超・個性派バンドがまさかのコラボ
何だかんだで世間にじわじわと浸透し始めた異色バンド、ジェニーハイ。今回は、彼らの1stアルバム『ジェニーハイストーリー』の中から『不便な可愛げ feat.アイナ・ジ・エンド(BiSH)』をピックアップしたい。
若者を中心に人気を集めるアイドルグループ・BiSHからアイナ・ジ・エンドがボーカルとして参戦を果たした。
奇跡のコラボとその音楽性が話題を呼ぶ1曲だ。
イッキュウ(Vo.)に劣らない個性と存在感のある歌声を披露したアイナ。
今をときめく2人の女性が歌い上げるこの楽曲は、どんな世界を持つのだろうか。
「夢」と「妄想」
----------------
夢ばっかり大きくて
他人の失敗喜んじゃう
今日もアイスは美味しいし
タピオカにも並んじゃう
≪不便な可愛げ feat アイナ・ジ・エンド(BiSH) 歌詞より抜粋≫
----------------
出だしから、現代女子にありがちな流行への便乗や理想の高さを巧みに表現している。
少々風刺的にも聞こえてしまう歌詞だが、果たして本当にそういった意味合いだけだろうか。
----------------
不毛な時間によく妄想する
私の中の私
≪不便な可愛げ feat アイナ・ジ・エンド(BiSH) 歌詞より抜粋≫
----------------
あらゆる人を虜にする魅力的な「もう一人の自分」を夢に描く主人公の様子が想像できる。
“自分がもっとこうだったら” “あんなことが出来たら” という空想は、誰しも経験があるはず。
それをこうも細やかに突きつけられると、ちょっぴり恥ずかしくなる方もいるかもしれない。
「夢」と「妄想」の境界は難しい。華々しい将来を夢見ること、持つことは自由なはず。
しかし、彼女はあえて「妄想」という言葉を用いた。
つまり、自分が描く「もう一人の自分」には絶対になれないことを悟っているのだろう。
自分は「もう一人の自分」とは似ても似つかない存在なのだ。
今の自分の姿は
----------------
不便よ 不便よ 不便よ 不便よ
私の可愛げは
そんなことをのたまう私は一級品
敬いなさい
寝ても 寝ても 寝ても 午前中
だったらいいのにな
まだまだ私、楽しめるはずのオンリーワン
≪不便な可愛げ feat アイナ・ジ・エンド(BiSH) 歌詞より抜粋≫
----------------
「私の可愛げなんて不便なものよ」と語る「もう一人の自分」。
ここから、主人公の姿が少しずつ見えてくる。
自分は、不便だと愚痴を言えるほどの可愛げなんて持ち合わせていない。
オンリーワンに憧れているはずなのに、タピオカやアイスに夢中になってしまう。
彼女は俗に言う「量産型女子」に近い状態なのかもしれない。
しかし、彼女はそんな現状に心から満足はできていない。
自分が目指す「もう一人の自分」とはかけ離れた時の流れの中、日々を消化しているのだろう。
憧れの個性と可愛げ
----------------
黒髪ロングと黒髪ボブより
金髪ショートが似合いたい
人生残りの何十年
幸せの余韻続け
≪不便な可愛げ feat アイナ・ジ・エンド(BiSH) 歌詞より抜粋≫
----------------
ある意味非常に分かりやすい、オンリーワンの個性を表す印象的な歌詞である。
「あぁ、あの金髪のショートの子でしょ?可愛いよねー」と言ってもらえるような、他人に羨まれる生き方を夢見る主人公。
ここまで具現化した妄想を広げる彼女の姿は、少し悲しく映る。
----------------
I know I know I know I know
私は可愛くない
されど一度目を瞑った先には
儚げなガール
便利なロンリーより不便な可愛げ
私が欲しいのは
do do
オンリーワン
do do
ナンバーワン
≪不便な可愛げ feat アイナ・ジ・エンド(BiSH) 歌詞より抜粋≫
----------------
最後のパートの歌詞に、彼女の夢のすべてが集約されているように思える。
今を生きる自分はこんなに周囲に溶け込んでいるはずなのに、何故だか孤独なのだ。
それに引き換え、その不便な可愛げで人々の注目を集める「もう一人の自分」。
オンリーワンでありナンバーワンな彼女は自分の永遠の憧れであり、終わりの見えないほどの幸福を感じさせてくれる存在なのだろう。
主人公はそれを「妄想」だと言うが、自分のこれからを決めるのは彼女自身。
彼女がこれからどのような生き方を選ぶのかを想像すると、また次の物語が広がっていくような気がするのだ。
TEXT 島田たま子