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実話から生まれた心温まるバディムービー
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2011年公開の映画『最強のふたり』は、人間ドラマをコミカルに描くフランス映画です。
このストーリーは実話がもとになっており、全身麻痺を患う大富豪フィリップと介護人になったスラム街出身の青年アブネルの交流を記したドキュメンタリーが原作。
彼らの交流に感銘を受けた映画監督のエリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュが、映画化に踏み切ったそうです。
ハートフルな内容と映画としての表現力が評価され、アカデミー賞外国語映画賞のフランス代表作品に決定されるなど、映画界で注目の的となりました。
デリケートな内容をコメディタッチで描くストーリーは世界に広がり、ハリウッドリメイク版『THE UPSIDE 最強のふたり』も大ヒットとなりました。
ストーリーのベースはほぼ共通していますが、それぞれ表現の仕方や設定に違いがあり、異なる面白さを演出しています。
あらすじや見どころなどの情報から、日本でも高い人気ぶりを見せた本作の魅力を紹介します。
出会うはずのなかったふたりが見つける最高の友情
大富豪のフィリップは、趣味のパラグライダーの事故が原因で頸椎を損傷し、首から下が麻痺したために車椅子生活を余儀なくされています。
彼と秘書のマガリーは、住み込みで世話をしてくれる介護人を募集。
多くの人が面接でもっともらしい理由を述べて採用を勝ち取ろうとする中、異彩を放っていたのが黒人の青年ドリスです。
青年には働く気がなく、不採用通知を受け取ることで得られる失業手当を目当てに、面接にやって来ていました。
そのことを正直にフィリップに対してはっきり伝えますが、自身を障害者と扱おうとしない飾らない態度に惹かれ、彼はあえてこの青年を介護人に採用します。
ふたりの間で1ヶ月間の仮契約が結ばれますが、青年は介護の経験も知識も一切ありません。
他の使用人によると、これまでの介護人は全員一週間ほどで音を上げたそう。
しかし周囲の心配をよそに、ふたりは白人と黒人の壁を越え、親友のように距離を縮めていきます。
障害持ちの大富豪とスラム街出身の青年という出会うはずのなかったであろうふたりが、どのように友情を育んで変化していくのか。
観れば心が温まる、笑いあり涙ありのハートフルな人間ドラマです。
観る人を和ませるキャストの演技に注目
心の交流を描く本作は、キャストの演技がかなり重要になりますが、演技面でのバディ感も最強だという感想を持つ人が多いようです。
インテリの富豪を演じたのは、フランスを代表する演技派俳優であるフランソワ・クリュゼ。
全身麻痺を患っているという役どころのため、顔以外は一切使うことができませんでしたが、表情や声の演技で人柄を巧みに表現しています。
介護人の黒人青年を演じたのは、コメディアンで俳優もこなすオマール・シー。
本作で初主演を果たし、愛嬌たっぷりの笑顔とユーモアのある多彩な演技が評価され、セザール賞主演男優賞を受賞しました。
主演のふたりを筆頭に、豪華なキャストたちが自然な演技を披露し、観る人の心を和ませてくれます。
彼らの演技には日本の著名な俳優陣も軒並み高評価のコメントを寄せていて、同業者も納得の作品であることがうかがえます。
典型的な差別の現状をユーモアたっぷりに描く
本作が全世界で愛される作品となったのは、何もかも正反対のふたりが友情を深めていくストーリーに胸を打たれるからでしょう。
その中でも特徴的で面白いのは、青年の性格です。
障害を持つ人と対面すると、誰でも少なからず同情したり気を遣うものですが、この青年には少しもその様子が見られません。
むしろ、散歩中には車椅子の相手に向かって「遅い」を言ったり、雪玉を投げつけて「たまには投げ返せ」と軽口を叩くことさえします。
