ひねくれた歌詞と制作者のコメントが指すものとは
ロキノン系バンドに多大な影響を受けて生まれた、ボカロ界のロキノン系ボカロP「TOKOTOKO(西沢さんP)」その彼の大ヒットソングであり、初となるミリオンを達成した楽曲『夜もすがら君想ふ』は、今も多くのボカロファンの心に響く名曲です。
楽曲制作者からのコメント欄に「時代柄暗い愛が街を行けど」と綴られているこの楽曲。はたして、そのコメントが指すものとは何なのでしょうか。
それを探る為にも、歌詞の意味を考察してみましょう!
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僕が生まれる前よりも
ずっと昔から続くように
そういつも傷付け合って
また愛し合うのさ
結婚や仕事のトークにまた
ちょっと疲れてたとしても
そう僕も他人事なんかじゃない、
わかってるのさ
≪夜もすがら君想ふ 歌詞より抜粋≫
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ポップで明るいロックなメロディーから始まる『夜もすがら君想ふ』。
しかし、その歌詞はメロディーとは違い、ひねくれた仄暗い歌詞となっています。
この歌詞を前に浮かんでくるのは、現実に疲れている人の姿ではないでしょうか。
「結婚」や「仕事のトーク」と引用される現実的な言葉は、そのどちらもが続く「他人事なんじゃない」という歌詞の通り、誰にとっても他人事には感じられない言葉です。
しかし、歌い始まりではこうも歌われてるのです。
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そういつも傷付け合って
また愛し合うのさ
≪夜もすがら君想ふ 歌詞より抜粋≫
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「傷付け合って」とは、その後の「結婚」や「仕事のトーク」といったものを指しているのでしょう。
身近な日常の中にあるそれらの話題は、誰もの心をちくりと刺してくるワードです。
しかし、この歌詞では「また愛し合う」とも歌っています。
誰もが現実の中で飛び交う暗い話題に疲弊し傷つけあうけれど、それでも「また愛し合う」。
どこか制作者のコメントの内容と似たものを感じませんか。
はたしてこの「愛し合う」とは一体どのような事を指しているのでしょうか。次はそこに注目をしてみます。
「また」が示す「愛し合う」の意味
「愛し合う」の歌詞ですが、よく見るとその言葉の前に「また」とつけられています。つまり「傷つけ合う」その前の段階で「愛し合う」段階が一度あったという事になります。
では、それはいつの事を指すのでしょうか。それを解くキーワードは、二番にありました。
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僕が取るに足らぬ事で
いつも悩んだりしてるのは
言っちゃえばアダムとイヴから
もう決まってたのさ
≪夜もすがら君想ふ 歌詞より抜粋≫
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「アダム」と「イヴ」。最初の人類とされている2人の男女の名前ですよね。
この歌詞の中では、悩み事を抱えるのはアダムとイヴからすでに決まっている。
つまり、この世の中に人間が生まれた時から決められていることなのだと歌っているのです。
そして続く歌詞ではこのようにも歌われています。
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なんとなく恋に落ちて
いつの間にか本気だって
張り裂けそうな胸の奥を
打ち明けなくっちゃな
≪夜もすがら君想ふ 歌詞より抜粋≫
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先刻の一番までの暗さとは一転した、明るい「恋」を歌う歌詞。
アダムとイヴは恋人または夫婦にあたる2人です。つまり2人が生まれた頃には『愛』もそこにはあったと考えられます。
「悩み」だけではなく「愛」もあったのならば、「また」という歌詞が指すのはこの人類の始まりの頃の事ではないでしょうか。
人類がこの世に生まれた、そんな遠い昔の頃から人類は同じ事を繰り返し続けているのだと、そう歌っているのでしょう。
「夜もすがら君想ふ」にこめられた、メッセージ
今度はサビへと目を向けてみましょう。----------------
今 I Love Youで始まる僕らを
もっと照らしてくれよ
変わらない愛や希望の類いもまだ
信じてみたいのさ
ほらI Miss Youって諦めムードでも
wow 蹴っ飛ばして行けよ
時代柄暗い話題が街行けど、
愛を謳う
≪夜もすがら君想ふ 歌詞より抜粋≫
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一番で歌われ、繰り返し最後の大サビでも歌われるこちらの歌詞。
その中には「TOKOTOKO(西沢さんP)」が自身のコメントで述べたものと似た言葉もあります。
「I Love Youで始まる僕ら」というのは、アダムとイヴにも繋がる表現なのでしょう。アダムとイヴの愛から始まった人類。
「悩みが」昔からあったように「愛」もまた昔からあるものならば、どれだけ暗い毎日の今の世界でもどこかに「愛」があるはず。
「変わらない愛や希望の類いも まだ信じてみたい」とは、そのような思いが込められた歌詞なのではないしょうか。
また、次ではこのように歌われています。
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いつの時代も代わり映えしなくてさ
僕ら同じ事で悩んだり、
悲しんだり、
笑ったりしてんのにな
解り合うのはそう簡単じゃない
ただこんなに君とリンクしてる、重なっていく
≪夜もすがら君想ふ 歌詞より抜粋≫
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繰り返し昔から続いているという事は、つまり全人類皆、同じような思いをした事があるという事。
「結婚」と「仕事のトーク」という言葉が聴く者の心を刺したように、多くの人々は似たような思いを持っているという事です。
けれど、それで簡単にわかり合えるのならば悩みも疲れる事もないはずです。
「時代柄暗い話題」というのは、このような日常の中の誰しもが持つ悩みの事を指しているのでしょう。
しかしそれでも「簡単じゃない」というだけで、解り合う事はできる事のはずなのです。
そしてその中で生まれるものが、互いを思いやる「愛」なのでしょう。
「時代柄暗い愛」とは、そのような「愛」の形を指しているのではないでしょうか。
楽曲タイトルの「夜もすがら」とは夜通し、一晩中、という意味を持つ古文です。つまり意味を訳すと「一晩中君を想っている」となります。
一晩中相手を想い続けている恋愛の描写に見えなくもないですが、歌詞の意味を紐解くと「暗い話題が多い時代でもまだ明るい希望もあるのだと一晩中想い続ける」というような意味にも見えませんか。
仄暗い話題多い世の中だけど、昔からの希望はあり続けているはず、という強いメッセージ性。
それが作者が綴った「時代柄暗い愛が街を行けど」という言葉に込められた意味なのではないでしょうか。
TEXT 勝哉エイミカ