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【インタビュー】sajiの新曲、明日の自分は「ずっと」未定。だから「きっと」…。歌詞の向こうにある希望。 (2/2)


曲の中に必ず入れること

──曲作りに対して、他にポリシーは? 

ヨシダ:100自分が出来ることがあった場合、100は出さない。どういう意味なのかというと、今の自分にとっての100っていうのは、昔の自分にとっての1000かもしれないじゃないですか。例えば、ユタ二くんのギターが10年前より上手くなってて「俺、こんなにうまくなりました」ってテロテロテロテロ(←早弾きやライトハンドを表現している)してるのと、昔の自分が「あ、俺でもこれ弾けるかもしれない」って思うのとどっちがいいかっていう。僕は絶対後者で。俺でも出来るかもしれない、僕でもやれるかもしれないっていうのを曲の中に残すようにしてますね。ベーシックのデモの段階から、そこはすごく考えますね。


──なるほど。最初に話した「転機」のきっかけになったらいいなって要素を残す。

ヨシダ:まぁ、そうですね。


──じゃあ、ヴォーカルアプローチに関してはどうです?

ヨシダ:そこはちょっとまた難しい部分で。歌っていけば歌っていくほど、技術も上がってくるので。フェイクを入れるとかね、出来るようになる。


──はい。ここ昨今、音楽シーン全体的に、フェイク流行りの感がありますよね。

ヨシダ:ですよね。で、僕も、まずはそうやって歌ってみるんですけど、次に削る作業に入るんです。で、ディレクターに聞くんですよね、「これフェイクある方がいいのか、無い方がいいのか」って。で、みんなが「いいんじゃない?」っていいなら残しますし、いらないって言われたら削ります。『ツバサ』も歌う時いろいろやりましたけど、そこから削っていきましたね。僕自身、カラオケいくとただのフェイク野郎なんで。永遠とフェイクしてますから(笑)。

ヨシダチャレンジの行方


──「飛べるさ どこまでも君は」からのヴォーカルアプローチは、ファルセットぎりぎり手前の地声……ですかね? これは偶然の産物だったのか、意識してそうしたのか、伺いたかったんです。

ヨシダ:そこもねぇ……いろいろ歌ってみたんですけど、正直暴露しちゃうと、あの歌い方じゃないと、ちゃんと出ない。キーが高くて出ないんです。女性よりも高いキーなんですよね。僕のキーって、男性にしては高い方なんですけど、まぁ、もっと高いわけです。でも、自分が歌えるかどうか、声が出るのかどうかおいといて、あのメロディを作っちゃった。で、歌詞も出来ちゃった。作りながら途中から「これ、歌えるのかしら、俺」とか思って。


──えー!(笑)。自分が歌えないかもしれないってわかりながらも、曲は完成させるんだ。

ヨシダ:はい、そういう曲、何曲かあるんですよね。最近、これを「ヨシダチャレンジ」って呼んでるんですけど。で、「ヨシダチャレンジ」やって、歌えなかったらいい曲でもボツにするんですよ。これ、今の自分じゃ出ないわ、今の自分じゃ伝えられない、だからボツって。「ツバサ」は「ヨシダチャレンジ」やったら、出る歌い方ひとつだけあったから、これでやろう、と。でも、正直に言うと……ライブで超やりたくないですよ(一同大爆笑)。


──しかもファルセットじゃないですよね?

ヨシダ:いや、それみんな言うんですけど、あれ、ファルセットなんですよ。


──えぇええええ。そうなんだ。地声のギリギリかと思った。すごいですね。ファルセットだとしたら、ファルセットの概念が変わるくらいの歌になってますよ。

ヨシダ:たまたまテイクが良かったんですよ(一同笑)

カップリングもチャレンジ

──カップリングの「猫と花火」はピアノが印象的なミディアムバラード。

ヨシダ:こう言ったらなんだけど、ありふれたカップルの曲なんですね。僕も含めて、日常の中での恋愛、別れが曲のテーマですね。僕の中での挑戦のひとつとして、バンドっぽくないポップスをやろう、と。ピアノ始まりだし、ドラムも生で録ってサンプリングしてちょっと加工したり。で、リズムもちょっとゆるくて。歌もルーズで。わざと全部、あまりバンドやらない違うことをやったって感じです。



──「まだ何者でもない君へ」は、ビックバンドジャズのようなミディアムポップ。

ヨシダ:僕らの楽曲の中に「シリアル」ってスウィングポップの曲があるんですけど、そういう感じの曲をもう1曲作ろう、と。曲の主人公は、大人になってしまったあるサラリーマンというか。僕含めて、世の中うまくいっていない人の方が多いと思うんですよね。

この主人公は、例にもれず、昔は何にでもなれると思っていたんだけど、なんだかんだあって、大人になってつまんない人間になってしまった。そんな彼をみて「つまんない人間になったな」と思っている人もいれば「それが大人になることなんだ」って言う人もいる。よくいるじゃないですか「俺も昔は、お前みたいに……そんなこと言ってたけど、言うほど甘くねぇぞ」みたいに言ってる人。だから結構、主人公は年齢いってるんですよ。



──後輩にくだをまくくらいは、歳をとった人、ということですね。

ヨシダ:そうそう。でも、ふと「昔の自分どうだったっけなぁ」と思い返した時に、どう思うのか、と。歌詞にも書いてますけど、いろいろな(自分の人生の)時代を思い出した時に、自分で勝手に自分に折り合いつけて生きて来たけど、今からでもひょっとしたら自分次第で夢持ってもいいんじゃないか、と。今の自分を捨てなくても、夢を持つことは出来るんじゃないか、と。サラリーマンやりながら小説家を目指して賞取ってデビューとか、結構いるじゃないですか。

セカンドチャンスじゃないけど、そういう機会がいっぱいある。バンドの中でもそういうバンドもいるし。いくつになっても自分を持ち続けていれば、日の目を見る日が来るかもしれない。この曲はだから僕にも言えることなんですね。何度でもチャレンジは出来るし、夢は夢として叶えたいって思いながら、生活も出来るっていう。


──生活しながら、自分の可能性をずっと探っていても、恥ずかしくない時代というか。それを内緒にしなくていい時代になったというのもありますね。だから歌詞にすごく、リアリティーがある。

ヨシダ:そうですね。若い子にも聴いて欲しいですし、夢を諦めかけている人とか、大人にならいといけないって悩んでる人とかにも聴いて欲しい。いろんな世代に聴いて欲しいって願いも込めて「まだ何者でもない君へ」ってタイトルにしました。



TEXT 伊藤亜希
PHOTO 片山拓

北海道出身の3人組バンド。 2010年に「phatmans after school」を結成。全楽曲の作詞・作曲を手がけるVo.ヨシダタクミの透き通る歌声、圧倒的で叙情美溢れるメロディーライン、そして葛藤や憂いをストレートに表現した歌詞に、Gt.ユタニシンヤ、Ba.ヤマザキヨシミツのパフォーマンスが相乗効果を···

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