周囲に不謹慎と思われそうな対応ですが、フィリップにとっては自分を障害者としてでなく、1人の人間として扱ってくれる貴重な存在だったのでしょう。
互いの違いを当たり前のものと見て、それぞれの不足部分を補う関係はまさに友人。
遠慮なく意見を言い合い、時にブラックジョークを交わすようになったふたりは、いつも笑顔です。
ストーリーも終始コメディタッチで、観ている方も思わず一緒になって笑ってしまうような楽しい雰囲気が流れています。
障害をテーマにしながらもここまで明るい印象を持てる映画は、数少ないのではないでしょうか。
また、ふたりが障害者と健常者ということだけでなく、由緒ある家系の白人とスラム街の貧しい家庭で育った黒人であることも、重要なポイントです。
白人と黒人の間に見られる人種差別は、現代でも当たり前のように横行しています。
さらにフランスでは、移民系の黒人が就職することすら難しい状況だそうです。
本作の中で、青年が不採用通知をもらおうとしていたことや、人種の違いを馬鹿にするような発言が飛び交っているのは、そうしたフランスの社会問題をリアルに描いているからなのでしょう。
つまり、重い障害と人種という、2つの越えられない壁がふたりの間にはそびえ立っているのです。
それでもふたりが笑い合い、一瞬一瞬を楽しんでいる姿を観ると、自分の見方や生き方までも考えさせられるでしょう。
自分や周囲の人を見た目や印象でカテゴライズして接するのではなく、青年のように誰に対しても同じ目線で真っ直ぐに向き合いたいものですね。
「September」が気分を盛り上げる!
本作は挿入歌として過去の名曲がいくつも使われており、音楽の魅力をたっぷり感じられる映画でもあります。
なかでも、テーマ曲と言える代表的な1曲が『September』です。
アメリカのファンクバンド『Earth,Wind&Fire』の代表曲で、1978年にリリースされました。
海外ではこれまでにもCMソングや映画のサウンドトラックとして使用されたり、日本でもテレビドラマの主題歌に起用されるなど、聴き馴染みのある曲ではないでしょうか。
本作の作中では、映画の要となるオープニングで流れ、これから始まる物語への気分を高めてくれます。
この曲は、リズム感の良いキャッチーなメロディが覚えやすく、明るい曲調のダンス・クラシックです。
9月に出会った女性との思い出を冬まで引きずっている一途な切ない恋心を、多彩な表現で綴った歌詞も印象的。
ボーカルのフィリップ・ベイリーの優しく美しいファルセットが心地良く伸び、さわやかなメロディとマッチします。
映画全体に漂う温かな雰囲気をリードする名曲です。
ハリウッドリメイク版の「Think」も名曲
ハリウッドリメイク版では、R&Bシンガーのアレサ・フランクリンが歌う『Think』がテーマ曲となっています。
1968年にリリースされた楽曲ながら、CM曲に多く起用されるなど現在でも人気の高いクラシック・ソウルです。
軽快なメロディをバックに、女性の自由を声高らかにシャウトするサビがパワフルで、思わず口ずさみたくなります。
フランスのオリジナル版だけでなく、ハリウッドリメイク版も名曲揃いなので、音楽にも注目してみてください。
「最強のふたり」は前向きな気持ちを与えてくれる!
映画『最強のふたり』は、障害や人種による差別をテーマに、異色の友情を明るく描いています。
白人と黒人の間の根強い差別は、日本に住む私たちにとってニュースでしか知らない縁遠いテーマかもしれません。
しかし、障害を持つ人への接し方や外国人への見方など、気付かないうちに差別的な行動を取ってしまうこともあるでしょう。
本作はその事実を強く否定することなく、前向きな気持ちで生きることを楽しむという点にスポットを当てています。
視野を少し広げて見れば、新たな発見ができたり、今まで交流のなかった人とも仲良くなれるかもしれないと感じられるはずです。
最高のバディを描く映画『最強のふたり』を観て、本当に楽しく生きるためのヒントを見つけてみてくださいね。
TEXT MarSali