アニソンを超えたアニソン
『CALLING』は、メジャー19枚目のシングルであり、FLOWにとって10作目のアニメタイアップ曲でもあります。FLOWは3回にわたって、アニソンに絞ったライブを開催するほど、アニメのタイアップが多いバンド。
これまで数々のアニソンを手がけてきた彼らにとっても『CALLING』は、思い入れの深い曲になったことでしょう。
しかし、FLOWの特徴はただのアニソンで終わらないこと。
アニメの世界に寄り添うだけでなく、きちんとFLOWの音楽やFLOWを表現しているところが、彼らの魅力です。
それではアニメファンだけでなく、多くの人の心に奥深く刺さる『CALLING』の歌詞に迫っていきましょう。
呼びかけるのは誰?
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「この声が聴こえていますか?」
呼んでいる 胸のずっと 奥のところで
≪CALLING 歌詞より抜粋≫
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歌い出しは、まるで語りかけるような歌詞が印象的です。
そっと心を覗かれたような驚きと、不思議な温かさに満ちています。
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どうかひとりぼっちの その隣のもう一人のひとりぼっちでいさせて
だって二人いれば ふたりぼっちさ ほらね もう一人じゃない
≪CALLING 歌詞より抜粋≫
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ひとりぼっちという言葉から連想されるのは、孤独でしょう。誰からも理解されない、誰も味方がいない状態は、とても苦しいものです。
しかし、孤独だと思っていた時に、隣に誰かがいてくれたら、それだけで心強いものです。
それを「もう一人のひとりぼっち」と表現しているところがいいですね。
ひとりぼっちとひとりぼっちなら、一人じゃない。
そんな温かいメッセージが込められているように感じます。
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誰かがそばにいないのが 淋しいわけじゃないんだよ
この痛み誰か気付いてと そんな心がきっと泣いてたんだね
≪CALLING 歌詞より抜粋≫
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ひとりぼっちだから寂しいわけじゃない、というところが深いですね。
心の痛みに気づいて欲しいのに、誰にも気づいてもらえないから寂しいのです。
人知れず心が叫んでいる、その苦しさが、痛いほどに伝わってきます。
心が泣いていることに、本人ですら気づけていない。だから心は難しいのでしょう。
いつのまにか傷ついて悲鳴を上げているその声に、そっと寄り添う歌詞が印象的です。
目に見えない、心に寄り添う物語
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今 際限ない悲しみの 要塞を走り抜けて 君に会いに行くよ
実際 散々探し回っているんだ 遠く聞こえた泣き声に
耳を澄まして
≪CALLING 歌詞より抜粋≫
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「際限ない悲しみの要塞」という表現が秀逸です。
留まることを知らず、沸いてくる悲しみ。
誰にも心を触れさせず、一人で震えている人の救いようのない心を示しているようです。
鉄壁の要塞のような心でも、どこかに突破口があるはず。そう信じて、心の鳴き声に耳を澄ませるのでしょう。
“絶対に見捨てない”という強く温かい決意が感じられますね。
「君」を待ちわびていた人は?
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たったひとつだけのその命は 決して君を離す事はないよ
ただ一人君の命の火は 君を信じて燃えてる
≪CALLING 歌詞より抜粋≫
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2番では「命の火」が登場します。どんなに絶望的な状況でも、生きる希望をなくしてしまっても、たった一つの「命の火」だけは、生きることを望んでいる。
それは”どうか死なないで”という、強い願いのようにも聞こえます。
誰からでもなく、自分自身の心から聞こえる叫び。それが「命の火」ではないでしょうか。
生きたいのに、生きたくない。死にたいのに、死ぬのが怖い。そんな心の葛藤の奥で、人知れず命の火は燃え続けるのです。
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声にならない声も 上げそこねた叫びも
響く深い心の底から こんな所にいたの 見つけたよ
≪CALLING 歌詞より抜粋≫
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このように「僕」はずっと、心の声に耳を澄ませて、その居所を探していました。
「こんなところにいたんだね」と語りかける歌詞は、まるで幼い子供に言い聞かせるようで、胸が温かくなりますね。
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今に崩れ落ちそうな 君が見せた笑顔 この胸痛くて
もう何も言わなくていいよ 繋いだその手だけは 離さないで
今 際限ない悲しみの 要塞を打ち砕いて 君を連れて行くよ
いいかい 全力で走り切るんだ 置いていかれた君が待つ
涙の場所へ
≪CALLING 歌詞より抜粋≫
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ずっと探し求めてきた君の「心」をようやく見つけて、ひとりぼっちだと泣いている「君」のところへ、連れていく場面です。
心と身体がばらばらになってしまった「君」に、心を戻してあげる。そんな歌のように聞こえます。
しかし、実は次の歌詞ですべてがひっくり返ります。
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君を信じて燃えている 僕のところへ
≪CALLING 歌詞より抜粋≫
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「君を信じて燃えている」のは、命の炎です。
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たったひとつだけのその命は 決して君を離す事はないよ
ただ一人君の命の火は 君を信じて燃えてる
≪CALLING 歌詞より抜粋≫
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「ただ一人君の命の火は 君を信じて燃えてる」
もうおわかりですね。
「君」を探していた「僕」こそが命の火だったのです。
ただ待つだけではなく、自分で迎えに行くという発想がさすがです。
いつ消えてしまうかもしれない、命の火。
目には見えないものを擬人化して描くことで、今にも消えてしまいそうな不安を抱えながら「命の火」が、ひとりぼっちの「君」を迎えに行く。
そんなドラマチックな物語を作り上げたKOHSHIのセンスに、目を見張ります。
自分の身体も、自分の心も、自分一人のものではなく、たくさんの人に支えられている。
少なくとも、静かに燃え続ける命の火だけは、自分を信じてくれている。
いつ消えてしまうかもわからない命を必死で燃やしながら、主の生存を願っている命の火は、とても健気ですね。
『CALLING』というタイトルには、助けを呼ぶ主の声と、主の心を探し求める「命の火」の声という、2つの意味があるのではないでしょうか。
そう思うと、
“少しだけ、自分に優しくなってみようか”
“もう少し、生きてみようか”
と、明日からの時間を前向きに見つめられそうですね。
さりげなく寄り添い、生きる勇気を与えてくれる、珠玉の名曲といえるのではないでしょうか。
TEXT 岡野ケイ