怒りと愛がせめぎ合う人間ドラマの真骨頂!
ベストセラー作家・吉田修一の同名小説を原作とし、2016年に公開された映画『怒り』。
監督・脚本を務めたのは、映画『悪人』でも吉田修一とタッグを組んで注目を集めた、李相日( リ・サンイル)です。
1つの未解決事件を軸に人を描き出した、映画『怒り』の見どころをたっぷりご紹介します。
犯人に似た大切な人を信じきれるか
ある夏の暑い日、八王子で夫婦が惨殺されるという事件が発生。
現場には「怒」の血文字が残されていました。
事件から1年、犯人は「山神一也」なる人物と判明したものの、整形手術をして逃亡を続け行方知れずとなります。
そんな中、千葉・東京・沖縄には素性の知れない3人の男が現れるのです。
千葉県の房総では、歌舞伎町の風俗店で働く槙愛子が、父・洋平に連れられて3ヶ月ぶりに実家へ帰ってきていました。
愛子はそこで、2ヶ月前から洋平と共に漁港で働く田代哲也と出会います。
一方、東京都内では、大手通信会社に勤める藤田優馬が、クラブで出会った男との一夜限りの関係を楽しんでいました。
そして、優馬は新宿で大西直人と出会うのです。
また、沖縄の離島には、男と問題を起こした母親と夜逃げ同然で移住してきた高校生、小宮山泉が暮らしていました。
泉は、無人島でバックパッカーの田中信吾と遭遇します。
殺人犯を追う警察によって公開された、新たな指名手配写真。
それぞれの怪しげな3人の男たちは皆、その写真とにていたのでした。
3人の男と関係を深めていた人々は、次第に疑いを持ち始めます。
愛する人は、殺人犯だったのか。
信じたいと願う彼らの前に突きつけられた真実に衝撃を受ける、群像ミステリードラマです。
人気俳優陣の演技力の高さを見せつけられる!
物語の中心となる前歴不詳の男を演じたのは、松山ケンイチ・綾野剛・森山未來の3人。
彼らと出会って関係を築く人物には、渡辺謙・宮﨑あおい・妻夫木聡・広瀬すずが起用されました。
『怒り』での役作りや撮影は、かなり壮絶なものだったとのこと。
宮﨑あおいは1ヶ月で7キロの増量に挑んだり、広瀬すずはカメラの回らない9時間ものリハーサルに挑んだりしたそうです。
また、ラブシーンもある同性カップルを演じるにあたり、妻夫木聡と綾野剛は撮影中の2週間、実際に同居生活を送りました。
そうした過酷な撮影のおかげもあって、個々の人物像がリアルに描き出され、ストーリーに更なる深みを持たせることに成功しました。
この映画の特徴は、主役級の華やかな俳優陣を集めながらも、誰もが日陰のキャラクターを演じていることにあります。
本来持っている輝きをあえて剥ぎ取ることで、生身の人間の本質や心の複雑さがうまく表現されています。
映画の内容が身近に感じられるのは、キャストの高い演技力によるところが大きいでしょう。
痛烈なストーリーに人の心を繊細に描く
殺人事件の犯人を追うストーリーでありながら、犯人候補とその周囲の人物の心の動きを丁寧に描いたことこそ、映画『怒り』の魅力ではないでしょうか。
山神と疑われる3人の男たちは、それぞれどことない不審さがあります。
しかし、物語が進むにつれて、3人が築いてきた周囲の人との関係性に温かみを感じ、誰も犯人でなければいいとさえ思えてくるでしょう。
だからこそ、観る人は登場人物たちと同じ目線に立ち、明かされる真実に悲しみ、苦しまずにはいられません。
自分の愛する人や信頼する人が怪しく思えたとき、自分は相手を信じられるだろうかと考えさせられます。
緊迫感あふれるヒリヒリした展開に、目が離せなくなる映画です。
ピアノとチェロが織り成す美しい主題歌「M21-許し forgiveness」
映画『怒り』の主題歌は、『M21-許し forgiveness…-』です。
作曲を手掛けたのは『坂本龍一』で、演奏には『2CELLOS(トゥーチェロズ)』も参加しました。
日本を代表する作曲家、坂本龍一と共演した2CELLOSは、2本のチェロによるパフォーマンスが話題の、クロアチア出身のチェロ・ユニットです。
ロックンロールさながらの情熱的な演奏が注目を集めています。
そんな豪華共演による、美しくも哀しいピアノとチェロのセッションが『M21-許し forgiveness…-』。
演奏は、不安を掻き立てるような不協和音を多用したメロディから始まります。
同じフレーズを繰り返しながら何気なく変化していく旋律が、映画の中に宿る怒りや慟哭の感情を包み込み美しい音楽へと昇華させています。
映画のエンドロールで『許し』と題されたこの曲が流れる時、きっとあなたも誰かを想って胸が熱くなることでしょう。
PVの映像には、映画のシーンを軸に坂本龍一と2CELLOSの演奏シーンをインサート。
映画に込められた世界観と美しい楽器演奏の魅力の両方が味わえますよ。
映画「怒り」は人の弱さと美しさを描く傑作!
映画『怒り』は、人の心を繊細に描いたストーリーと、実力派俳優たちの体当たりの演技が魅力の群像劇です。
人は誰しも、疑心暗鬼に陥ったときには、他者を信じることが難しくなります。
それでも誰かを信じたいと願うのは、人としての性であり、美しさなのかもしれません。
信じることの難しさや強さ、わずかな希望を胸に生きることの尊さを学べる映画といえるでしょう。
愛する人を持つ人なら必ず心を揺さぶられる、映画『怒り』に、ぜひ一度触れてみてください。
TEXT MarSali