デビュー曲について
──『Seafloor』はどのようにして作っていきました?
あれくん:(涼真を指さし)2人で曲を作ろうって一緒にいて。休憩しようってコンビニに行ったんですよね。
涼真:ご飯を食べようとか言って。じゃあ、コンビニ行くかって感じでした。
あれくん:そしたら、コンビニで歌詞と曲が一気に降りてきたんですよ。それで帰って制作して、もう1~2時間くらいで出来上がりました。
涼真:そう、あっという間でしたね。
あれくん:そうだったよね。それで出来上がった曲を美咲さんに投げて、フィーリングでちょっとピアノつけてみてみたいな感じで。
──コンビニに行ったのは夜?
涼真:深夜だったと思います。俺らのことなんで(笑)。
あれくん:そう。夜。夜の10時は過ぎてました。
涼真:嘘ですよ。もっと深夜ですよ。俺らが夜の10時に外に出るわけないです(笑)。
(一同爆笑)
あれくん:そっか。もっと深夜帯でした(笑)。
──最初に降りてきたのは曲のどの部分?
あれくん:「海の底に 深い海の底に 落ちていく感覚があった」ってとこですね。最初の冒頭3行が一気に降りて来たんです。
──自分の中に“深い海の底に落ちていく感覚”って、元々あったと思う?
あれくん:いや、無いですね。海に行かないんで(笑)。
──え、そこ?(笑)じゃあ“底に落ちていく”感覚っていうのは、自分の中にあると思う? もっというと、自分の中にある“闇の底”を描いている意識はある?
あれくん:例えば病んでいる子とかの心の模様を描いているような気持ち。曲を作る中でそういう気持ちはずっとあって。 「底」っていうのは、きっとずっとあって、急に降りて来たんだと思います。
──美咲さんは、「Seafloor」を初めて聴いた時、どんな印象を持ちました?
美咲:もう……すごっ……っていう。歌詞とメロと、涼真くんがつけてくれたLo-fi(=ダウンテンポのビート)感が絶妙にマッチしてて、本当に感動しましたね。私が1番大事にしたかったのは、この曲の情景で。ピアノで、波とか海とか、海の底の低音な感じとか、アプローチ出来るなと思って。間奏のピアノソロも、そういうイメージで。水と、海と、波の感じを探りながらつけていきました。
波の音も加工してるんです
──涼真さん、アレンジをしていく中で、全体的に大事にしたものは?涼真:曲の3D感はめちゃめちゃ大事に作りました。
──それは、サウンドが立体的になっていて、多面性があるってことでしょうか?
涼真:そうです。こういう感じのサウンドって、単調に作ろうと思ったら、すぐに出来ちゃう音楽だと思うんですよ。
──ダウンテンポ、チルとかアンビエントのムードがある音楽ってこと?
涼真:そうです。チルミュージックって、ある程度、テンプレートがあるものだから。こういうパターンで、こういう音、みたいな。
──そうですね。特にここ1~2年くらいは。
涼真:そうですね。チチィーって音、まず入れとけ、みたいな(笑)。その中で、新しいことがやりたいなと思って。哀しい時とか、何かしらエモーショナルな感情の時に聴きたくなる、そこに刺さる音って何なんだろうって考えたんですよ。で、テーマとして「海」ってあったんで。わかりやすく波の音を入れてみたりして。
──冒頭の演出ですね。
涼真:そうです。あの波の音も加工してあって。もうちょっと切なくしようと思って、いろいろ試しているんですよね。この曲は、ミュージシャンとして作っている面ももちろんあるけど、自分のアーティスト性が前に出た曲だと思っているんです。
「こんなことやっちゃたら怒られるかな」みたいなのも入れたり(笑)。昔はトラックメイカーって言ったら、EDMがまず浮かんだと思うんです。でも今は違う。時代の変化とともに、使って来る音色とかも変わってくると思うんですよね。
