ゲスの極み乙女。の『餅ガール』は2ndミニアルバム『踊れないなら、ゲスになってしまえよ』収録曲。非常に遊び心あふれる曲で、ひたすら餅を食いたいと歌う曲。ミュージックビデオでは、ほないこかが餅を食べるナイチンゲールになっています。
“ララララッパの音で 上がる心音と熱
なのに何でか腹が減って戦が出来ぬ”
冒頭で「腹が減っては戦ができぬ」という歌詞が登場。この戦は、後に出てくるナイチンゲールと対応しています。ナイチンゲールが戦争に行き兵士を看護した歴史を反映しているんですね。「ララララッパの音で」という歌いだしはその後の「ダダダ団子」というリズムの予告になっています。そしてラッパの音というのも戦争における士気高揚の役目を指しているんですね。死と隣り合わせの状況を歌い、後に出てくる幽霊船の伏線になっています。
続いて、饅頭ではなく餅が欲しい、団子を練って餅を作ってくれという歌詞。
“ナイチンゲールが恋に落ちた
って風の噂流れた 幽霊船で餅を食ったって
話らしいぜ 晩餐会の途中だろうね
たくさんの餅に囲まれて 魂と餅を食う
なんて風情があるよなぁ”
そして不思議なサビに来ます。ここでナイチンゲールと幽霊船が出てくるのはなぜでしょうか。
ナイチンゲールは看護に統計学を持ち込んだ功績のある人物。生涯でプロポーズを3回断っていると言われています。そんな人が恋に落ちるほどの餅。
また、ナイチンゲールは人前では食事をとらなかったとも言われています。そんな人が「白いモチッとした感触を思い出してにやけている」ほどの餅。かの有名人ナイチンゲールだと誰も気づかないような状況になっています。
「幽霊船で餅を食ったって話らしいぜ」という謎の噂話が出てきます。死後の世界の幽霊船の晩餐会でどうやらナイチンゲールが餅を食べたらしい。それほどの餅。
ずっと餅のすごさを強調しているんですね。
そしてサビは「たくさんの餅に囲まれて 魂と餅を食う なんて風情があるよなぁ」というフレーズで終わります。魂と一緒に食べたいほどの餅。
ナイチンゲールは偉人の象徴。その業績を知らなくても名前だけなら聞いたことがある人は多いでしょう。幽霊船は死後、なおも現世をさまよう象徴。
ナイチンゲールが幽霊船で餅を食べるというストーリーは、歴史の偉人が死後なおもやりたかったことを表します。ナイチンゲールが幽霊船で餅を食べるという逸話はもちろん存在せず、この曲のストーリー。偉人ですら死してなお現世にさまようことがあるのではないか?と想像しています。
そして肝心の「餅」とはめでたさ、幸福の象徴です。
この曲は、死してなお現世をさまよい、たくさんの幸福に囲まれて、なおかつ魂=人の心と幸福をさらに食べていきたい、という歌。それを「風情がある」=良いものであるととらえています。
人が際限なく幸福を求めている様を肯定も否定もせずに、餅という単語で面白おかしく歌っているんですね。そして、これはこのバンドが再現なく音の面白さを追求していく姿勢と似ている。「餅が」というフレーズから「餅ガール」のタイトルとなり、曲が出来ています。音の面白さを追求して一曲に仕上げているんですね。
こういう実験的な歌はもっとあってもいいと思います。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)