スリリングな逃亡劇を描く伊坂幸太郎の傑作を映画化!
画像引用元 (Amazon)
2010年公開の映画『ゴールデンスランバー』は、冤罪から始まる逃亡劇を描いたサスペンス・ミステリー作品です。
原作は2008年本屋大賞に選ばれた伊坂幸太郎の同名ベストセラー小説。
その壮大なストーリーの人気は日本だけに留まらず、2019年には韓国でもカン・ドンウォン主演で映画化されています。
日本版の映画作品である本作は、映画『アヒルと鴨のコインロッカー』『フィッシュストーリー』に続いて第3弾となる中村義洋監督とのタッグにより実現。
首相暗殺という身に覚えのない罪を着せられた男が必死の逃亡を図るという内容で、原作自体の空気をそのまま映画に仕立てたような大スケールの作品となっています。
原作ファンも知らない人も楽しめる本作のあらすじや見どころを紹介します。
首相暗殺の罪を着せられた男の逃亡劇の結末とは
舞台は宮城県仙台市。その日は、野党議員から総理大臣にまで上り詰めた仙台出身の金田貞義首相の凱旋パレードが行われようとしていました。
主人公は、宅配ドライバーの仕事をしている見た目はごく平凡な30歳の青柳雅春。
しかし、2年前に女性アイドルの凛香を襲った暴漢を倒したことをきっかけに、仙台では英雄としてよく顔の知れた人物です。
主人公は大学時代の友人の森田から釣りに誘われ久し振りに会うことになりますが、再会を喜ぶ主人公に対して彼は沈んだ表情を見せます。
彼の車内で突然の眠気から目覚めると、彼らの思い出の曲であるビートルズの『Golden Slumbers』が流れていました。
彼は主人公に「お前、オズワルドにされるぞ」と告げます。
それはアメリカ大統領のジョン・F・ケネディを暗殺した男のこと。
困惑する主人公を余所に、彼らの背後で首相を乗せたパレードの車が爆発に巻き込まれました。
不自然なほどすぐに警官隊から追われる身となった主人公は、彼の言葉通り首相暗殺の犯人に仕立て上げられていることを知ります。
射殺もいとわない警察の手から、無事生きて逃げ切ることはできるのか。
手に汗握る逃亡劇が始まります。
豪華キャストが熱気ある演技で魅せる
主人公の青柳を演じるのは、中村義洋監督と3度目のタッグとなる俳優の堺雅人。
人当たりの良い雰囲気がキャラクター像とマッチしていて、白熱する逃亡劇の模様に観る人を引き込む演技を見せています。
本作のヒロインとなる主人公の元恋人の春子役を務めるのは、演技派女優の竹内結子。
人気小説原作の映画に不安はあったそうですが、青柳を助ける1人としてとても重要な役柄をナチュラルに演じています。
他にも、吉岡秀隆、劇団ひとり、柄本明、濱田岳という実力派キャストが脇を固め、スリリングなストーリーにより深みを持たせる演技が楽しめますよ。
信頼の重要性を感じられるストーリーに引き込まれる
本作はスケールの大きなサスペンス作品ですが、人間がしっかり描かれたヒューマンドラマでもあります。
1つの事件を軸にしながら、関わる人の思いや人と人との繋がりにもスポットを当て、より厚みのあるストーリーに仕上げています。
何気なく発した一言がストーリーを大きく動かしたりと、実際にあり得そうな演出で表現されているため、現実感をひしひしと感じられるでしょう。
また、そのストーリーの中心にいる青柳という人物の人柄にも引き込まれます。
彼は真っ直ぐすぎる受け身の性格に付け込まれて、逃亡生活を余儀なくされてしまう不運な男。
しかし、人を純粋に信じられる懐の大きさは、反対に人を引き寄せる魅力でもあります。
現実は良いことばかりではなくても、実直に生きていれば必ず困った時に助けてくれる人がいるということを、主人公の生き方から学ぶことができるでしょう。
同時に、自分が相手を真剣に信じていなければ、自分を信じてもらうことはできないという点についても考えさせられます。
そして、本作最大の見どころとなる事件の真相も気になるところです。
誰が犯人で何が目的だったのか、なぜ青柳が犯人に仕立てられたのか。
本作を注意深く観ていくと、多種多様な登場人物たちがどのように関係していて、事件の背景にどんな陰謀が隠されているのかに気付けるでしょう。
映画序盤から張り巡らされた伏線が、全て見事に回収されていく心地良さもあります。
やや難しいストーリーかもしれませんが、現実同様真実は案外はっきりとは分からないもの。
テンポよく進む物語の登場人物の1人になって、結末の行方を探る面白さを体感してください。
「Golden Slumbers」は映画の鍵を握る重要な主題歌
本作の主題歌は、ストーリーの鍵となる曲で映画タイトルにもなっているビートルズの『Golden Slumbers』です。
ビートルズが解散の危機と言われていた1969年にリリースされたアルバム『アビイ・ロード』に収録されている短い楽曲。
ポール・マッカートニーが作詞したもので、イギリスの作家トーマス・デッガーが生み出した子守唄から着想を得て詞を書いたそうです。
そもそもゴールデンスランバーという言葉は、和訳すると「黄金のまどろみ」。
眠りに入る前の、ゆったりまどろむわずかな時間の心地よさや郷愁を表現したフレーズと考えられます。
その子守唄を体現するドラマチックなメロディが美しく流れ、力強いシャウトが印象的に耳に残るバラード曲です。
眠りに就く前に泣いてしまう子供をあやすような、温かく語りかける歌詞が魅力的。
ポール・マッカートニーは終わりを迎えようとしているビートルズというグループが、またかつてのような関係に戻ることを願ってこの曲を作ったのではないかと言われています。
ミュージシャンとして、メンバーとファン、音楽を大切に思っていたことが伝わってくる優しい曲ですね。
作中でこの曲を歌うのは、本作の映画音楽を監督したシンガーソングライターの斉藤和義です。
演奏も歌唱も自身で行い、ビートルズとは一味違う魅力を感じられます。
映画の主人公たちも過去に戻ることはできません。
しかし、不確かなようで堅く結ばれた信頼は「黄金のまどろみ」のように優しく心を包んでくれるという意味で、ストーリーとリンクする主題歌と言えます。
「ゴールデンスランバー」は人との繋がりを考えさせられる映画!
映画『ゴールデンスランバー』は、人が生きる上で欠かせないものを教えてくれる作品です。
それは人を信じることと、人に信頼されること。
自身の身を守るためには人を疑うことも必要ですが、様々な問題を乗り越えられるかは信じ合える人がいるかどうかで決まります。
自分には純粋に信じられる人がいるだろうか、自分は常に信じてもらえる人だろうか。
本作を観ながら、人との繋がりについて改めて考えてみてください。
TEXT MarSali