「さよなら」が言えない強がりな私
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さよならが喉の奥に つっかえてしまって
咳をするみたいに ありがとうって言ったの
次の言葉はどこかと ポケットを探しても
見つかるのはあなたを 好きな私だけ
≪ハッピーエンド 歌詞より抜粋≫
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恋人同士が別れを告げる時、必ずしも互いを嫌いになって別れるわけではありません。
振られた側が好意を捨てきれない場合もあれば、2人とも好きだけれど理由があって交際を続けられない場合もあります。
どんな場合にしろ、相手への想いがありながら別れなければならないこと程に辛く苦しいことはないでしょう。
『ハッピーエンド』の主人公もまだ彼のことが好きなのです。
「さよなら」という言葉を告げたら、本当に関係が終わってしまう気がして「ありがとう」と咳をする程度に小さくつぶやくことしか出来ないのは、彼を大切に思うからこそ出た言葉なのでしょう。
次の言葉を探しても、彼を想う大好きな気持ちばかり出てきてしまうのに、それを伝えようとしないのは、彼女なりの最後の強がりにも感じられますね。
こんな様子から、今までも彼女は彼と素直に向き合いきれず、どこか強がって自分を隠してしまう部分があったのではないかと想像できます。
相手のことを思ってとった行動が最後は自分を苦しめてしまうことは、恋愛で陥りやすい1つの落とし穴とも言えます。
記憶と共に思い出す自分の弱さ
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こんな時思い出す事じゃ ないとは思うんだけど
一人にしないよって あれ実は嬉しかったよ
あなたが勇気を出して 初めて電話をくれた
あの夜の私と 何が違うんだろう
どれだけ離れていてもどんなに会えなくても
気持ちが変わらないからここにいるのに
≪ハッピーエンド 歌詞より抜粋≫
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「こんな時思い出す事じゃないとは思うんだけど」から始まる2番は、彼女が楽しかった2人の思い出を振り返る歌詞で溢れています。
「一人にしないよってあれ実は嬉しかったよ」と歌う歌詞の「実は」という言葉には、あの時なんで正直に嬉しいという感情を出せなかったのだろう、という彼女の後悔が表われているのではないでしょうか。
自分の気持ちをストレートに相手に伝えることは、近い距離にいればいる程に難しいことですよね。
さらに彼女は、彼と出会った頃と今の自分の何が違うのだろうと考えます。まだ彼が自分のことを好きでいてくれた頃から、私の気持ちはずっと変わらない。
どんなに会えなかった時もまっすぐに彼を思い続けていたのに、彼の気持ちはいつの間にか遙か遠くへと離れてしまっていました。
「勇気を出して初めて電話をくれたあの夜の私」と今の私の違いはきっと彼にしか分からないけれど、それを聞いた上でもう一度やり直そうと切り出すことは出来ない。
相手の気持ちがもう自分にはないと分かったからこそ、出来るだけお互いを傷つけずに表面上だけでも綺麗に終わろうとしてしまう彼女のまた1つの強がりが表われた部分となります。
暢気なあなたの悪い癖
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泣かない私に少しほっとした顔のあなた
相変わらず暢気ね そこも大好きよ
≪ハッピーエンド 歌詞より抜粋≫
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別れを切り出しても泣かなかった私の姿を見て「ほっとした顔のあなた」。
彼はきっとこれまでも、強がり続けて綺麗に飾っていた私の表面ばかりしか見ていなかったのでしょう。
その裏に隠れた多くの感情から目をつぶってしまうのもまた、彼の癖なのかもしれません。
けれど「相変わらず暢気ねそこも大好きよ」という言葉があるように、彼はそれを悪気なくしてしまうし、彼女もそんな彼の性格を誰よりも分かっているのです。
悪い部分まで理解した上で愛していた自分の気持ちがあったからこそ、彼のパートナーとして自分が適任だと最後まで考えてしまっているように感じます。
2人の最後は綺麗な結末で
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青いまま枯れてゆく
あなたを好きなままで消えてゆく
私みたいと手に取って
奥にあった想いと一緒に握り潰したの
大丈夫 大丈夫
今すぐに抱きしめて
私がいれば何もいらないと
そう言ってもう離さないで
なんてね 嘘だよ さよなら
≪ハッピーエンド 歌詞より抜粋≫
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生気に満ちた新緑が枯れてしまうように、彼を想う気持ちを抱えたまま消えていくような自分。
いつも素直な想いを隠して乗り切っていた彼女は、最後の最後まで「奥にあった想いと一緒に握り潰す」ことで「大丈夫」だと自己暗示してしまっています。
それでも伝えたかった想いは最後の歌詞に溢れ出てしまうのです。
「今すぐに抱きしめて 私がいれば何もいらないと そう言ってもう離さないで」
やっと出た正直な気持ちでしたが、そんな想いをかき消すかのように、続けて次の言葉は自然と出てしまいます。
「なんてね嘘だよ ”さよなら” 」
曲の始めに言えなかった「さよなら」という言葉は、曲の最後に自らの想いを隠す言葉として言ってしまったのです。
「さよなら」で始まって「さよなら」で終わるこの楽曲ですが、きっとこの2つのさよならの意味は全く異なっているのだと考察します。
最初に伝えようとしていた「さよなら」は現実を受け止めた上での言葉であるはずだったのに、最後に伝えた「さよなら」は結局、色々なことに目をつぶった上での言葉でしかなかったのです。
こんなに切ない失恋ソングの曲名が『ハッピーエンド』であるのは、主人公である彼女のまた1つのやせ我慢なのではないでしょうか。
自分の弱い部分で溢れた恋愛の結末だからこそ、今までと同じように外見だけは綺麗な形で終わらせたかったのではないかと感じます。
それでも表面しか見えない彼からしたら、この別れ方は何の問題もない、ただの「ハッピーエンド」でしかないのですから、彼女の強がりは成功したのかもしれませんね。
TEXT もりしま
Vocal & Guitar : 清水依与吏(シミズイヨリ) Bass : 小島和也(コジマカズヤ) Drums : 栗原寿(クリハラヒサシ) 2004年、群馬にて清水依与吏を中心に結成。 幾度かのメンバーチェンジを経て、2007年現在のメンバーとなる。 デビュー直前にiTunesが選ぶ2011年最もブレイクが期待でき···