冷めた心の奥で燃え上がる炎
『火花』は、2019年4月10日にリリースされた最新アルバム「TRIBALYTHM」の4曲目に収録されている、KOHSHI作詞の楽曲だ。大人になっていく過程で、誰もが感じる悲しさやもどかしさを見事に歌い上げた、大人の応援歌ともいえる。
----------------歌い出しの部分は、楽しかった記憶と冷たい現実との対比が、「テールライト」を使って見事に表現されている。
テールライトが 遠く瞬いた
はしゃいだ記憶 取り残されてる
また大人に なるほど乾いた
ささくれ立った心 狂騒の夜
≪火花 歌詞より抜粋≫
----------------
美しい記憶があるからこそ、現実とのギャップを受け止めきれず、呆然と立ち尽くしてしまう。
そんな、大人ならではの虚しさや孤独が、たった2行の歌詞でひしひしと伝わってくる。
幼い頃、みずみずしかった心は、大人になるにつれて渇き、傷つき、いつしかボロボロになってしまう。
ちょっとした刺激にも敏感で、闇を抱えやすい大人たちの心を「狂騒の夜」と表現するKOHSHIにセンスを感じる。
----------------サビの部分では、世の中のくだらないものを切り捨てながら、世界と隔絶することもできず、人混みの中で葛藤する姿が描かれている。
デタラメばかりと わめいてみせても
へばり付いて 離れない焦燥
夜の向こう側へ 光射さずとも
瞳の奥 飛び散った火花
≪火花 歌詞より抜粋≫
----------------
自分は自分と割り切りたいのに、結局はくだらないと見下している世の中で生きるしかない。
そんな世の中で孤立してしまうことも恐ろしく、結局は他人と比べてジタバタしている自分がみっともないのだ。
そんな人間らしい醜さ、みっともなさがリアルで、親近感を覚える。
「夜の向こう側へ 光射さずとも」という歌詞からは、なんとか現状から抜け出そうともがく姿が目に浮かぶ。
飛び出した先に希望がなくても進むしかないという焦りと、心の奥底に秘めた、「負けて堪るか」という闘志を感じさせる歌詞だ。
出口を探してさまよう心
----------------2番では、まさに他人と比較して卑屈になっていく自分の惨めさが歌われている。
また大人に なれなくて痛いな
自暴自棄の海に沈んで行く
見失うね きっと人と 比べちゃうから
自分の姿 虚勢を張った その成れの果て
≪火花 歌詞より抜粋≫
----------------
他人のことなど意にも介さず、自分の道を突き進んでいけるほど大人になれない。
だからこそ他人の姿を見てはうらやみ、見栄を張り、どんどん落ちていくのだ。
----------------最後のサビに向かう部分では、誰もが抱えている痛みや悩みを、等身大の歌詞で描いている。
過去から未来 時の川 流れ着いたの
街も人も みんな変わる ただ確かなもの
必死で探してる
≪火花 歌詞より抜粋≫
----------------
風景が、町並みが、人の心が変わりゆくように、この世界に変わらないものなんてない。
そんなことは嫌というほど分かっていても、分かっているからこそ、変わらないものを探し求めてしまうのが人間だ。
----------------人と人がぶつかれば摩擦が生まれ、諍いが起き、傷を負う。本当は誰も、傷つきたくはないし、傷つけたくはないはずなのに。
誰もが痛みに 耐え夢を抱え
ぶつからないように すれ違って行く
巨大な交差点 目の前の信号は
今 赤から「進め!」と青に
≪火花 歌詞より抜粋≫
----------------
だからこそ、他人と距離を測り、ぶつからないように自分を守りながら、他人との間に壁を作って生きていくのだ。
そんな、迷いだらけの自分に「進め!」と強く叫ぶ歌詞がいい。
不安に怯えている人、本当の自分を出せずに悩んでいる多くの人の心に刺さる、力強いメッセージがFLOWらしい。
あくまでも生きているのは「今」という瞬間
----------------最後のサビは、ほとばしるような熱を帯びている。
タガタメでもなく 自分自身のために
悔し涙 振り切って行け
夜の向こう側に 答えはなくとも
駆け出す時 散らした火花
飛び込んだのは 燃えるような 今だ
≪火花 歌詞より抜粋≫
----------------
大人になればなるほど、人のためにも自分のためにも涙を流さなくなる。
頑張ることや、感情を露わにすることはみっともないといわれる。
それでも、たった一人の自分のために泣いてやるのは自分しかいない。
だからこそ、"みっともなくてもいいから、感情を吐き出し、暑苦しいほどに目の前の「今」を駆け抜けよう。"そんなメッセージが込められた歌詞だ。
40歳を超えてもなお、精力的に活動し、ライブの熱は増すばかりのFLOW。
年齢を言い訳にせず、大人という殻に囚われない彼らにしか作れない音を、ぜひ自分の耳で確かめて欲しい。
TEXT 岡野ケイ