「アトラクトライト」の主人公はまだ「青い」少年
2019年、初のマジカルミライ出演を機に、一段と注目を集めたボカロP「*Luna」。
彼の作る楽曲は、メッセージ性とストーリー性が高く評価されています。
その中でも『アトラクトライト』は、動画再生回数が一番を誇る大人気楽曲です。
さらに、ある*Lunaソングとの繋がりも示唆されている楽曲として、ファンの間では有名な一曲となっています。
はたして『アトラクトライト』はどのような楽曲なのか。
その中身に迫ってみましょう。
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まだ青くて拙い 脆くて足りない
小さくて弱くて どうしようもない 僕だ
≪アトラクトライト 歌詞より抜粋≫
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『アトラクトライト』は、*Lunaのアルバム『ラズライトの夢』の収録楽曲です。
そのジャケットでは4人の少年少女が、夜明けの空をバックに水面の上に立っています。
『アトラクトライト』のMVにはその内の1人の少年が描かれており、彼が曲中の「僕」であると推測できます。
出だしの「まだ青くて」の『青』は未成熟を指すカラーである為、人として成熟しきっていない=大人ではない、と捉えることができます。
また『青春』という言葉も連想でき、歌の主役が少年である事が推測できます。
さらに2番ではこのような歌詞が。
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じゃあ何にもなれないんだろうか今日の僕は
三年前 誰かが夕空に投げた言い訳は
もう忘れた 必要のない言葉だ
≪アトラクトライト 歌詞より抜粋≫
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『三年』という数字は『学生』を想像させる単語です。
特に中学生や高校生、思春期と呼ばれる十代の少年少女達とは深い関わりがあると感じられます。
しかし、ここで少年は『三年前』と過去を歌っています。
一体、どんな過去を示した歌詞なのか考察してみましょう。
「三年前のあの日」に隠された物語とは
先の冒頭の歌詞には、このような歌詞が続けられています。
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知りたかったんだ 成功と失敗 マルとバツの
境界線を引くとしたらどこだろう
それじゃあバツがマルになって 失敗を乗り越えたとしたら
それをなんと呼ぶんだい いつか名前をつけよう
≪アトラクトライト 歌詞より抜粋≫
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少年の「知りたかった」事とは、続く「成功と失敗」を指すのでしょう。
「マルとバツ」も同様の意味を指していると思われます。
さらに続く歌詞では、そのふたつの「境界線」を探している少年の姿が綴られています。
これは少年が「挑戦」をしているが故に、結果を求めて模索している姿が描かれているのでしょう。
また、続くBメロのではこのようにも歌われています。
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夢は叶わない 願いは届かない
だから歩くのを止めてしまうのか
努力は報われない 誰も認めてくれない
だから走るのを止めてしまうのか
止まってしまうのか
≪アトラクトライト 歌詞より抜粋≫
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少年には叶えたい「夢」「願い」があった模様。
しかしそれは叶わず、後半でも「努力は報われない」「誰も認めてくれない」と悲観を歌っています。
同時に挑戦的な歌詞も歌われており、まるで少年自身の叶えたい夢への覚悟を問いかけているようです。
さらに、2番以降の歌詞には次のような歌詞があります。
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横一列でスタートを切ったあの日の僕らはもういない
君の行く場所に 僕の行く場所に それぞれは必要ないから
≪アトラクトライト 歌詞より抜粋≫
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どうやら、少年にはかつて同じように夢を追う仲間達がいたようです。
しかし仲間達はいなくなってしまった。
先の「三年前」が指し示すのは、そんな仲間達がいなくなった事実であり「誰かが夕空に投げた言い訳」というのは、夢を諦めてしまった仲間が口にした言葉だったのかもしれません。
けれど少年は1人になっても夢を諦めなかった。それはなぜなのでしょうか。
「アトラクトライト」の意味が見せる、2つの「光」
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辞めてしまいたい理由なら10も100も1000もあった
でもその全てがちっぽけに見える一つがあった
≪アトラクトライト 歌詞より抜粋≫
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最初の注目は、1番のサビの出だしです。
『辞めてしまいたい理由』という言葉は、先のBメロの悲観さと通じるものがあります。
続く歌詞ではその理由の数を数える内容が綴られ、これまでに何度も心が折れそうになった事が読み取れます。
「その全てがちっぽけに見える一つがあった」と歌っていますが、その「一つ」が少年の心を支えていたものだったのでしょう。
それが何なのか、答えと思われるものが、大サビにて歌われています。
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あの日始まった物語が向かう先で僕ら
見つけた光を照らし合わせて 答え合わせをしよう
思い思い描くたった一つの
青く光る一瞬の煌めきを
≪アトラクトライト 歌詞より抜粋≫
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注目は最後の「青く光る一瞬の煌めきを」です。
実はこの歌詞はアルバム『ラズライトの夢』に収録された楽曲『ラズライト』の最後にも使用されている歌詞でもあります。
『ラズライト』とは鉱物の一種で、青く輝く鉱石。
まさしく「青く光る」石です。
さらにその存在をほのめかすように、Cメロには次のような歌詞が。
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いくつもの挫折を超えて いくつもの冬を超えて
花が開くように 青い宝石が輝くように
だって見つけたんだ 眩しくて仕方ないんだ
その光の正体は…
≪アトラクトライト 歌詞より抜粋≫
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「青い宝石」とは『ラズライト』との繋がりを深く感じざる得ない表現です。
さらにラズライトの石言葉は「真理を追い求め続ける、飽くなき探求者」。
夢を追う少年と被る部分があります。
また、この楽曲のタイトルは『アトラクトライト』で日本語にすると『引きつける光』です。
『夢』というのは、いつだって人を引きつけて止まないものです。
となればこの『引きつける光』とは、まさしく少年が求めてやまない『夢』をさす言葉なのでしょう。
つまり、少年が夢を諦めなかったのは『夢』そのものが少年の心を引きつけてやまないものだったから、なのではないでしょうか。
また夢を追う人というのは、他者から見た時輝いて見えるものです。
成し遂げられない困難に立ち向かおうとするほど、力強く光輝いている姿に見え、その姿には目が引きつけられてしまいます。
となれば『アトラクトライト』というのは、少年自身の夢を追う姿も指しているようにも見えます。多くの人の心を惹きつける人気楽曲となった理由も、そこにあるのかもしれませんね。
TEXT 勝哉エイミカ