樹木希林最後の主演映画「あん」
映画『あん』は、詩人や作家、ミュージシャンと幅広いジャンルで活動するドリアン助川の同名小説が原作です。
「生きる意味」を考えさせられる感動ストーリーが、数々のメディアで取り上げられ、第25回読書感想画中央コンクールで指定図書に選定されました。
映画の監督・脚本を務めたのは、ドキュメンタリー映画に定評がある河瀨直美。
ハンセン病を患う老女を演じたのは、女優・樹木希林です。
本作は樹木にとって最後の主演映画となりました。
2018年9月15日に彼女が逝去した際、追悼上映を希望する声が多数寄せられ、再上映。
再び日本を感動の渦に包みました。
さらに樹木の孫にあたる内田伽羅が、店の常連客のワカナ役で出演しています。
役柄の距離間を大切にするために、休憩時間もあえて側にはいないようにしていたとのこと。
劇中では、徐々に距離を縮めていく2人の姿が、自然に描かれています。
映画「あん」あらすじ
刑務所を出所後、どら焼き屋の雇われ店長として淡々と過ごしていた千太郎のもとに、老女・徳江が働かせてほしいと訪れます。
一度は断った千太郎でしたが、彼女が持ってきた手作りあんこの美味しさに魅了され、すぐに採用。
小豆に語りかけながら丁寧に茹でて作る徳江のあんこは評判を呼び、店は大繁盛します。
店の常連客である女子中学生のワカナとも親しくなっていた徳江でしたが、ある出来事をきっかけに楽しい日常が一変します。
彼女がハンセン病患者であることを知った店のオーナーが、彼女を解雇するように言ってきたのです。
さらに「ハンセン病患者のいる店」という噂が広まり、客足が遠のいてしまいます。
迷惑をかけていることを察した徳江は、自ら店を辞めることを選択。
彼女を料理人として尊敬していた千太郎は、ひどく落ち込み酒に溺れてしまいます。
そんな彼に声をかけたのが、店の常連客であるワカナでした。
徳江がこれまで歩んできた人生を知るため、2人はハンセン病患者が住む施設へと足を運び、そこで徳江の胸の内を聞くこととなります。
自分らしく生きていくということ
ハンセン病患者である徳江の人生を通して、差別や偏見に苦しみながらも自分らしく生きていく意味を問いかけている本作。
作中には徳江のほかに、同じ病気を患った女性も登場しますが、彼女は彼女の苦悩をわたしたちに提示してきます。
確かに彼女たちは社会から一方的に隔離されて、たくさん苦労をしてきました。
けれど、自分の人生を諦めたわけではありません。
どんなに辛く悲しい生活を送っていても、その中で自分らしく生きていこうと前向きな気持ちを持ち続けていたのです。
映画を通して彼女たちについて関心を持ってほしい、関わっていってほしい。
そうすることで彼女たちの世界は広がっていくのです。
社会が一方的に作ったイメージではなく、実際に生きている人たちが過ごしてきた本当の姿を描いた本作。
河瀨監督はこの映画をきっかけに、見ないふり知らないふりをやめて、様々なことを知ってもらいたいとインタビューで答えています。
わたしたちに出来ることは、なんなのかを考えてみてはいかがでしょうか。
彼女たちの自分らしく生きていこうとする姿を、最後まで見守ってください。
ピアノと歌声をメインにした主題歌「水彩の月」
画像引用元 (Amazon)
映画『あん』の主題歌『水彩の月』を歌うのは、シンガーソングライターの秦基博。
河瀨直美監督の熱烈なオファーにより書き下ろした楽曲で、切なくて優しいミディアムバラードになっています。
楽曲を制作するにあたり映画を観た秦基博は、河瀨直美監督が描く街の景色や自然の美しさに寄り添うような楽曲にするため、ピアノと歌声をメインに構成しました。
ピアノの伴奏と秦基博の感情豊かな歌声が、本作の悲しくも温かい世界観と合わさって、心にじんわりと染み込んでいきます。
「あの時こう言ってあげればよかった」と、過去に後悔しながらも前を向いて歩いていこうとする想いが込められた楽曲です。
『水彩の月』のMVは、秦基博の依頼で河瀨直美監督が撮影を担当しました。
奈良県の原生林の中で秦基博が歌う姿が印象的なMVです。
生きる意味を問いかける原作
画像引用元 (Amazon)
作者のドリアン助川が原作小説を書くきっかけとなったのは、彼がパーソナリティを担当していた深夜ラジオで、若者たちの悩みを聞いていたとき。
「人の役に立つことが、生きる意味なのか」と、ふと違和感を感じたからでした。
その後、小説の構想を数十年練り、ようやく小説『あん』が完成したのです。
ハンセン病患者の悲しい人生を辿りながら、生きることの意味を問いかける人間ドラマを描いた本作。
これからの人生を考えさせてくれる素敵な作品なので、ぜひご覧ください。
TEXT あるこ