僕らは音楽を「されど」と思いたい
──7月に配信リリースされて、今回は2曲目に収録されている「されどBGM」ですが、この曲をすぐにリスナーに聴いてもらいたい、と思ったのはなぜでしょう?三原康司:今までも音楽をテーマにした曲はたくさん書いてきて、今回「されどBGM」というタイトルもそうなんですけど、自分が音楽を生業にしてる以上、音楽に対して歌っていくことは、すごく大事なことだなと思っています。その中で、これは音楽だけに言えることではないんですけど、このコロナ禍で日本中、世界中で「本当にこれは必要なの?」と思うものがたくさん出てきて。
──そうですね。
三原康司:でも実際「たかが」と言われたものも、もっと内面に入っていけば、深い部分があったりするし、見えない部分もどんどん見えてくる。一度相手の立場に立って考えることは、この時期にすごく大事なことなんじゃないかな、と思って。
だからそれを一つ表現として、自分は「たかが」と「されど」という言葉を歌詞の中でつけたんです。やはり僕らは音楽を「されど」と思っていたいし、そういうものが心の栄養になっていると思う。今、伝えるべきメッセージなんじゃないかなと真っ先に思ったから、最初にこの曲を出しました。
──まさにご自身が、コロナに最初に向き合った時の気持ちがつまっている曲ですね。
三原康司:本当にいろいろな場所で、いろいろなことが起こって。身近なことでいえばライブハウスは経営が大変で、続けていくことが難しくなっています。でも実際に箱の外から、人は見えないじゃないですか。ただ、そこで培ってきた文化は、ミュージシャンの土台になっている。
僕らもお客さんが1人や2人の時にずっとライブハウスでやり続けていて、その期間があったからこそ人に優しくできる部分もあると思うし。だから絶対にミュージシャンとしてその文化を守っていきたい、ということをすごく考えたんですよ。そういう気持ちも、この曲には乗っています。
──自分が知っていることに対してこれだけ心を砕くのだから、他もそうなんじゃないか、と思いをはせることができればいいな、という気持ちがすごく伝わってきます。
三原康司:僕はミュージシャンという立場で「BGM」という言葉を使って表現しているんですけれど、これは音楽だけに言えることじゃなくて、いろいろなことに重ねてもらえたらな、と思います。
──サウンドもどこか切な気ですね。
三原康司:「たかが」と思われるものは、儚さを感じるところがあると思うんです。ダンスミュージックという多幸感がある音楽表現で、そこを見せていくのはフレデリックらしいというか、この曲らしいんだろうな、と思いながら作りました。
──「されどBGM」はリリックビデオが発表されていますが、映像の中でカセットテープが出てきたりなど、音楽の歴史を見ているようでした。でも康司さんの世代だと、カセットテープじゃないですよね。
三原康司:いやいや、カセットテープでしたよ(笑)。僕が小学校くらいの時ですね。そのころから結構、ラジカセとかも持っていて、好きな曲を入れまくっていました。
今回、僕らは円盤と配信という形なんですけれど、今は配信が主流ですよね。でも形が変わっても、その時に思いをつめているものがある、ということにすごく魅力を感じていて。今は、なかなか人と会えないじゃないですか。でもカセットテープやCDは直接形として渡せる。それはもしかしたら、今、すごく、大事なことなんじゃないかなと思います。
歌って出てきたものを曲にした
──1曲目の「Wake Me Up」はおもちゃ箱をひっくり返したようなサウンド感で、『ASOVIVA』というEPタイトルにすごく沿った楽曲だと感じました。三原康司:これは制作の時も「生まれ変わる」ことをイメージしながら作っていました。1年後、2年後に「あの時は大変だったね」で終わるのは、やっぱり良くない。それは自分にも言えることだし、みんなも絶対、そうあるべきだな、と思っていて。
そういう中で、「新しく面白いことをしていく」ということに、挑戦した部分があります。「Wake Me Up」は今までのフレデリックらしさや「フレデリックっぽい」と言われるものを更新していくサウンド感だったり、言葉遊びだったりをつめこんだ1曲ですね。
今回、曲を書く中で、僕が遊んだというか、自分的に面白くやれたなと思う部分がありまして。「生まれ変わる」ということだけを考えながら、そのままマイクに向かって、デモ作りをしたんです。
ただ歌ってみて、そのメロディーと歌詞が一緒に出てきたものを、そのまま曲にしたんですよ。出てきたもの、そのままっていう形だったので。だから自分が本能から思っていることが、ここにはすごく見えてくるんじゃないかと思います。
──なるほど。音と言葉がすごく密着している状態なんですね。だからもちろん歌詞の意味をそれぞれ解釈する面白さもあるけれど、歌詞と音の密着間をそのまま楽しむこともできる。
