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夜を変えた虹、BUMP OF CHICKEN「月虹」の意味とは?

BUMP OF CHICKENの7thアルバムに収録され、TVアニメ『からくりサーカス』の第1クールのOP及び第3クールEDに起用された『月虹』。運命に翻弄される主人公達の物語を彩った本曲を読み解く。
数奇な運命に導かれながら絶望に立ち向かってきた主人公達を描いた、TVアニメ『からくりサーカス』。

そのオープニングテーマとエンディングテーマの両方に起用された『月虹』は、作品の顔というべき曲であり、大きな挫折を負った人間が、異なる人間の生き様を目にし、再び立ち向かう力を手にする、という物語の根底に流れたテーマをバンドの世界観で見事に描いた歌詞が魅力である。

その歌詞の意味を独自に解読していく。

空っぽな心


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夜明けよりも手前側 星空のインクの中
落として見失って 探し物

心は眠れないまま 太陽の下 夜の中
つぎはぎの願いを 灯りにして
≪月虹 歌詞より抜粋≫
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突然、これまでの日常が壊されてしまう。

ずっと持っていた夢がバラバラに破かれる。

信じていたものに裏切られてしまう。

そんな望んでもいない絶望に突き落とされた時、何処に向かうべきか見えていた光が消えさり、暗闇の世界に包まれてしまう。

”夜明けの手前”、
それは暗闇が蔓延る真夜中のことであり、これまでの常識や希望、夢を落として見つからないまま、この人物は彷徨っている。

どうしようもなく迷子になっている心は、身体は陽に照らされていようとも、ずっと暗闇にいるようで、僅かに持っている、バラバラになった夢の欠片によって何とか息をしている現状であることがわかる。


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何も要らない だってもう何も持てない
あまりにこの空っぽが 大き過ぎるから
≪月虹 歌詞より抜粋≫
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人間は、一度でも夢や希望を持ってしまえば、それを失った時、何も持っていなかった自分に戻ることはできないものだ。

かけがえのないモノがあったはずの場所に、ぽっかりと大きな穴が生まれ、それは強烈な虚無感を生み出してしまう。

更に、その空っぽな穴は、形が固定されてしまっているので、他のモノで代用することは難しい。

大きすぎる虚無感は、その穴を埋められるはずのない雑多なモノを拒み続ける力しか与えてくれないのである。


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たった一度だけでも頷いて欲しい
鏡の様に手を伸ばして欲しい
その一瞬の 一回のため それ以外の
時間の全部が 燃えて生きるよ
≪月虹 歌詞より抜粋≫
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もしも、まだこれまでの希望や夢が息をしているなら、形を表して返事をして欲しい。

虚無感を否定して、空っぽな心を僅かでも埋められる何かに、届いてほしい。

それを望む自分のままに手を伸ばして欲しいと、願う気持ちが、成就する一瞬だけの為だけに自分を動かそうとする意志がここからわかる。

”何も要らない”といっていた理性を、僅かな希望の可能性へと向かう本能で覆そうとする一節といえよう。


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僕の正しさなんか僕だけのもの
どんな歩き方だって会いに行くよ
胸の奥で際限なく育ち続ける
理由ひとつだけ抱えて
いつだって 舞台の上
≪月虹 歌詞より抜粋≫
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自分の人生を生きる自分こそ、自分の世界の主役である。

その主役の心にあるモノは、誰のモノでもない自分のモノだ。

夢だろうが希望だろうが、自分の指標で作り上げられた心にあるモノは、自分のモノといえる。

つまり、自分が描いたそれらの“正しさ”は他人が判断することではない。

誰かの権利を侵害するモノでない限り、誰かに侵害されていいモノではないのだ。

“正しい”と判断して生まれた心にあるモノの正しさは、自分のモノである。

それはつまり、その“正しさ”を証明することは自分にしかできないことといえよう。

だからこそ、どんな形であろうとも、自ら決めた正しさへと向かう為に生きようとする強い思いが、ここから感じられる。

生きている限り、世界という“舞台”からはけることはない。

“いつだって舞台の上”の演者であり、其々の正しさを証明できる主役なのであると、ここでは教えてくれている。

あなたの呼吸のせいで


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思い出になれない過去 永久リピート 頭ん中
未だ忘れられない 忘れ物
謎々解らないまま 行かなくちゃ 夜の中
今出来た足跡に 指切りして
≪月虹 歌詞より抜粋≫
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“トラウマ”というものは、過去に経験した深い心の傷が、そんなこともあったな、と”思い出”という跡にもならず、記憶の忘却といった形で治ることもなく、いまだに生々しく残っているからこそ、痛みと共に頭を巡ってしまうものだ。

それほど深く心に付けられた絶望は、悔恨の念とともに、過去の忘れ物ととして忘れられないまま現在の自分を縛ってしまうものである。

あの時何をすればよかったのか、とか、あの時の経験を何処で生かせばいいのかとか、そんな疑問が、心の傷から次々と湧いてきても、誰もその疑問を解いてはくれない。

それでも人生は容赦なく進んでしまう。

たとえ何も分からなくても、光が見えない暗闇の中でも、進んでいくしかないのだ。

過去の答えも未来へのヒントも分からなくても今を進まなければならない、だからこそ、せめてこれまで歩んできた人生だけは、忘れずに残していかなければならない。

もしかしたら、いつか、その疑問が分かる時がくるかもしれないのだから。

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同じ様な生き物ばかりなのに
どうしてなんだろう わざわざ生まれたのは
≪月虹 歌詞より抜粋≫
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顔や体型の多少の違いはあれど、世界は似たような人間で溢れている。

更にその数は日に日に増していっている。

その世界に、誰にでも似た自分が生まれた理由は何なんだろうか?

