「百円の恋」とは
2012年、松田優作の出身地である山口県で開催されている周南「絆」映画祭で、脚本賞である「松田優作賞」第1回グランプリを受賞したのが、足立紳の『百円の恋』でした。
その後映画化され、第88回米アカデミー賞の外国語映画賞日本代表に選ばれるなど、海外からも高い評価を受けた作品です。
また第39回日本アカデミー賞では、最優秀脚本賞も受賞しました。
100円ショップの出会いが、人生を変えていく
実家に引き込もり、だらしない毎日を過ごす32歳の一子は、離婚して実家に戻ってきた妹の二三子との大ゲンカをきっかけに、やけになって一人暮らしを始めました。
100円ショップでの深夜バイトにありついた一子は、寡黙に練習を続ける引退間近の中年ボクサー・狩野と出会い、恋に落ちます。
しかし、彼との幸せな日々も長くは続かず、同棲を始めるもあっさり捨てられてしまいます。
そんな日々の中で、たまたま始めたボクシングにはまり込んでいきます。
まるで見えない敵である自分自身を相手にするように、無心でボクシングに打ち込む一子。
徐々に彼女の人生は変わっていくのでした。
いくつになっても、人は変われる!
映画『百円の恋』は、安藤サクラに圧倒されます。
彼女がひたすら殴り、殴られ、転んでは立ち上がり、吠えます。
ダラダラしたニート女子の冴えない日常が展開されていたのが、突如ストーリーが動き出します。
ただのグダグダニートだったはずの一子が身体を絞り、精悍なボクサーへと見事な変貌を遂げるのです。
パンチもヘロヘロした猫パンチから、切れ味鋭いシャドーボクシングへ。
自称・時価総額100円の女が、どんどん格好よく変わっていく姿には、目を見張るものがあります。
それと同時にストーリーも、かなり引き締まったものへと急変します。
怠惰な日々とシャープな切れ味のある日々とのバランスが絶妙です。
物語は、予想も出来ない展開に胸を打つ感動の波が押し寄せます。
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ニートからボクサーになる今作品。
人生はなかなか上手くいかず、少し努力したからといって、そう簡単に夢が叶うものでもありません。
けれども、人生は変えることができ、夢に向かい戦う人の姿は格好いいと、思わせてくれます。
コメディ要素も多く、笑って泣ける素晴らしい作品です。
安藤サクラに圧倒される!
映画『百円の恋』は『嫌われ松子の一生』『イン・ザ・ヒーロー』などを手掛けた武正晴が監督を担当。
音楽は『虹色デイズ』『僕は友達が少ない』などを手掛けた海田庄吾が担当しました。
≪キャスト≫
斎藤一子:安藤サクラ
狩野祐二:新井浩文
斎藤佳子:稲川実代子
斎藤二三子:早織
岡野淳:宇野祥平
野間明:坂田聡
主演は、俳優の奥田瑛二とエッセイストの安藤和津を両親に持つ安藤サクラ。
けれども彼女は親の七光りではなく、素晴らしい実力派女優なのです。
安藤サクラは、女優デビューして2年目の2009年、CNNの「まだ世界的に名前は売れていないが、演技力のある日本の俳優7人」の一人に選ばれます。
国内では数多くの賞に輝き、2016年には『百円の恋』で日本アカデミー賞主演女優賞を受賞。
翌年の2017年には第40回日本アカデミー賞の司会を務めました。
2017年、出産後にNHK連続テレビ小説史上初の『ママさんヒロイン』に抜擢。
2018年には、映画『万引き家族』で第71回カンヌ国際映画祭にてコンペティション部門最高賞「パルムドール」を受賞し、海外からも女優として高い評価を得ています。
本作の役作りのため、まず太っただらしない体型を作り上げました。
そこから撮影の残り10日間で体を絞り込み、プロテストに合格できるようなボクサーの体型を作り上げたというから驚きです。
日本アカデミー賞最優秀女優賞も納得の素晴らしいプロ根性です。
本作を観ている2時間弱、彼女の魅力にノックアウトされ続けますよ。
クリープハイプが歌う「百八円の恋」
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映画『百円の恋』の主題歌『百八円の恋』はクリープハイプが担当。
クリープハイプは2012年にメジャーデビューした4人組のバンドで、映画『帝一の國』 主題歌やアニメ『境界のRINNE』OPなど、数多くのタイアップを手掛けています。
『百八円の恋』は映画『百円の恋』のシナリオを読み、ボーカルの尾崎世界観が書き下ろしたオリジナル楽曲です。
映画『百円の恋』に、当時の消費税8%分を合わせて『百八円の恋』とタイトルもユニークで彼らの魅力が際立ちます。
始まりのフレーズからわかるように『百八円の恋』は、この映画のために書き下ろされた楽曲です。
「痛い痛い…居たい」という歌詞はインパクトあり、本当に胸が痛いですね。
身体も心も、殴られては立ち上がるヒロインに重なります。
ボーカルの尾崎世界観の、絶叫するような歌声がなんだか耳に残り、聴いてるうちにどんどんハマってしまいます。
愛の歌であり、ファイトソングであり、共感を呼ぶ、素晴らしい歌です。
「生きる」ことに目覚めるヒロイン
映画『百円の恋』は、タイトルに「恋」とありますが、実は恋がテーマの作品ではありません。
もちろん恋もしていますが、今の自分を変えようとあがき、葛藤しながら人生を切り開く、「生きる」ことに目覚めたヒロインの物語なのです。
きっと心を揺さぶられますよ。
あなたもぜひ映画『百円の恋』をご覧ください。
TEXT 有紀