4人の登場人物から見えてくる物語の展開を握る鍵
ボカロP「Kemu」を中心に結成されたサークル「Kemu Voxx」。
一つの壮大な世界観を軸に物語を展開する楽曲シリーズを制作した彼らですが、その中で他の楽曲とは一線を引いた印象で話題となった楽曲が『地球最後の告白を』でした。
中毒性あふれるバンドサウンドで紡がれていく物語達の中において、ただ1つ爽やかな印象を受けるメロディーで紡がれたこの楽曲に込められた物語とはどんなものなのでしょうか。
その展開に迫る為にも、まずは登場する人物達をみていきましょう。
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そして
君が知らずに
幸せな灰になった後で
僕は今更
君が好きだって
≪地球最後の告白を 歌詞より抜粋≫
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最初に出てくる人物は「君」と「僕」の2人です。
歌の主役は「僕」の方でしょう。
接続詞から始まった物語のプロローグのような歌詞からは、すでに「君」が亡くなってる事が想像できます。
つまり楽曲の中で「君」が亡くなってしまう事がこの時点で判明しているのです。
それをさらに証明するかのように、物語の中にはこんな登場人物の存在も歌われています。
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百年前の同じ日に君のおばあちゃんは
同じ事を言ったんだ
君の孫の曾孫のその最期に
僕はまた一人になる
≪地球最後の告白を 歌詞より抜粋≫
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誰かと会話をしているような口調の歌詞。その中に登場するのは「君のおばあちゃん」という歌詞です。
「百年前の」と過去を指す言葉がついていることから、このおばあちゃんが「君」である事が想像できます。
となると、僕が話をしている相手は「君」の「孫」にあたる相手だという事になります。
さらにもう1人、Kemuシリーズおなじみの登場人物も出てきます。
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神様ステキなプレゼントをありがとう
なんて到底的外れな
幼い冗談の奥に 大事に隠した
片思いは察してくれないんだ
≪地球最後の告白を 歌詞より抜粋≫
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神様こと、通称「マキ」と公式では呼ばれている人物です。
マキはこれまでの楽曲にも登場し、不思議な力を持って多くの波乱を巻き起こしてきました。
今回もどうやらその力を使って何かを「僕」に「プレゼント」したようです。
これが今回の物語の展開のキーパーソンとなります。次はそれについて考察してみましょう。
「幼い冗談」が生んでしまった望まない「プレゼント」
先ほどの歌詞で「僕」は神様からのプレゼントを嫌がっているようでした。
続く歌詞では「幼い冗談」という言葉が綴られており、これも「プレゼント」に関わるフレーズである事が推測できます。
歌詞を少しさかのぼってみると、このような歌詞がありました。
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「大人になりたくないよ」
なんて大人ぶってさ
駆けた少年の日
どうやら僕に訪れた悪戯は
相当タチの悪い不老不死のおせっかい
≪地球最後の告白を 歌詞より抜粋≫
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「少年の日」というのは「僕」の子供の頃の事を指しているのでしょう。
「大人ぶって」年齢に見合っていない事を言う少年の「僕」。
「幼い冗談」というのはそんな僕の台詞を指していると思われます。
しかしそんな冗談を神様は叶えてしまったようです。その結果「僕」に訪れたものが、最後の歌詞の「不老不死」なようです。
思えば「君」の孫に「僕」がしていたお話の中で「君」は「僕」に不思議な言葉を残していました。
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君の孫の曾孫のその最期に
僕はまた一人になる
≪地球最後の告白を 歌詞より抜粋≫
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未来予知のような不思議な言葉。しかし「僕」が不老不死であるのなら意味は変わってきます。
成長も死ぬこともない「僕」は、知り合いが年老い死んでも、1人だけ取り残される事となります。
つまりこの言葉は、不老不死となってしまった「僕」の行く末を案じた言葉であると考えられます。
そしてそんな「君」の言葉通り「僕」は長い時間を過ごし始めます。
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いつか見た夕焼けは
あんなにキレイだったのに
恋なんて呼ぶには
穢れすぎてしまったね
そして
血が流れて
世界が灰になった後で
僕は今でも
ふいに君を思い出すんだ
誰もいない
枯れた世界で
悪戯の
意味を知ったよ
≪地球最後の告白を 歌詞より抜粋≫
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2番のサビにあたる歌詞では、世界で何か大きな争いが起きている事がわかる描写となっています。
「世界が灰になった後で」という歌詞からは、争いの世界が終末を迎えても、自分1人死ぬことができずにいる「僕」の現状を知ることができます。
しかし、そんな状況の中でも「僕」が思い出すのは「君」のこと。
「いつか見た夕焼け」とは「僕」がまだ普通の少年であった頃に「君」と見ていた景色だったのかもしれません。
続く歌詞からは、はるか遠くになってしまった過去の光景を前に、自分が願ってしまった冗談を悔やんでいると思われる心情が感じられます。
しかし、神様にもらった「悪戯」つまりは「不老不死」となった意味を知ったと歌っています。
はたしてその意味とはなんなのでしょうか。「僕」が得た答えに迫ってみましょう。
誰もいなくなった世界で「僕」が見つけた「不老不死」の意味
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臆病
でも今なら言えるんだ
地球最後の告白を
いつか見た夕焼けは
あんなにキレイだったのに
恋なんて呼ぶには
遠回りしすぎたよ
そして
何もかもが
手遅れの灰になった後で
僕は今更
君が好きだって
君が好きだったって言えたよ
≪地球最後の告白を 歌詞より抜粋≫
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誰もいなくなった世界で「僕」は、ずっと想い続けて来た「君」へやっと告白できたのです。
「今なら言えるんだ」という歌詞から「僕」は、ずっと告白をするタイミングを探していた事が想像できます。
幼い子供の中には、恥ずかしくて好きな子程いじめてしまったり、からかってしまうという子がいます。
きっと少年の頃の「僕」も、そのような理由で「君」に想いを告げる事ができずにいたのでしょう。
しかし、誰もいなくなった世界では恥ずかしさなど感じる必要はありません。
つまり「僕」は、自分が不老不死になったのは、こうして自分の本音を口にする為だったのだと結論づけているのです。
その光景だけを見ると、恋を恥ずかしがる甘酸っぱい恋愛模様のようです。
こうして考えると「地球最後の告白を」は、他のラブソングと何も変わらない、初恋の模様を歌った恋愛ソングだった事が判明します。
けれど、それを甘酸っぱいと呼ぶには、そこに至るまでが長過ぎました。世界一遠回りな告白です。
この歌が終わった後も、きっと「僕」は灰になる事はできないのでしょう。
誰もいなくなった世界で、ただ1人の事を変わらず想い続ける。
それが地球という世界の最後の1人となってしまった「僕」が唯一できることなのだから。
TEXT 勝哉エイミカ