といった、普遍的でありながら壮大な疑問をここで投げかけることで、前述してきた、自分だけの人生と疑問に対して、自分だけの答えを見つけなければならない重要性が際立って聞こえる。

受け取った人がより深く考えさせるために必要な大切な一節といえよう。


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世界が時計以外の音を失くしたよ
行方不明のハートが叫び続けるよ
≪月虹 歌詞より抜粋≫
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誰の元にも平等に進む時間を、正確かつ詳細に表示してくれる時計。

それを基準に、人間は生活スタイルを確立してきた。

だが、全員に平等に流れる時間を無駄にしない為に生み出された合理的な手段といえるそのスタイルは人間から人間らしさを奪っていった。

その結果、人間社会は殆ど画一化され、これまであった生物らしい音が消えて、機械的な時計の音だけが響くようになってしまった。

画一化された無機質な世界に溢れてしまったが、人間の悩みが平等に無くなることはない。

誰しも心には悩みが付きまとう。

その痛みで心は叫び声を上げる。

しかし、人間的な暮らしから外れた世界では、その声の出所が見えづらくなってしまう。

確かに叫ぶ心が何処で叫んでいるのか、また何処に導けばいいのか、その判断もままならないまま、機械的に生活に流されて、心を救えないどうしようもなさと、それでも諦めきれずに意識し続けていた僅かな思いが、ここでわかる。


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あっただけの命が震えていた
あなたひとりの 呼吸のせいで

いつかその痛みが答えと出会えたら
落ちた涙の帰る家を見つけたら
宇宙ごと抱きしめて眠れるんだ
覚えているでしょう
ここに導いた メロディーを
≪月虹 歌詞より抜粋≫
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挫かれた人生の末、空っぽになってしまった心、正しさを求めながら、行方不明になったまま絶望の淵にあった心。

呆然としていた心を内包して、ただ機械的に息をしていた彼の命が、あることをキッカケに震えていた。

それは、たったひとりの命を目の当たりにしたことである。

おそらく彼の心とは真逆にある心、希望や夢を諦めない、強く人間らしい呼吸をしていた心だと思われる。

その人間らしく命を燃やす、美しい呼吸は、彼が諦めようとしていた理由全てを否定するのには十分だったといえる。

彼の命が人間らしく生きようと、痛みと喪失感に向き合えば、やがて、全てを認められる答えに出会えることを唄っているのだ。

月が見せた虹


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耳と目が記憶を 掴めなくなっても
生きるこの体が 教えてくれる
新しい傷跡に 手を当てるそのたびに
鮮やかに蘇る 懐かしい温もりを
≪月虹 歌詞より抜粋≫
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もしも、自分の耳や目に飛び込んだ情報から、過去の出来事を認識できなくなっても、本当に大切なことなら、過去から共に生きてきた身体全部が反応してくれるはずだ。

それが人間の本能と呼ぶべきものであり、人間という生き物がもつ、らしさといえる。

トラウマを越えて生まれた新しい心の傷跡に触れて、もし、それがついた理由と記憶を忘れてしまっても、身体全部が、その傷の理由、そして傷から得ることができた強さを教えてくれるであろう。


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世界が笑った様に輝いたんだよ
透明だったハートが形に気付いたよ
どこに行ったって どこにも行かなかった
あなたひとりとの 呼吸のせいで
≪月虹 歌詞より抜粋≫
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絶望から心が掬いあげられた彼の目に映る世界は、決して機械的で無機質な暗いモノではなく、自分を迎え入れてくれているように笑う希望を感じるモノになっている。

その世界が見えたとき、彼の空っぽな心の穴は埋まり、自分の心が今どんな形をしていたのかに気づくことができるのだ。

命を感じられる世界を再び目にすることができたのは、正しく自分の為の呼吸をしていたあなたと、それに共鳴することができた自分自身が確かにいたからといえよう。


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たった一度だけでも頷いて欲しい
どんな歩き方だって会いに行くよ
あっただけの命が震えていた
理由ひとつだけ 虹を見たから
いつだって 舞台の上
≪月虹 歌詞より抜粋≫
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彼が心を、人間が持つべき心を感じたキッカケになったのは、あなたが見せてくれた、ただ迷子になっていた暗闇を、望む場所へ導いてくれる光のような希望であった。

その光は、まさに真夜中を生きる月が生み出した虹といえる。

ただあるがままに夜の真ん中を生きる月が、その命から自然に作り出した虹は、いずれ来る終わりまで決して無駄にしない決意を持つ真っすぐな自分がいる証であり、誰の為のものでもない。

しかし、その虹を彼は見てしまった。

誰の為のものでもないその光は、何の為に生きるか見失いかけた自分を震わせるには十分であった。

たったひとりが見せた、たったひとつの美しくも儚い虹は、それだけで、この世界という舞台で生きるには十分すぎる理由になったのだ。


“あなた”が作り出した虹は、彼の心へと架かり、彼を照らしながら、バラバラにしてしまった夢や希望を正しい形へと繋いでくれよう。

そして、やがて来る夜明けへと導いてくれるはずだ。

人は死ぬまで、舞台の上の演者であり主役である。

そこから逃げることはできない。

それなら、光に照らされ命を魅せる為に生きることこそ、人間らしい生き方であろう。


TEXT 京極亮友

BUMP OF CHICKENは、トイズファクトリーに所属する4人組のロックバンド。独特な世界観とボーカル藤原の圧倒的歌唱力、更にはドラマの他、アニメやゲームとのタイアップ曲も多く、幅広い年齢層から支持を集めている。 幼稚園時代からの幼馴染であり、1994年、当時中学校の同級生であった4人が、文···

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