないで、楽観的なままのあなたの全てが嫌になってくる。それは愛や恋とは反対にある憎悪の心。
自分を苦しめる全てのものを破壊すれば、解放されるはずだ、という心の悲鳴が本当に望んでいた反対側へ手招きする。
その心は、自らを形成するあらゆる心を守ろうとする防衛本能なのかもしれない。
そしてその破壊への衝動を自制しているのは、人間として備えられた理性と、どうしても切り離せない恋心という本能だ。
だがこの恋心が、そもそも全ての鬱屈の原因であり、根本である。
もし、それを簡単に切り離せれば、内側で燻り続ける黒いものはあっという間に消え失せるだろう。その方が合理的なのは確かだ。
しかしそれをまた本能が邪魔をする。結果、錯綜する本当と理性に苛まれ、何も出来ずに悶々と立ち尽くして抜け出せない自分が完成する。
そして、内側は負のスパイラルへと落ちていくのだ。
見たくない愛
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霞みゆく灰を目で追うまま
その造形にまた嫌気がさす
≪ポリアンナ 歌詞より抜粋≫
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何処から来たのか。
ふと、僅かに塵になりきれない灰が視界に入る。何気なくその灰を目で追ってしまう。
灰はゆっくり細々とした塵へと形を変え、空気へと溶けていく。
その姿を見て、自分の内側で燻る黒いものを思い出してしまう。
激しく燃えることもなく、別のものに生まれ変わることもなく、ゆっくりと灰だけを撒き散らし、その欠片も何にもならずに塵になって消えていく。
どうにもならない内側の姿と、この事実すら灰のように消えてあなたに届かないことに、また激しい嫌悪感が湧き上がってしまうのだ。
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嫌いだ あなたの恋を知った その心も
奪ってしまえたなら どんなに楽だろうか
≪ポリアンナ 歌詞より抜粋≫
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自分の抱える想いにも気づかず、あなたは他の人を好きになってしまう。
その事実に気づき、浮かれるあなたを見て、より強い憎悪と、すれ違い続ける事実に打ちのめされる。
その結果また全てをリセットしたい衝動に駆られてしまうのだ。
昇らない愛は夜の底
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ねえ 遠く行ってしまえ 逆さまの心と
夜の底で二人 ほら また繰り返してしまう様だ
≪ポリアンナ 歌詞より抜粋≫
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元々あった恋心は、いつしか対極に位置する憎しみと嫌悪感に支配されつつある。
そしてやがて、自分の本心が何処にあるのか分からなくなっていく。
もしも、どちらか一方の心とあなたが消えてなくなれば、現在悩まされる思考の土壺から抜け出すことができるのであろう。
だが、結局何も出来ないまま、陽の昇らない夜の底で、何も気づかないあなたと、何もできない自分の二人でどうしようもない日々を繰り返してしまうのだ。
ポリアンナ
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嫌いだ あなたとあたしの間 その全てを
満たしてしまえたなら どんなに楽だろうか
≪ポリアンナ 歌詞より抜粋≫
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“嫌いだ嫌いだ嫌いだ”
嫌悪の言葉を繰り返して抜け出せないイマを変える方法はある。
それは、その心が生まれる前の思いを素直に伝えることだ。
複雑化した心を一度ろ過してシンプルにすれば、そこには好意が残るはずである。それを届ければいい。
その思いなら、複雑化した感情、特に負の想いが見えづらいポリアンナにも届いて、二人の間に自然と出来た溝を埋めてくれるだろう。
以上の行動一つで満たされることは、悩む本人はわかっている。
だが、やはり合理性のみで行動することは困難であり、複雑な感情が同等の質量でのた打ち回るのが人間だ。
結局、いつまでも夜雨が降り続ける日々は続き、二人の関係が容易に変わることは無いのであろう。
TEXT 京極亮友