AI等の科学技術が発展し、将来的な活躍を夢見る現代だからこそ描けるサイエンス・ファンタジー。しかしその未来は、果たして夢と幸福にだけ溢れた世界なのだろうか。楽曲の歌詞から、映画の世界観を探っていく。
やり直したい過去、取り戻したい人
----------------
何度失ったって 取り返して見せるよ
雨上がり 虹がかかった空みたいな君の笑みを
例えばその代償に 誰かの表情を曇らせてしまったっていい
悪者は僕だけでいい
≪イエスタデイ 歌詞より抜粋≫
----------------
過去に戻り、今は亡き誰かとまた出会えるとしたら、あなたは誰を選ぶだろうか。
主人公・直実の未来の姿として登場するナオミ。彼は、後に失われてしまう恋人・瑠璃を取り戻すために直実の世に現れた。
この世は生と死の連鎖で成り立っている。彼女を救おうとすれば、別の誰かの命は失われる未来に刷り変わるかもしれない。
しかし、ナオミはきっとそんなことは気に留めない。誰を犠牲にしようと、世界が危機に晒されようと、厭わないだろう。
----------------
本当はいつでも誰もと思いやりあっていたい
でもそんな悠長な理想論はここで捨てなくちゃな
≪イエスタデイ 歌詞より抜粋≫
----------------
本当はすべての人にとって優しく幸せに満ちた世界を望んでいる。しかし、彼女を取り戻すためならば、自分が世界の敵となろうとも構わない。それほどまでに強い意志で、彼は直実の世に現れたのだ。
この歌の歌詞は、そんな瑠璃をめぐる直実とナオミの想いにより紡がれている。
「イエスタデイ」は過去の象徴
----------------
遥か先で 君へ 狙いを定めた恐怖を どれだけ僕ははらい切れるんだろう?
半信半疑で 世間体 気にしてばっかのイエスタデイ
ポケットの中で怯えたこの手は まだ忘れられないまま
≪イエスタデイ 歌詞より抜粋≫
----------------
“また会いたい、話がしたい”と思い描く過去の人物に再び会うことが可能な技術があるとしたら、人はそれを利用せずにいられるだろうか。
その人が失われるという悲しく恐ろしい未来を知るからこそ、何としても救いたいと願うのは至極当然のことだ。
今を生きているからこそ、ずっと意識してしまう「イエスタデイ」。これはつまり、すべての「過去」の象徴ではないか。
その人が生きていたことも、失われてしまったことも、すべてはもう終わったこと。もう覆ることのない事実だ。
だからこそ、人は考えてしまう。“もしあの時こうしていたら”、“あの時そう言えていたら”と。人はきっとその呪縛からは逃れられない。
しかし、その過去を変えられる可能性を持つ技術の存在する『HELLO WORLD』の世界。主人公が選んだ行動は、先述の通りだ。
直実とナオミが最後に選ぶ世界は
----------------
バイバイイエスタデイ ごめんね 名残惜しいけど行くよ
いつかの憧れと違う僕でも
ただ1人だけ 君だけ 守るための強さを 何よりも望んでいた この手に今
≪イエスタデイ 歌詞より抜粋≫
----------------
時計の秒針のような音が刻まれる中語られる歌詞は、妙に寂しげで印象的だ。
我々が生きられる時間には限りがある。大切な誰かと語り合える時間も、決して永遠ではない。
現にこの世界では瑠璃は既に運命が確定した存在。彼女を救い出せるまでの時間は、僅かしかない。
そして、ナオミが未来から過去を覗きこむ間にも、未来での時間は流れている。きっと限りがあるのではないだろうか。そんな各々のタイムリミットを感じさせるキーワードが散りばめられている。
しかし、強さを得られたのだと自信を持って語る歌詞に、そんな焦燥や悲嘆は感じられない。
----------------
遥か先へ進め 幼すぎる恋だと世界が後ろから指差しても
迷わずに進め 進め 2人だけの宇宙へと
ポケットの中で震えたこの手で今 君を連れ出して
未来の僕は知らない だから視線は止まらない
謎めいた表現技法 意味深な君の気性
アイラブユーさえ 風に 飛ばされそうな時でも
不器用ながら繋いだ この手はもう 決して離さずに
虹の先へ
≪イエスタデイ 歌詞より抜粋≫
----------------
今までのサビの歌詞とは異なり、過去を意識させるキーワードが消えた。最新の技術を持ってしても、まだ見ることの出来ない自身の可能性=新たな「未来」に向けて、一気に進む道が開けたかのような印象だ。
悔やみ、嘆き、ポケットの中で震えていたその手は、ついに大切なその人の手を掴んだ。彼らはもう迷うことなく邁進して行けることだろう。
さて、そうして2人だけの新しい未来へと旅立てるのは、一体誰だろうか。物語の最後に瑠璃の手を握り共に歩むのは、直実か、それともナオミか。
是非、あなたの目で結末を見届けて頂きたい。
TEXT 島田たま子
↓こちらの記事もおススメ!
Official髭男dism (オフィシャルヒゲダンディズム) 山陰発4人組ピアノPOPバンド。2012年6月7日結成、島根大学と松江高専の卒業生で結成されており、愛称は《ヒゲダン》。このバンド名には髭の似合う歳になっても、誰もがワクワクするような音楽をこのメンバーでずっと続けて行きたいという意思が···