子供の頃の不思議な体験を表現
赤い公園は4人組ガールズバンド。実力派のグループです。
『交信』は2013年発表の赤い公園の代表曲の一つ。作詞作曲はギターの津野米咲。アレンジ、曲の展開ともに非常に凝っている曲です。子供時代の思い出や記憶、不思議な体験を表現した楽曲。
ミュージックビデオはピアノを弾いていた少女が、ふいにあらわれる赤い公園メンバーと交信するもの。
交信
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万華鏡は月へ向いた
神聖な友を待たれよ
先生もパパもママも
寝かしつけて来たぜよ
雑草はブレーメンのように
神聖な友へ導く
耳を澄ませたぼくらだけに聞こえた
≪交信 歌詞より抜粋≫
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「万華鏡は月へ向いた」とは何か。これはMVにあるとおり、万華鏡を見ていたら月を発見したことの意。万華鏡はカラフルな模様が見える筒。万華鏡をのぞくという行為は不思議な世界に入り込む意味があります。
そして月明りを頼りに「ぼくら」が、先生やパパとママに隠れてこっそりと「神聖な友」に会いにいくという展開。
「雑草はブレーメンのように」。ブレーメンの音楽隊とかけています。ブレーメンの音楽隊のように、神聖な友と自分が互いに導かれる意味。そして夜、風にふかれる雑草の音が音楽隊のように感じられる意味も含みます。
ブレーメンの音楽隊はロバ、犬、猫、鶏の4人編成。この赤い公園と同じ頭数なので、自分たちのバンドとかけているところもあります。
誰に会いに行くの?
「ぼくら」が会いに行く「神聖な友」とは何でしょうか?
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山際も星も
ぼくらに気付いては
お話もした
いつからかあの頃が
妬ましいよ
≪交信 歌詞より抜粋≫
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「神聖な友」とは、山や星といった自然を指します。そういった自然と話ができていた頃が妬ましいという歌詞。子供のころの「ぼくら」は月に導かれ、山や星と交信できていたのではないか、という歌ですね。
そしてさらにこの曲は楽曲『今更』とつながっています。『今更』のミュージックビデオのラストにピアノを弾く少女が登場し、少女はそのまま『交信』の主人公になります。
『今更』は、「生き急いでった奴ら」「遠のいてった君」を今更引き止めることができるか、振り向かせることができるか、という歌。「生き急いでいった」という歌詞が死者を連想させます。
「交信」とは自然との交信は勿論、死者との交信でもあるんですね。そして死者とは物理的に死んでしまった者だけをさしません。
かつて存在したけど今は死んでしまった自分の一面でもあります。MVの少女は、赤い公園自身らの子供のころのメタファーでもあります。
もう一度、はじめよう。
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こみ上げる なみだ
朝日に 嘲笑われたって 拭えばいい
もう一度はじめよう
ぼくらのよる
≪交信 歌詞より抜粋≫
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「今更」遅いかもしれない。しかし「嘲笑れたって」いいのでもう一度はじめる。もう一度子供のころのように交信する。自然や死者と語りあえていた子供のころのように、あの頃の不思議な夜のように交信する。
音楽を使って、今度は聴いてくる新たなる神聖な友=これから聴いてくれるリスナーと交信する。そういう意味があります。
この曲はバンド活動休止後、復活のタイミングの曲。このバンドの音楽活動の宣言でもあるんですね。
●交信 / 赤い公園
TEXT:改訂木魚 (じゃぶけん東京本部)