Uruが紡ぎ出す祈りの曲
Uruは、2016年に『星の中の君』でメジャーデビューしました。
デビュー前からYouTubeで数々のカバーを披露し注目を集め、知名度を上げていった経緯があります。
透明感のある歌声で圧倒的な存在感を示すUruの『振り子』が、2020年10月30日公開の映画『罪の声』の主題歌に起用されました。
『罪の声』は、35年前の事件を取材する記者(小栗旬)と、自分の声を犯罪に使われてしまった男性(星野源)を中心に描かれる重厚なストーリー。
「罪の声」が示すものや、それぞれの正義を貫くことの難しさや責任などについて深く考えさせられる作品です。
重いテーマを扱う映画の世界に寄り添った『振り子』は、まるで祈りの歌のようです。
傷ついた心をそっと癒やしてくれるような歌詞をご紹介します。
今いる場所から逃げ出したい衝動
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薄汚れた網戸が ずっと目の奥にはまってて
青い空が見てみたくて 誰かに開けて欲しかった
≪振り子 歌詞より抜粋≫
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歌い出しから、重苦しい空気が漂っています。
「薄汚れた網戸」とは、きっとこれまでの境遇によって汚れが染みついてしまった自分を表わしたもの。
そんな目では、どんなに美しいものを見ても色を失った世界しか見えないのでしょう。
清々しい青い空が見たいと切望しながら、自分ではどうすることもできないもどかしさ。
「誰かに開けて欲しかった」という歌詞は、一瞬でも早くこの境遇から抜け出したい、逃げ出したいという思いを強く感じます。
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求めれば求めた分だけ汚れてった
でも、誰かの傍にいることで
私はここに在った
≪振り子 歌詞より抜粋≫
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きれいな場所へ逃げ出したい、と願えば願うほど深みにハマり抜け出せなくなる苦しさ。
どんどん薄汚れていく自分を悲しみながらも、隣に大切な人がいてくれることで、どうにか自分という存在を保ってきたのでしょう。
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ただ朝が来て夜が来る
ただ生まれて死にゆく
そこには何の意味もない
独りごちては腐った
≪振り子 歌詞より抜粋≫
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映画『罪の声』には、理不尽な力によって人生をねじ曲げられた人々が大勢登場します。
自由を奪われ、夢や希望を奪われ、ただ目覚めて眠るだけの日々。
いつか必ず救われる、夢が叶う日が来ると信じ続ける心も時間と共に腐り、諦めと絶望に取り憑かれてしまいます。
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床を撫でるだけの雑巾がけのように
形だけは一丁前で
塵を舞い上げて吸い込んで
噎せ返っては一人泣いて
それでも私はどこかで
ずっと愛を求めてた
≪振り子 歌詞より抜粋≫
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見た目は他の人たちと変わらないのに、心の中は虚しさに蝕まれ、自分の境遇を恨むことしかできない。
そんな中でも人はどこかで愛を求めてしまうものです。
『振り子』のように人生に翻弄される人々
そんな暗闇のような日々の中でも自分を保つことができたのは、大切な人がいてくれたからなのでしょう。----------------
毎日夢を見て毎日目が覚めて
夢と現実の狭間で
ぶら下がって足を浮かせたまんま
風が吹けば吹かれた方へ流されて
我武者羅に走った汗を
ただの塩にしてきた人生も
≪振り子 歌詞より抜粋≫
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幸せな夢を見ても、目覚めた先には相も変わらず辛い現実が待っています。
昨日と何も変わらない日々。
抜け出せないもどかしさに苦しみ悶えながらも、自分一人の力ではどうすることもできません。
「風が吹けば 吹かれた方へ流されて」という歌詞から、無力さを前に立ち尽くす姿が浮かんできます。
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擦り減った靴の底には
泥や石が挟まったまま
私は生涯この靴で歩いていく
それでもあなたという光が
明日を照らしてくれたから
≪振り子 歌詞より抜粋≫
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泥や石が挟まった靴底は、これまでの人生と重なります。
どれほど辛く苦しく惨めなものであったとしても、自分が歩んできた人生をありのまま受け入れ生きていく。
そんな決意を感じさせますね。
時に立ち止まり自分の身の上を嘆いてもなお、前を向いて歩けるのは、大切な「あなた」がいてくれるからなのでしょう。
ただ一人、心の支えになってくれる人がいるだけで、人は生きる力を取り戻すことができるのです。
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愛を知って 生きる意味を知った
≪振り子 歌詞より抜粋≫
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最後の一行に、Uruがこの歌に込めた思いがすべて詰まっているようです。
映画では、多くの人が知らないうちに犯罪に巻き込まれてしまいます。
そして、その人たちはごく普通の人ばかりです。
自分の声が犯罪に使われ、それによって人生を狂わされた人の苦しみは計り知れません。
『罪の声』は、観ている人の心に深く突き刺さる物語です。
理不尽な力で幸せを壊される人や夢を奪われる人。
そんな人たちがもがき、時に恨み、やるせない気持ちを抱えながら生き続ける痛み。
『振り子』はまさに、翻弄される人々の人生そのものを表わしているのです。
やるせなさを浄化する透明な歌声
奪われ、搾取され、無為に人生を過ごすだけの日々の中でも消えない光。
それこそが、『罪の声』における希望であり、人が生きることを諦めない理由なのでしょう。
今にも消え入りそうな、独特の世界観を持ったUruの歌声は、心の中にすっと入ってきます。
そんな透明感のある彼女の声と、映画のシーンとリンクする歌詞の数々によって、より心に響く楽曲となっているのです。
エンドロールで『振り子』を聴くと、映画の場面が走馬灯のように駆け巡ります。
やるせなさで一杯になった胸の苦しさを優しく溶かしてくれるような温かい歌声は、一度聴くと耳から離れません。
透き通ったUruの歌声をぜひ『振り子』のMVでも堪能してみてください。
TEXT 岡野ケイ