だからまずはそこのテンプレートを踏襲して、トレンドを聴きまくって「あぁ、こうなってるんだな」ってインプットして。そこに僕の好きなものを入れてアウトプットしていく。ノリでよっしゃ!個性が出たっていうよりは、めちゃくちゃ考えて作った個性っていう感じです。
共感性を大事にしてる
──あれくんの作る曲に対しては、どんな風に思ってる?涼真:まず、めちゃめちゃメロディーセンスがいいと思ってるんです。日本でもたくさん、すごいなと思うメロディーメーカーの方がいらっしゃいますけど、そういう感じがするんです。「あ、メロディー作れちゃう、天才」って感じる。
僕はトラックを作る上で、そのメロ自体をいじることも出来るけど、それはしたくない。あれくんに降りてきたものを、どれだけ生かししつつ、どれだけ引き立たせるかっていうのが、僕の腕の見せ所だなと思うんですよね。
──『Seafloor』って、確かに夜に合う曲だと思うんだけど、日中でもこう……溶け込むんですよね。で、日中に聴いた時、夜って暗いんだよな、海の底って暗いよなって思わせるんですよね。そこに結構びっくりして。すごいなと思いました。
あれくん:ありがとうございます。やっぱり病む時って夜じゃなくても病んだりするから。基本的には夜が多いかなと思うんですけど。朝でも心が遮断されて病んだりすることもあれば、日中でも嫌なことがあれば、そういうことがあるだろうし。
──病むって言葉が何回か出て来たんですけど。あれくんの中では「病むこと」は、曲を作るひとつの原動力になったりする?
あれくん:そうですね。この世界、幸せな人はいるけど、幸せじゃない人の方が多いと思うんですよ。それを自分の中でテーマにしていて。幸せな人って、パリピな音楽しか聴かないイメージがあって。
でも、心に響く系の曲っていうのは、心に闇を抱えてたりとか、心の隙間が出来ている人に響くと思っていて。そういう部分をテーマにして、そこに向けてメッセージ性を持って行ったりとか。そういう共感性は、すごく考えています。直観的に降りてくるものなんですけど、そこに価値をつけて、曲を作るようにしています。
僕、曲は、共感してもらえるだけでいいと思うんですよ。それだけで、ちょっと沈んでいる子とかが、ちょっとでも気が楽になると思うから。自分でもそういうことがあったりするし。そういう共感性は大事にしていますね。
──1人ずつ、歌詞のお気に入りのフレーズを教えてください!
涼真:考えたことなかったな。
あれくん:僕はすぐ出て来るけど。
涼真:「夢にも痛みがあった」です! あぁ、エモ! わかるー。いい歌詞書きますね、この人。
美咲:えー……(熟考)「言葉では足りないようだ」です。
──この最後の「ようだ」が、余韻ありますよね。
美咲:そうなんですよ。自分の心情が重なる隙間があるというか。
あれくん:僕は「空虚な部屋に 閉じ込められていく そんな幻覚があった」って部分ですね。心の闇を描写したところ。この曲で描きたかったテーマですね。
自分の歌声で寝られます!
──あれくんの書く歌詞って、テーマも切実だし、選ぶ言葉もセンシティブなんだけど、こう……聴いてて暗くならないんですよね。そこが、このユニットの個性であるし、あれくんの声質のせいもあるのかなぁ、と。あれくん:ありがとうございます。
涼真:でも、ほんっと、声、いいっすよね。
一同:はははは(笑)。
──「いい声だね」って言われることに対してはどう思う?
あれくん:もう、普通に。素直にすごく嬉しいです。でも、今でも自分の声は嫌いです。歌声はまだ聴けるんですけど、こうやって話している自分の声は嫌いです。ここで録音されてるの、一生、聴きたくないです(笑)。
──歌声は最初から大丈夫だったの?
あれくん 大丈夫でしたね。自分の歌声で寝られます!
──えぇ!それはすごいですね。声質よりも歌声のゆらぎが、せせらぎとか自然界のゆらぎに似ているのかな。
あれくん:なんですかねぇ(笑)。α波ですかね。よく言われます。
涼真:だって本当、いい声だもん(笑)。
TEXT 伊藤亜希