別れの曲なのに「幸せ」
SHE'Sの『幸せ』は、“相手の価値観を思う”事の大切さを歌っているのだろう。
歌詞は恋人同士の“幸せな時間”から始まり、“別れの後悔”で終わる。
何故、別れてしまった2人の歌が『幸せ』なのか。SHE'Sが持つ“思慮深さ”という魅力で溢れた『幸せ』を、じっくり読み解いていく。
幸せを考えた時、人はだいたい自分の幸せを考える
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君が寝息を立てていた
痺れる腕 起こさないように
ゆっくり外して頬に触れる
≪幸せ 歌詞より抜粋≫
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SHE'Sの『幸せ』を考えるにあたり、まず“幸せ”とは何かを考えてみたい。
今、この“幸せとは何か”と読んで、あなたはどんな“幸せ”を思い浮かべただろうか。
“幸せ”と一言でいっても、その感じ方は千差万別だと思う。
それが例え、『幸せ』の歌詞に描かれるような、相手を思いやれる仲睦まじい恋人同士でもだ。
何故だろうか。それは、“幸せ”を思うとき、人はだいたい“自分の幸せ”を考えるからだ。
二人の幸せから見えるすれ違い
では、SHE'Sの『幸せ』の主人公である彼が思う“幸せ”とは何か。
彼の“幸せ”が何かは、SHE'Sの『幸せ』の歌詞の書き方に注目すると分かる。
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キッチンに立って 箸を持つ
穏やかな表情で
2人分には少し多いね と言って
後ろから笑う顔が見えた
「それが幸せ」とベッドに寝転んで
「何もいらない」と君は
「私の幸せは私が決める」って
愛してくれてたんだね
≪幸せ 歌詞より抜粋≫
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『幸せ』は歌い始めから終わりまでの間に、彼女の話した言葉や彼が彼女にしてあげた事が描かれている。
この歌詞が意味するのは、“2人が思う幸せが違う”という事。
『幸せ』で描かれている、彼が彼女にしてあげている事は、すべて彼にとって“当たり前のこと”なのだろう。
彼女を起こさないように腕まくらを外す事も、“節約や健康の為”なんて理由で毎日食事を作る彼女を労ってたまに作る料理も。
他人から見れば、とても優しくて“彼女は幸せ者”と思われるような愛情の示し方なはずだ。
でもきっと、彼は全部“自分の幸せのため”にしている訳ではないのだろう。
彼には、別の“幸せ”があるように感じる。彼の思う“幸せ”とは、“もっと仕事を頑張って、彼女と結婚する事”ではないだろうか。
時はすでに遅く
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「幸せ」とベッドに寝転んで
「あなたと今いたいから」
「それだけでこれからも幸せ」と話してくれたのに
離してしまってごめんね
≪幸せ 歌詞より抜粋≫
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最後の一節で、あんなに幸せそうに見えた2人は、破局を迎えてしまっている。それは、2人の“幸せのすれ違い”が原因だろう。
彼の考えは“もっと仕事を頑張る事”。その結果として得られる、経済的な安定=結婚して幸せにしてあげられる=それが幸せ。
しかし、彼女は違うのだ。
彼女の言葉から、彼女の“幸せ”は「あなたと今いたいから」「それだけでこれからも幸せ」ということが素直に伝えられている。
彼女が思う“幸せ”は、お金や仕事で得られる幸せではなく、あなたがいる事。そんな風に愛せるあなたと一緒に居られる事なのだ。
この2人の“幸せ”のゴールは同じところにある。
しかし、ゴールにたどり着くまでの“道のり”が、別れてしまったのだ。別れてしまった道を進むには、繋いでいた手は離さなければならない。
彼女目線の「幸せ」を描くことで、初めて二人で「幸せ」になれた
歌の最後は「離してしまってごめんね」という言葉で結ばれている。なんて、悲しい感情表現だろうか。この一言だけで彼の彼女に対する深い後悔が、苦しいほど伝わってくる。
しかし、このSHE'Sの『幸せ』は、ただ失恋の悲しみを伝えるために歌っているわけではないのだ。
彼は確かに“自分の幸せ”を優先してしまった為に、彼女を失ったかもしれない。
けれど、独りになって彼女との“ありふれた日常”を思い返した時、“彼女の幸せ”が何かということに気がつけたのだ。
“2人が一緒にいる事”たったそれだけの事が“幸せ”なのだ。彼にとってその真実は、独りにならなければ気がつけなかったこと。
SHE'Sの『幸せ』という曲は“人はそれぞれに感じ方や考えがある”“それぞれの違いを受け入れて理解する”それが『幸せ』に繋がる。そんな考えから、歌われた曲なのだろう。
TEXT 後藤かなこ