歌詞と音の密着という意味では、3曲目の「正偽」もそうですよね。この曲は最初歌詞を見ないで聴いていて、「英語なのかな?」と思いきや、本当に言葉遊びがつまっていて。<黙れ フィーリング 印 埋葬>と書かれているのを見て驚きました。
三原康司:これも「Wake Me Up」と同じ手法で曲を作りました。今おっしゃっていただいた「言葉と音が密着している」というのは、この曲にもすごく感じます。これもアプローチとしては、新しいフレデリックの軸になっていくものなんじゃないかなと、作りながら感じていました。
──ただ「正偽」は<振りかざした正義感><振りかざして優越感>など、「Wake Me Up」以上にメッセージが明確なのではないでしょうか。
三原康司:そうですね。今は、神さまを信じるとか、聖書開く前に、 Googleを開くじゃないですか。そこで一番トップになったものを見て、これが一番面白いんだって入る。何かしら誰かの統計学みたいなのが、自分たちの指針になっている。
そういう正解みたいなものは、自分が決めたものではないですよね。それにみんなが「良い」と言ったものを「良い」というのも違うな、と思いますし。だったら本当に、自分が信じた、僕が面白いというものを指針にして、行動していくことが大切だと思っていて。
だからこそ、自分が正義だと思っているものを1回疑った方がいいんじゃないか、と感じているんです。そのうえで、自分なりの正義はこういうものなんじゃないかな、みたいなものを言葉にしました。
──確かに。今は自分の軸を持っていないと、簡単に流されてしまいますよね。
三原康司:SNSとかでも「なぜこれに『いいね』がたくさんついているんだろう?」というのが多いじゃないですか。それが1つの答えに変わっていくから、すごく恐ろしいことだな、と思っていて。何を信じて、何を感じるかというのは、自分の中で1回精査しなきゃいけないんじゃないか、と思って。いろいろなことを考えながら作りました。
──ところで、この歌詞と曲を他のメンバーが初めて見た時、かなりびっくりされたのではないですか?
三原康司:ええ。他のメンバーは、「この曲、すごくやばいじゃないか?」と言ってましたね(笑)
──やはり(笑)。
三原康司:でもボーカルの健司が「フレデリックは、康司が皮肉めいた、シニカルな歌詞を書いてきたとしても、音楽がダンスミュージックだから、それの調和がすばらしい」ということを言ってくれて。それは1つ武器になっている部分があるな、と思うんです。ただ皮肉を言うだけではなく、それでみんなを踊らせていく。そういう風景を作れたら、それは一つのまた答えになるんじゃないかな、と思います。
今年の夏に感じた思いを曲にした
──4曲目の「SENTIMENTAL SUMMER」は、本当に夏が持つ空気感やにおい、あっという間に過行く切なさ、といったものを感じます。三原康司:僕らは夏フェスとかいろいろなライブが決まっていたんですけれど、いっぺんにして、それがなくなってしまって。ありがたいことに、フレデリックはフェス常連バンドとして、いろいろな会場・ステージでやらせてもらい、どんどんステージも変わっていきました。だからフェスは僕らの成長を感じることができた場所でもあり、大人になってからの青春でもある、そんな場になっていたんです。
でも予期せぬものによって自分たちが大事にしていた場所が、この時期になくなってしまった。もしかしたら、何万人との人と音楽を通してコミュニケーションが取れた時間を失ったのかもしれない。今回、そういう夏を過ごす中で、自分が感じた気持ちは音楽として表現していかなきゃいけないじゃないんだろうか、と思っていて。
そして僕自身はフレデリックとしての立場で音楽を書いているんですけれど、甲子園とか、そういったものにも重ねられるなと思っていて。若い頃に大会を目指して、何か一生懸命になることって、財産になるじゃないですか。それは僕らにとっても夏フェスがそうでしたし。
だからこそその財産の一部を失って、思い出すのも苦しくなる部分もあると思うんですけど、その気持ちを形にしようと思って。それはフェスに来ている会場のお客さんだって同じ気持ちだったと思うし。そういう人たちにどんどん届いていく曲になれば、と思いながら「SENTIMENTAL SUMMER」を書きました
──ある意味、今年の夏を失ってしまったみんなの思いがこの曲に表れているんですね。
三原康司:人生の中でも、こんなことが起きることはなかなかないというか。すごいことですよね。だから次の夏とかにこの曲をフェスでやれたないいな、と思っていて。やはり音楽はリリースしてから、自分たちがライブというステージでやっていく中で、その成長を感じられるものですから。そういう部分がすごく強くなっていく曲なんじゃないかな、と思いますね。
──ぜひフェスで聴きたいです! そしてこの曲は、健司さんのボーカルもすごく切ないですよね。
三原康司:この曲は緩急を意識していますね。健司は健司なりにこの曲に向き合ってくれたので、すばらしい歌になっています。