「きみ」と別れたくない「ぼく」が口をつぐんだ言葉とは
ボカロP想太の初のミリオン達成曲『いかないで』。
ボーカロイド歌愛ユキのオリジナルソング初のミリオン達成楽曲でもあり、ボカロ界だけではなく歌愛ユキの界隈にも衝撃を与えた大人気楽曲となっています。
人気の最大の理由は「情景」です。
細やかな表現に楽曲の情景が浮かび、多くの人が歌詞に込められた切ない思いに胸を打たれています。
はたしてどのような情景が、人々を切ない気持ちにさせているのでしょうか。
歌詞の意味を考察してみましょう。
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何でもないと口をつぐんだ
ホントはちょっと足を止めたくて
だけどもきみは早足ですっと前を行くから
ぼくはそれを見つめてる
≪いかないで 歌詞より抜粋≫
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主人公のぼくは、きみの後を追う形で歩いていますが、足を止めたいと思っているようです。
しかしそれを口にするのは、はばかられるらしく、口をつぐんでしまいます。
その理由が、次の歌詞で歌われています。
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最終便 きみは乗る ぼくを置いてって
はしりだす ゆっくりと 地面がずれていく
泣いちゃだめ 泣いちゃだめ でもホントは言いたいよ
「いかないで」
遠くへと 消えていく ぼくを置いてって
もう随分 見えないよ 夜が崩れていく
泣いちゃだめ 泣いちゃだめ でもホントは言いたいよ
「いかないで」
≪いかないで 歌詞より抜粋≫
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どうやらふたりは、最終便が出る深夜の駅にいるようです。しかし電車に乗るのはきみで、ぼくは見送りに来ただけのようです。
ぼくは、そんな別れの時間を辛く思っています。
最後に歌われる「いかないで」が、きっと冒頭で口をつぐんでしまった言葉なのでしょう。
ただのお別れにしては、とても切実な思いで溢れた光景です。
どうしてぼくは、ここまできみとの別れを惜しんでいるのでしょうか。
次の歌詞とともに、考察してみましょう。
「きみ」に「いかないで」ほしい理由
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祭りも終わればいつもと同じ
変わらぬ夜が来るんだと知った
だけどもきみはいつもよりずっと色っぽく見えて
ぼくはそれを見つめてる
≪いかないで 歌詞より抜粋≫
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2番の歌詞からふたりが祭りに行った帰り道だという事がわかります。
祭りという非日常感が心を浮足立たせるのか、きみがいつもより色っぽく見えています。
ぼくはきみに恋愛感情を抱いているのかもしれませんね。
しかし、そんな非日常にも終わりの時間はやってきます。ぼくはきみと歩きながら気づいたようです。
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時間だけが 過ぎていく ぼくを連れてって
帰り道 暗いけれど 一人で大丈夫かな
街灯に 照らされて 影ができている
一人ぼっちさ
≪いかないで 歌詞より抜粋≫
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きみが電車に乗った後の光景でしょうか。一人で道を歩くさまから、電車に乗らなくてもいい場所に住んでいる事がわかります。
ここからぼくがきみとの別れを惜しんだのは、そんなきみとの距離が離れてしまうからと考察できます。
電車に乗らないと帰れないほど遠くに住んでいるきみ。
もしかしたら元々ぼくと同じ町に住んでいたのかもしれません。
しかし今は、時々しか戻ってこれないのではないでしょうか。
自分の想い人が、再び遠くの地に去っていく。
それがぼくが、この別れを惜しんでいる理由なのでしょう。
別れたくないけど別れなければならない「ふたり」の歌
しかし、それはきみも同じ思いだと思われます。
なぜなら1番の歌詞で、きみに関してこのように歌われているからです。
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だけどもきみは早足ですっと前を行くから
ぼくはそれを見つめてる
≪いかないで 歌詞より抜粋≫
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早足で歩くきみ。最終便に間に合わせようと急いでいるようにも感じられます。
しかし、自身の迷いを吹っ切ろうと、足早に歩いていると解釈する事もできます。
本当はもっとぼくとの時間を過ごしたいのに、帰らなくてはいけない理由がある。
だから自身の迷いを吹っ切る為に、振り返らずに歩いていると捉える事ができるのです。
もしかしたらぼくが「いかないで」と言えばきみは、歩みを止めたのかもしれません。
でも最後までぼくが、自分の思いを飲み込み続けた事が大サビで歌われています。
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遠くへと 消えていく ぼくを置いてって
完全に また今度 夜が滲んでいく
泣いちゃだめ 泣いちゃだめ でもホントは言いたいよ
「いかないで」
泣いちゃだめ 泣いちゃだめ でもホントは言いたいよ
「いかないで」
≪いかないで 歌詞より抜粋≫
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「夜が滲んでいく」というのは、ぼく自身の視界の描写でしょう。
一人になったところで、ついに我慢できずに泣きだしてしまったようです。
「泣いちゃだめ」と繰り返し歌われています。
そう自身を戒めようとするほど、さらに涙を溢れさせてしまっている情景が浮かび、聴いてるこちらの胸も苦しくなる切なさがあります。
別れたくないのに別れなくてはいけない。そんなふたりの甘酸っぱい夏の夜。
それが人々に切ない気持ちを運んでくる、この楽曲に込められた情景のようです。
TEXT 勝哉エイミカ