忘れられない4月の記憶
──今回のミニアルバムは、春のきらめきはもちろん、孤独感とかさみしい思いも描かれていますね。ヨシダタクミ:『ハロー、エイプリル』は曲によって主人公が違うじゃないですか。10代の青春真っ只中みたいな子も出てくれば、あるいは人生酸いも甘いもある程度経験したような大人が自分の昔に思いを馳せてるような人も出てきたりとか。多分、4月に対するイメージはそれぞれ違うと思っていて。
実は僕、最近『ハリー・ポッター』シリーズにはまっているんですよ。人より5周くらい遅れているんですけれど(笑)。それで『ハリー・ポッター』を見ていて一番面白いなと思うところが、キャスト全員が1、2、3年生と成長していくじゃないですか。キャストの成長とともに、学校ならではのあゆみが感じられて。すごく学生に戻りたくなりました(笑)。学生の4月って、期待と不安の融合体じゃないですか。
──クラス替えとか。
ヨシダタクミ:いまだに覚えていますよね。クラス発表。「知り合いいるかなあ」とか。高校に入学した時なんて、たいして仲良くなかった中学の奴もいるから、「昔は仲良くなかったけど、仲良くしとこうか」みたいな。
──「好きな人と一緒のクラスだったらいいなあ」とか。
ヨシダタクミ:そう。でも思い出の中ではあるものの、僕の中で4月はいつでもそんな感じなんですよ。ある種、子どもの頃は大人への一歩だと思っていたし。高校になる時って、ちょっと大人になれたと思いませんでした?
ユタニシンヤ:うんうん。
ヨシダタクミ:高校になって、僕、門限がなくなったんで。中学の時は19時とか19時半とかかな。
──門限があったんですね。
ヨシダタクミ:ありました。親から鬼電来ましたもん。20時とかになったら、おとんの着信が5件くらいあって。用件は分かっているから、僕はおとんの着信音が嫌いになったんです。
ユタニシンヤ:ちなみに僕の母親の着信音は、ダース・ベイダーのテーマだった。
全員:(爆笑)
▲『ハロー、エイプリル』ジャケット写真
ヨシダタクミ:いまだにそういうのって、覚えているじゃない? だから『ハロー、エイプリル』のCDのジャケットでpasくん(バンド公式キャラクター)がどこか遠くを見ているのは、たぶん何かを回顧していたり、何かに思いを馳せているんですよね。「彼が見つめている先が何なのか?」という。その彼がイコール聴き手の方たちなので。
その人にとって、この曲たちの中でどの曲の主人公になれるのか。あるいは自分はそういう人じゃなかったとしても、何か感じるものがあるかとか。たとえば「こういう人がいたな」でもいいし。「これはこういうふうに歌っているんじゃないか?」という考察をしたり。
──そうですよね。ちなみにユタニさんとヤマザキさんにとって4月とは?
ユタニシンヤ:僕の誕生日でごす!
──おめでとうございます! お誕生日月というのは特別ですね。
ヨシダタクミ:いいよね。ユタニくんは4月後半だからこそ祝ってもらえるよね?
ユタニシンヤ:うん。祝ってくれる。
ヨシダタクミ:4月の頭とか、3月末だと、祝ってもらえないんですよ。クラスメイトに会わないからね。
──確かに。ヤマザキさんは4月の思い出は?
ヤマザキヨシミツ:野球部だったので、雪が解けてグランドが使えるようになるんですよ。その思い出があります。
ヨシダタクミ:それ、北海道だからじゃない? 練習が屋内になるのって、雪が降るところだけだよね?
──冬の間はどうやって練習しているんですか?
ヤマザキヨシミツ:体育館でテニスボールを使って練習しているんです。筋トレとか。
ヨシダタクミ:絶対的に不利だよね。
──そう考えると北国の人と南の人と4月の受け取り方は違いますね。
ヨシダタクミ:まったく違うんじゃないですか。だって北海道は11月末から4月くらいまで、自転車に乗れないので。
──そうなんですね!
ヨシダタクミ:あ、今それで思った。曲の話に戻ると、僕が何で4月なのに桜の歌を歌わないのかというと、北海道で桜並木を見たことなかったんです。
ユタニシンヤ:ああ、確かに僕らにはあまりイメージがないですね。
──言われてみれば。
ヨシダタクミ:だから<桜ひらひら>とか歌われても、桜はひらひらしてないから、僕は共感できない。だから自分の歌では書いたことがなかったんですよ。
曲に寄せてギターの音が丸くなった
──ユタニさんとヤマザキさんは今回のアルバムの中で、ご自身に重ねた曲は何でしょう?ヤマザキヨシミツ:僕は『孤独の歌』ですかね。生涯孤独だったんで。
ヨシダタクミ:嘘でしょ(笑)。
──(笑)。でもこの曲は春がワクワクした気分だけじゃなくて、別れとか逆に孤独を感じる季節でもあることを思い出させてくれますよね。ユタニさんは?
