多くのリスナーの心を突き刺す名曲
自己主張を苦手な子どもを指す「ロストワン」。泣き叫ぶことを意味する「号哭」。
これらの単語の意味からわかるように、今回紹介する『ロストワンの号哭』は、10代という複雑な時期の子ども達の心境を歌った楽曲となっています。
しかし、その楽曲に心を打たれるのは子供達だけではありません。そのなかには、たくさんの「大人達」の姿もまた含まれているのです。
はたしてなぜ、こんなにもたくさんの人々の心に刺さるのか。投稿から長い年月が過ぎた今も人気を誇る名曲の秘密に迫ります!
10代の不安、自己猜疑心を歌ったボカロック
『ロストワンの号哭』は2013年3月に投稿された楽曲で、歌唱ボーカロイドは鏡音リン。
制作者Neruの楽曲の大きな特徴である疾走感溢れるギターロックなメロディーに、10代という繊細な時期故に生まれる「将来」や「未来」への深い不安、自分自身への猜疑心を綴った楽曲で、10代の心に刺さる一曲として今もなお爆発的な人気を誇っています。
投稿から2カ月後の2013年5月にはミリオンを達成。制作者であるボカロP Neruにとっては、2曲目となるミリオン達成楽曲です。
6年目となる2019年で、ニコニコ動画の再生数が670万回、YouTubeでは900万回を超えています。さらにニコニコ動画では「VOCALOID伝説入り」のタグまでつけられている程!
Neru初となるメジャーデビューアルバム『世界征服 / Neru feat.鏡音リン、鏡音レン』に収録もされており、大人気音楽ゲーム『バンドリ!』をはじめとする様々な音楽ゲームへの提供もされています。
Neru自身だけではなく、ボカロそのものを代表する楽曲の一つと言えるでしょう。
人気実力派ボカロP Neru
制作者Neruは、2009年11月から活動中の人気実力派ボカロPです。『押入れP』という呼び名もあり、「押入れで眠っていた鏡音リン・レンを使ってみました」という本人の発言が由来のようです。
発言通り、投稿された楽曲はほとんどが鏡音リンと鏡音レンを使用したもので、ボカロ界有数の鏡音使いであります。
2010年7月、受験を理由にその活動に幕をおろすものの、同年11月に既存曲『人間失格』のリミックス版の投稿と共に活動を再開。
翌年に投稿した『東京テディベア』にて、中毒性の高いギターロックとすがすがしいまでに率直でダークな歌詞が与えるインパクトから人気を博し、以降「鏡音リン・レンと言えば」と言われるまでのボカロPとなりました。
『ロストワンの号哭』を投稿した際には、ニコニコ動画週刊ボカロランキングにて1位を獲得。
そしてその数日後に投稿した楽曲『ハウトゥー世界征服』が2位を獲得し、週刊ランキングが始まって以来誰も打ち立てなかったワンツーフィニッシュという快挙を成し遂げた、名高い実力派ボカロPなのです!
突き刺さる歌詞、号哭の如きギターロック
この楽曲が人気となった最大の理由はやはり、歌詞にあると思われます。この楽曲を耳にしたリスナーのほとんどは、その歌詞の内容に自分と被る部分を感じ、突き刺さるものを覚ているのです。
MVの背景が教室で登場人物が制服を着た少年であることや、歌詞に「黒板」「数学と理科」などの言葉が含まれていることから、この楽曲が10代の少年少女の心境を歌ったものであることが推測できます。
若いリスナーに多くの支持を得ているのは、現在の自分自身の心境に近しいものをそこに感じるからではないでしょうか。
しかし10代というのは、大人なら誰もが一度は経験している瞬間ですよね。だから、今を生きる10代の彼らだけではなく、大人になったリスナー達も覚えのある痛みを思い出し、この楽曲に深い共感がわいてきてしまうのでしょう。
かつて10代であった自分の姿、そしてそれを通り過ぎた今の姿。
本当に自分はかつての自分が描いた人間になれているか、あの頃見ていた無邪気な未来への夢をまだ覚えているか、胸中に渦巻く様々な思いがかつて少年少女であった大人達の心に当時の痛みを蘇らせてくるのです。
さらにこの楽曲は、Neru自身の大きな特徴である疾走感溢れるギターロックな一面も最大に活かされています。そこから生まれる高い中毒性は「驚異的な中毒性」とニコニコ動画内でタグをつけられるほどです。
出だしのインパクトのあるドラム。まるで洗脳をかけられるかのような、一度聴いたら忘れられないメロディーを繰り返すギター。
所々にNeruの持ち味が色濃く出ているメロディーは、タイトルの『号哭』という表現通り力強い印象を聴き手に与えます。
それを耳にした瞬間、現実という荒波に飲まれ忘れていた、または心の内にずっとおしとどめていた自分の叫び声に気づかされるのです。
堰のはずれた叫びに気づいた時、この楽曲の存在はもう他人事ではなくなります。自分自身を体現してくれている楽曲として、深い共感を聴き手の中に生みだします。
それこそが『ロストワンの号哭』が、様々な年代のリスナー達の心に刺さる秘密の正体なのです!
Neruだけじゃない。新たな魅力を含んだ3rdアルバム
現在Neruは『Neru&Z'5』という名前でも楽曲提供を行っています。
『Z'5』はNeruのもう一つの名前であり、これまで主に楽曲アレンジなどを手掛ける際に使用されていました。
本人曰く、新しいアイデアを楽曲面で持ちこむ時に使用する名前でもあったとのこと。その話を証明するかのように、この名前で作られた楽曲達はNeruとはまた一風変わった楽曲ばかりとなっています。
2018年3月にリリースされたメジャー3rdアルバム『CYNICISM』はNeruでの発表となっていますが、その中にはNeru&Z'5として作られた楽曲も多く収録されています。
今後はNeruとしてだけではなく、Neru&Z'5の活動も多くなってくることでしょう。Neruだけではなく、新たな側面を持った『Neru&Z'5』の楽曲にも注目です!
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TEXT 勝哉エイミカ