副音声…無限にいけるな
──初のベストアルバム『吉田山田大百科』が完成して、今の率直な気持ちをお聞かせください。
吉田結威:まずは、感慨深いなぁって思います。高校で出逢って前だけみてやってきた10年間だったから、常に次なる作品、次なる作品ってやってきたので。今回のベストアルバムは、振り返るにはいいきっかけになったと思います。
特に今回、ミュージックビデオをみながら副音声をつけたりする中で、10年間やってきたんだなって実感が初めてもてましたし。いい機会だったと思いますね。
山田義孝:副音声をつける時、過去のミュージックビデオが全部で、延べ2時間以上あるって聞いていたので「それは、だいぶしんどいな」と思っていたんですけど(笑)、気づいたらあっという間で。「これ無限にいけるな」とか思ったくらい。
2人ですごく楽しくできたので、こういうの……どんどんしたいなと思いました。こういう、副音声をつけていくっていう仕事(一同爆笑)。
吉田結威:昔とはノリも違ってきているし、昔よりは深いことを話すようにもなっているんですけど、根本的に楽しいことが好きだとか、ちょっとした一言で相手を笑わせようとか、そういうとこは本当に変わってない。僕ら高校が一緒で、時々、当時の同級生たち……2人共通の友達とかと逢うんですね。
みんな社会人になってて、それこそ子供がいる人もいる。そういう時に感じるのは「僕らって、ずっとどこか高校の放課後のままいるんだな」っていう。「俺らはまだまだ青春っぽいな」と思うのと同時に、なんか……ちょっと置いてかれた感じもあったりして(笑)。え、家建てたの? みたいな(笑)。
──その感覚、すごくよくわかります。2人でいるのがもう当然になっている感覚はありますか?
山田義孝:当然っていうか……この2人じゃなかったら、ここまで続けてこれなかったと思うし、こういう形になってなかったと思いますよね。
「もやし」のアイデア
──わかりました。では収録曲について、何曲かピックアップして伺っていきたいと思います。まずは「もやし」。歌詞がすごくインパクトがありますよね。
山田義孝:この曲の歌詞や、世界観について「とっても山田くんっぽいね」って、よく言われたりするんです。でも、じつはこのアイデアは、たまたま見つけたもので。ある日、携帯いじってて、Twitterで見つけた知らない人の言葉からだったんです。ある女性がTwitterに「もう やだ しにたい」って、改行して書きこんでいて。それを縦読みした頭文字が「もやし」で。それを見て、僕、なんかちょっと笑顔になったんですね。
で、すごく極限の状態の書き込みなのに、こんなことで人って笑ったりするんだって思って。どんどんイメージが沸いて来て、それを曲にしたんですね。それで勝手に「もう やばい しあわせ」も「もやし」になるよねって思って。勝手に心の中で、Twitterの女の子との会話を膨らませていって、そこに自分の人生観を入れていったんです。だから、その知らない人と一緒に作ったような気がしますね。
吉田結威:この曲を作ってた時期は、聴きやすい、人当たりがいいキャッチ―な曲を作るよりも、自分が歌いたい事をしっかり作品として世の中に残すってことを念頭において作品作りをしていた時期なんですよ。昔だったら「もやし」みたいな曲って、山田が息抜きに作ったような曲なんだなってみんな思って、じゃあ、本筋の曲はどれ? みたいな話になりがちだったんです。
でも、この……例えば直接的な表現になっちゃうんですけど……くだらなさっていうオブラートに包んだ真理みたいなものって、本当に山田の人生をよく表していると思うんです。見た目も曲も、パッとみて誤解する人も多い中、じっくり話をきいていくと山田なりの考え方、生き方がわかるっていうかね。なんか、野菜の中でも「もやし」って間抜け、ですしね。
「もやし」って可愛いなぁ
──間抜け(笑)。確かに。いつでもすごく安いし、栄養価も他の野菜に比べたら低いというか。吉田結威:そうなんですよね。レモン、パプリカ、おしゃれだと思うんです。でも、もやしはなんかダサい(笑)。そこに琴線が触れたっていうのが、本当に山田らしいと思ってて。みんな面白い曲と思ったかもしれないけど、1回ちゃんと聴こう、って。今、こういうのも大事なんだと思うんです。
この曲、最初出来上がって来た段階ではピアノの弾き語りだったんです。そこを本腰入れて、カッコよくしてみようと思った。それで、ずっと一緒にやってみたかった栗コーダーカルテットさんとやらせていただくことになったんですね。そしたら、後々、僕らの中でもすごく大切な曲になりました。作ってた時は、こんな存在の曲になるなんて誰も思ってなかったですから。
──栗コーダーカルテットさんにお願いした理由は?
吉田結威:この「もやし」には、山田なりの熱い思いがあったと思うんですけど、それをそのまま熱く表現するよりも、そうじゃない方法で表現する方がより際立つんじゃないかと思ったんです。それで、僕が「栗コーダーカルテットさんにお願いしよう」って案を出して。
山田義孝:ぴったりだなと思いましたね。眉間にしわを寄せて歌うような曲でもないので、すごく明るいからこそグッとくる、軽やかだからこそジーンとくるアレンジになったと思いますね。
ライブでは僕がリコーダーを吹くんですけど、それも栗コーダーさんに指導してもらって。全然うまく吹けないなとずっと思ってるんですけどね。でも、リコーダーの音色っていいですよね。
──そうですね。「もやし」を聴いてあらためて、他の楽器にはない哀愁があると思った。愛嬌がある音色だけど、哀愁も感じられた。
山田義孝:小学校の頃のことを思い出したりしますよね(笑)。歌詞を書く時には、難しい言葉を使わないで、どこまでサラッとした言葉で、どこまで自分の思いを表現するかっていうバランスがすごく難しかったんです。でもそこがいいバランスで出来たなと思って。歌詞にはしなかったことなんですけど………もやしって、成長するのに太陽の光がいらないんですよね。
だいたいの野菜、植物、生き物って、太陽の光を浴びてすくすく育っていくけど、もやしって太陽の光を浴びたらダメになってしまうんです。日陰でこそすくすく育つのが、もやし。これって、人間にも言えるなって思ったらすごくグッときたし、もやしってすごく可愛いなぁって思いましたね。
エッチってほのかな印象?
──次は「Color」という曲について。吉田山田の楽曲は、感情の細やかさを視覚化するのが上手だなと思っているんです。風景とかの描写が独特で素敵だな、と。そういう意味でこの曲は、面白い手法をとってるな、と。色で感情の視覚化をしてる。しかも原色が多い。
吉田結威:これは男女のことを歌った歌なんですけど、男女の間で起こる感情の起伏って、すごく激しい。で、その激しさが楽しいと思うんですね。昨日まですごくハッピーだったのに、今日はすごい落ち込むっていうように。そんな起伏の差を色の違いで表したいなと思いました。
それを表現するには、はっきりと違う色を使わないと表現出来ないなと思ったんです。2人の中でこの曲は、はじめから原色ってイメージがあった気がしますね。
──そんな中でも、薄い色の表現がある。相手の様子を表現する時に出てくる。「薄紅色」とかね。いきなり、エロいよね、ここだけ(一同爆笑)。
吉田結威:(笑)。やっぱりエッチなことって、ほのかな印象があるのかなぁ。生々しさとかに通ずると思うんですけど、セクシーさとかは、そういうほのかな色に感じてるのかもしれないですね。今、言われて気が付きました、本当に。意識して作ったっていうよりも、あ、確かにと思いましたね。