ユタニシンヤ:僕的には僕、やっぱり日本女々しいギタリスト代表みたいところがあるので、「シュガーオレンジ」ですかね。
ヤマザキヨシミツ:ははは。
ユタニシンヤ:Aメロの<大丈夫だよ>から来る<君に会えなくなっても どうにか元気でやっているよ>の部分とか、“何かあっても、もう言う人がいないな。言いたいけれど言えないなあ”みたいな感じで、とても共感しますね。
──『シュガーオレンジ』の冒頭はヨシダさんの歌い方もささやくようで。
ユタニシンヤ:そうなんですよ。
──ずるいですよね。
ユタニシンヤ:ずるいっす!
ヨシダタクミ:えっと、そういう話は僕がいないときにやってもらえます??
──イヤホンで聴くと特に語りかけられている感がすごいです。
ユタニシンヤ:いや、とても分かりますよ。
ヨシダタクミ:歌によって歌詞の伝え方は当然違うので、ささやくように歌う歌い方もしますし。技術的な話をすれば、そういう時はあえてマイクに近づいて、優しく息を多く入れたりとか。
もっと言うと、わざとブレスを強く聴かせるようにエンジニアさんに言ったりしますね。「僕が息を吸うタイミングでボリュームをちょっとあげてください」とか。ちょっと会話っぽい部分は、普通にしゃべっているように歌うとか。
あと、僕は基本、歌ではイントネーションを無視するんですけど、そういう場所だけはイントネーションをちゃんとする。そういったことをやっています。
──歌によってマイクも変えたりしているんですか?
ヨシダタクミ:今回は1個も変えていないです。厳密に言うとマイクもキャラクターが全然違うので、曲によって変えることももちろんあるんですけれど。最近でいうと、自分の歌い分けというか、歌い方でのニュアンスの付け方の方がエンジニアさん的にも楽だし、僕的にも、同じマイクでずっとやっている方がニュアンスの差異を伝えやすいんですよ。
「この曲は囁くんで」とか、「この曲はちょっとハイ気味に聴かせたいね」とか。今回はソニーの800Gという歌いやすいマイクですべて歌っています。
──『シュガーオレンジ』はヨシダさんの優しい声にからむユタニさんのギターのタッチもすごく柔らかいな、と感じたのですが。
ユタニシンヤ:今回『シュガーオレンジ』に対しては特になんですけど、今までになかったチャレンジをしました。もともと自分のギターの音はちょっと硬い感じなんですが、アレンジャーさんやタクミともいろいろ話した結果、「曲調にもっと音を寄せて行こう」という話になって。この曲は特にギターが丸くなったというか、優しい印象になっていますね。
──ベースに関しても、ヤマザキさんの独特の存在感のある音が食い込んで各曲を揺らしていますね。
ヨシダタクミ:一緒にバンド組んでいて思うのは、自分で意識しているかは分からないですけれど、彼のベースは結構うねるんですよ。別に技巧派のフレーズを弾いてるわけじゃないのにうねる。バンドを僕が組み始めたときからそこの才能は、すごく一貫していると思います。
夏のツアーはsajiの今後を決めると思う
──皆さんにとって春の思い出の曲というと?ヤマザキヨシミツ:自分の中での春でいいですか? THE PREDATORSの『Recall me』です。出会いとかの歌詞じゃないんですけど、僕は小中高がずっと地元の学校で、大きい出会いとか別れとかなくて。専門学校の時に初めて1人で乗り込む、みたいな状況で、その時に聴いていた曲なんですよ。出会いや別れ、メンバーもそうですし。当時を思い出します。
ヨシダタクミ:僕もこの曲は100回くらい聴いていますけれど、この曲で春を感じたことはないです(笑)。ギターコピーはしましたけれど。
ヤマザキヨシミツ:(バンドの)1年目を思い出すんだよね。
ヨシダタクミ:ああ、それは分かる。
──ヤマザキさんにとっては、ヨシダさん、ユタニさんとの出会いの曲でもあるんですね。ユタニさんにとっての春の曲は?
ユタニシンヤ:ぱっと思いついたのが、岡本真夜さんの『TOMORROW』ですね。小学校の入学式で在校生が入場する時に演奏していた音楽で。それがすごい残っているな、と今、思い出しました。
──確かにあの曲は春に合いますよね。ヨシダさんは?
ヨシダタクミ:TOKIOの『花唄』です。理由は単純明快で、僕、中学でバスケ部だったんですけど「この試合に負けたら引退」という試合で負けたんですよ。その時にみんなで聴いて帰ったんです。まあ僕は中学高校のときはヤンチャだったので、最後の試合はユニフォームをはく奪されて出れなかったんですけれど(苦笑)。
──そうだったんですか(笑)。やはり学生時代の思い出とリンクしていますね。そしてsajiは2020年7月には東名阪ツアーが開催されますが、どんなツアーになりそうでしょうか?
ヨシダタクミ:sajiになってからは初めてのワンマンツアーで、特に名古屋と大阪は、新体制初じゃないかと思います。だからphatmans after schoolからどう変わったのか、皆さんもそれこそ期待や不安があるんじゃないかと。僕らにとってもこのツアーを経てまた新しい作品を作っていくので、ここでsajiがどういうアーティストになるのか、決まる気がします。
TEXT キャベトンコ
PHOTO 井野友樹