カエルが歌うひたむきな恋の歌
劇場アニメ『天気の子』で声優を務めて話題となった女優・森七菜が、『カエルノウタ』で歌手デビューを果たしました。
有名な童謡と同じということもあり、非常にキャッチーなタイトルとなったこの楽曲は、自身も出演する、2020年1月17日公開の映画『ラストレター』の主題歌にもなっています。
手紙を巡る学生時代の初恋が瑞々しく描かれるこの作品。
誰かを愛するという純粋な心、その美しさを女優として作品中にも登場する森七菜が見事に歌い上げています。
では、思わず恋したくなる、『カエルノウタ』の歌詞を読み解いていきましょう。
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つぶてを 水に放つ
波紋が 輪を描き広がる
はしゃいだ 子どもたちの
声も届かない この場所で
あぁ、この想いも 痛みさえも
≪カエルノウタ 歌詞より抜粋≫
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歌い出しでは、水辺の懐かしい情景が目に浮かびます。川に石を投げて遊んだ世代なら、すぐにその光景が目に浮かぶでしょう。
元気に遊ぶ子供たちの声も届かないような場所で、静かに思いを馳せるカエル。
タイトルにもある通り、この楽曲はカエル目線で描かれていきます。
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ねえ どうして
そんなに うつむいて
君の こころここに なくて
じゃあ どこにある?
どうか気づいて
くしゃくしゃに
書き捨ててきた メッセージ
≪カエルノウタ 歌詞より抜粋≫
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愛しい人が元気をなくしている姿は、見ていて辛いものです。
“何かあったのかな?”
と、つい心配になってしまうものですよね。『カエルノウタ』に登場するカエルも、人知れず「君」を気にかけています。
心がここにないなら、一体どこにあるのか?相手を案じながらも、心配の裏側には”わたしに気づいて”という、切実な思いがあります。
「くしゃくしゃに書き捨ててきたメッセージ」は、きっと1通や2通ではないのでしょう。書いても書いても渡せず、丸めて捨てるだけの日々。
もしかすると、丸めて捨てることで、自分の気持ちをなだめてきたもかもしれません。「君」には他に、好きな人がいるのかもしれませんね。
声にならない叫びが、「どうか気づいて」という歌詞に込められているようです。
遠くから見つめるだけの恋
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つぶてを 水に放つ
浮き足立つ声 跳ねる波
ゆらめく 陽の光の
隔てる カエルタチノスミカ
ずっと‥‥
≪カエルノウタ 歌詞より抜粋≫
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石を川面に投げると波紋ができるように、誰かの言葉や行動が「君」の心をざわめかせるのでしょう。
小さなことに一喜一憂するのが恋なら、「君」はどこかの誰かに、そんな淡い気持ちを抱いているのかもしれません。
そしてそれは、決して自分ではないことをカエルは知っているのでしょう。
届かない思いだと知りながら、「君」がそうであるように、自分も「君」の言葉や行動に、一喜一憂するのです。
子供たちの声が届かない場所で一人鳴いているカエルはとても孤独です。
ここで歌われている「カエルタチノスミカ」は、大好きな「君」から離れたところにあるのでしょう。
「君」はカエルにとって決して近い存在ではなく、どんなに思っていても、近づくことのできない存在なのだと思います。
一歩引いて、少し離れたところからじっと見つめている、そんな控えめで可愛らしい恋なのです。
叶わなくても、幸せを願う
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ねえ、きっといつか
笑顔で 空を見て
ずっと前から この場所で
恋の歌ばかり 歌ってた
≪カエルノウタ 歌詞より抜粋≫
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好きな人が泣いていたり、塞ぎ込んでいたりすると、自分のことのように胸が締め付けられるのでしょう。
“あなたが笑ってくれるなら、痛みを肩代わりしても構わない”
そう思える程に、「君」の幸せを願っているようです。
“わたしに気づいて”と願いながらも、遠くから、ただ幸せを願い、祈り続けるカエル。
「ここにいて そばにいて」と切実に歌いながらも、決して自分からすり寄ってはいかない。
世の中には、人から奪ってでも好きな人を手に入れたい人がいます。
力尽くで奪う愛もある中で、カエルはただ静かに、祈りを捧げています。
その愛が美しいのは、見返りを求めていないからではないでしょうか。
どれだけ「君」のことを愛しても、笑ってほしい、幸せになってほしいと願っても、それを相手には告げません。
“自分が愛したいから、愛する”
ただそれだけの恋です。声を枯らして歌い続けるのも、祈り続けるのも、一途に相手を思う気持ちがあってこそ。
そのどこまでも純粋でまっすぐな祈りが、聴いた人の心に刺さるのでしょう。
映画とリンクする歌詞が満載
さらに、『カエルノウタ』には、映画とリンクする歌詞が多く登場しているのも特徴の1つです。
『カエルノウタ』では、カエルは孤独であり、「君」への恋をひた隠しにしていますね。
それは、乙坂鏡史郎(福山雅治/神木隆之介)に思いを寄せる遠野裕里(松たか子/森七菜)とリンクします。
鏡史郎に思いを寄せつつも、姉である未咲(広瀬すず)の振りをして文通を続ける気持ちは、どのようなものだったのでしょうか。
たとえ愛の言葉を紡いでくれたとしても、それは自分に向けられたものではありません。
初恋の人が、自分の姉を好きだと知ってしまった心の痛み。
その痛みが、『カエルノウタ』で歌われている「どうか気づいて」「ここにいて そばにいて」という切実なメッセージと重なっているようです。
本当の気持ちを伝えたいけれど、伝えたら関係が終わってしまうかもしれない。だから姉になりすまして文通するしかない。
それは、幸せな恋愛とはとてもいえません。
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墓標に 花をたむけ
僕らは この先へゆこう
水面に 揺れる月と日が
穿ち綴り続く
血の滲む汽水の道
≪カエルノウタ 歌詞より抜粋≫
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「墓標」という歌詞が、未咲の不在とリンクします。初恋の人を亡くした鏡史郎、姉を亡くした妹。
そんな2人が、どうやって新しい関係を築いていくのか?その行く末を暗示するものこそ「汽水の道」ではないでしょうか。
汽水とは、淡水と海水が入り交じった水です。一筋縄ではいかない2人の恋を「汽水」と表現しているところが見事です。
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あぁ その光の
隔てる その先の先へと きっと
待ってるから 待ってるから
≪カエルノウタ 歌詞より抜粋≫
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それでもカエルは待ち続けます。どれほど険しい道のりであったとしても、長年見つめ続けた初恋を信じて。
「待ってるから 待ってるから」という最後の歌詞からは、”どうかこの恋が実ってほしい”と願う、切なる思いが伝わってくるようです。
この恋は叶うのか、はかなく散ってしまうのか。
『カエルノウタ』は、思わず応援したくなるような、可愛らしく切ない恋の歌です。
福山雅治、神木隆之介、松たか子、森七菜、広瀬すずといった豪華キャストが描き出す、どこまでも純粋で透明な恋の行方を、ぜひ自分の目で見届けてくださいね。
TEXT 岡野ケイ