ラジオから生まれた異色のコラボ
MCバトル3年連続日本一のラッパーR指定と2019年DJ世界一に輝いたDJ松永からなるCreepy Nuts。そして映画やドラマで引っ張りだこの実力は人気俳優の菅田将暉。
『サントラ』は、この2組による異色のコラボ曲です。
その発端は両者がともにパーソナリティーを務めるラジオ番組「オールナイトニッポン」でした。
大阪出身である菅田将暉とR-指定が自分の番組内でお互いの地元をディスり合うという展開から始まり、それぞれ相手の番組にゲスト出演するという流れになったのです。
活躍するフィールドは違えど、同世代の彼らはすぐに意気投合します。
菅田将暉は音楽活動も活発に行っていることから、自然とコラボ楽曲を作るという話が持ち上がりました。
それから約1年、ようやく発表された待望のコラボ曲が『サントラ』なのです。
どんな内容の曲なのか、歌詞を見ていきましょう。
ヒップホップと俳優、それぞれの仕事
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悩み事 隠し事 私事だらけを書く仕事
悩み事 隠し事 のみこんで笑顔でやる仕事
目の前の白紙ごと 塗りつぶす想いを吐く仕事
泣く仕事笑う仕事 自分じゃない誰かになる仕事
傾奇者 お尋ね者 なれずに何故か もがく仕事
あらぬ事よからぬ事かきたてられ心底病む仕事
≪サントラ 歌詞より抜粋≫
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シンプルなギターのフレーズをバックにR-指定のラップが始まります。
全ての行が「仕事」という言葉で終わっているのみならず「隠し事」「白紙事」などその前の言葉も「しごと」で韻を踏んでいます。
さらに言うとフレーズ最後の「仕事」の前の言葉はすべて母音が「au」で統一されています。
曲の最初からかっちりと韻を踏んで決めていく、R-指定のこだわりが見える気がします。
ここでは自分たちの仕事がどういうものなのかを客観視して描いています。
最初の3行はヒップホップという音楽を鳴らすCreepy Nutsの仕事についてです。
そして後半の3行は俳優である菅田将暉の仕事についてでしょう。
仕事のつらさやネガティブな面も取り上げつつ、それでもこの仕事に向き合っていくんだという思いが伝わってきます。
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いくつもの言の葉を紡ぎやっと一つ伝わる仕事
言葉すら不要 目の動き一つ全て伝えてしまう仕事
自分を正当化する仕事 自分を過大評価する仕事
大勢の他人を蹴落としてでも
自分を認めさせる仕事
泣かせる仕事 笑わせる仕事
見たお前が勝手に重ねる仕事
ヒトの感情以外は何一つ生み出さぬ仕事
≪サントラ 歌詞より抜粋≫
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ここでもお互いの仕事について、さらに踏み込んだ表現として描かれています。
「いくつもの言の葉を紡ぎやっと一つ伝わる仕事」はラップで言葉を重ねていくCreepy Nutsのこと。
そして「言葉すら不要 目の動き一つ全て伝えてしまう仕事」は俳優としての菅田将暉の仕事でしょう。
「言葉」というキーワードを軸に、お互いの仕事の在り方を見事に表しています。
そして重要なのは最後の「ヒトの感情以外は何一つ生み出さぬ仕事」というフレーズです。
音楽でも演技でも、聴衆や観客がいなければその表現は成り立ちません。
そしてそれらの人々がどのような感情を持つのか、演者には見えないのです。
しかし確実に自分たちは相手の感情を揺り動かし、ヒトの心に新しい感情を生み出しているんだというプライドが垣間見えます。
自分の仕事にプライドを持つことと相手の仕事をリスペクトすることを見事に描き切っていると思います。
特別な人生じゃなくてもいい
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映画みたいな生まれ育ちや
ドラマみたいな過去じゃ無くても
華々しく照らしてくれ
ありふれた生き様を
この人生ってヤツはつくりばなし
自分の手で描いて行くしか無い
あの日でっち上げた無謀な外側に
追いついてく物語
≪サントラ 歌詞より抜粋≫
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曲のサビでは曲調が一転、パンクロック風の性急なビートで菅田将暉のボーカルがフィーチャーされます。
ここで歌われるのは特別な人生ではなくても、それぞれの人生を力強く生きることがその人の生き様なんだということです。
人生という物語の主役は自分自身です。
映画やドラマのような物語ではなくても、ありふれた人生でいいのです。
菅田将暉もCreepy Nutsも特別に波乱万丈なキャリアを歩んできたわけではありません。
地道に自分たちの仕事をやってきた結果今の位置にいるという感じでしょう。
そんな自分たちのキャリアも反映した歌詞なのではないでしょうか。
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26最後の夜、少し期待して目を閉じ眠る
27最初の朝、何事も無くまた目が覚めた
≪サントラ 歌詞より抜粋≫
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この部分の意味については少し説明が必要かもしれません。
昔から主にロックミュージシャンの中で、27歳で亡くなってしまった伝説的なアーティストたちが多く存在します。
これらを称して「27クラブ」と呼ぶこともあります。
代表的なところではジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズ、ドアーズのジム・モリソンなどです。
近年でもエイミー・ワインハウスが27クラブの仲間入りとなりました。
多くの伝説的なアーティストが27歳で亡くなっているというのは事実です。
では27歳になった自分が特別な存在であれば何かが起きるのではないか?
しかし、何も変わらずに昨日と変わらない日常を過ごしているというわけです。
自分はレジェンドたちとは違い、平々凡々な人生を歩んでいるに過ぎない。
1番の歌詞にもあった「ありふれた生き様」であることを改めて描いているのだと思います。
ありふれた人生の「サウンドトラック」
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声を張り上げて 肩を震わせて
目を見開いて赤い血をたぎらせて
生々しく書き上げてく
自分だけの生き方を
夢なんて見なけりゃ苦しまない
それでもこうしてもがいて行くしか無い
あの日踏み外したレールの向こう側に
刻みつける物語
≪サントラ 歌詞より抜粋≫
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最後に改めて自分たちの生き様を声高に刻み付ける歌詞です。
夢を見て、理想を掲げても簡単にたどり着くことはできません。
ありふれたやり方だったとしても、もがき苦しみながら自分の信じた道を進んでいくしかないのです。
これはCreepy Nutsと菅田将暉の生き方であると同時に、この曲を聞いたリスナーがそれぞれ自分の人生に投影して置き換えることのできる歌詞だと思います。
みんなそれぞれ自分が主役の人生を生きています。
その物語のバックに流れるサウンドトラック、つまり『サントラ』としてこの曲が流れていてほしい。
そんな思いが込められているのかもしれません。
TEXT まぐろ