『グリーングリーン』の歌詞に漂う悲しさと怖さ
童謡として親しまれている『グリーングリーン』は、アメリカのフォークソンググループであるニュー・クリスティ・ミンストレルズが制作した楽曲です。
日本語バージョンは片岡輝によって作詞され、7番まで作られました。
音楽の教科書などで知っている人も多いのではないでしょうか。
父と子のやりとりを中心に、生きることの喜びや悲しみを歌った壮大な曲ですが、歌詞の解釈には様々な説があります。
意味深だからこそ、幾通りもの解釈ができてしまう。
それ故に解釈次第では悲しい曲にも、少し怖い曲にもなるのです。
それでは、歌詞を読み解きながら歌の内容に触れていきましょう。
父との対話の意味
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ある日 パパとふたりで
語り合ったさ
この世に生きるよろこび
そして 悲しみのことを
グリーン グリーン
青空には ことりがうたい
グリーン グリーン
丘の上には ララ
緑がもえる
≪グリーングリーン 歌詞より抜粋≫
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ここで登場する「僕」の年齢は不詳ですが、父親と二人で交わす会話は、単なる親子の会話とは異なるものであることはたしかです。
語り合う内容がどこか重く、何気なく交わす親子の会話にしてはずいぶんと踏み込んでいます。
「この世に生きるよろこび」「かなしみ」を語り合うことは、親子の日常生活の中で頻繁に起きることではありません。
青空や小鳥の声を聞きながら、緑の丘で話した時間が「僕」にとって、特別なものであったことを暗示しているように感じます。
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その時 パパがいったさ
ぼくを胸にだき
つらく悲しい時にも
ラララ 泣くんじゃないと
≪グリーングリーン 歌詞より抜粋≫
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不意に息子を抱き寄せて言う「つらく悲しい時にも」「泣くんじゃない」という言葉には、どれほどの意味が込められていたのでしょうか。
別れの朝
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ある朝 ぼくはめざめて
そして知ったさ
この世につらい
悲しいことが
あるってことを
≪グリーングリーン 歌詞より抜粋≫
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その朝 パパは出かけた
遠い旅路へ
二度と帰ってこないと
ラララ ぼくにもわかった
≪グリーングリーン 歌詞より抜粋≫
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ここへ来て初めて、「僕」は父と交わした言葉の意味を知ることとなります。
この世にはかくも辛いことがあるのかと、身を以て知った朝。
その朝、父親が二度とは戻らない旅へ出かけたことが、父親との別れを彷彿させます。
二度と戻らない旅路=死を連想させることもあり、『グリーングリーン』は父親の死を歌ったものだと解釈されることが多いのです。
では、この日「僕」が体験することとなった永遠の別れの原因は、一体何でしょうか?
一つは、病死などによって父親が他界したという説です。
人が亡くなることを「旅立つ」と表現することがあるように、ここで歌われている「遠い旅路」とは、父親が死去したことを暗示しているという解釈です。
「僕」にあらかじめこの世の辛さや悲しみを教えていたことも、病気などによって父親本人が自分の死を予見していたのだとすれば理解できます。
さらに踏み込んだ解釈は、父親の戦死というもの。
戦争というものは、理不尽に人の命を奪うものです。
さらに、今のように発言の自由はなく、戦争へかり出されて命を落とした人は数知れず。
個人の意思ではどうにもできない死の理不尽さに耐えられるよう、生前から息子と対話をしていたのであれば、親子の会話にしては重すぎる点もうなずけます。
ただし『グリーングリーン』の歌詞には父の消息についての詳細がなく、片岡自身も解釈を受取手に委ねているため、明確な答えはありません。
壮大なテーマを扱いつつも抽象的に歌われているため、人によって幾通りもの解釈ができてしまうという点が『グリーングリーン』の面白いところではないでしょうか。
『グリーングリーン』で歌われているもの
こうしてみてみると『グリーングリーン』は非常に哲学的で、重たいテーマを扱っているように感じるかもしれません。しかし、この曲で歌われているのは、必ずしも「パパ」が旅立った悲しみだけではないでしょう。
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あの時パパと
約束したことを守った
こぶしをかため
胸をはり ラララ
ぼくは立ってた
≪グリーングリーン 歌詞より抜粋≫
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「僕」は、「パパ」との約束を守り、大きな悲しみの前でもぐっと涙を堪えます。
これは「僕」が約束を通して、一つ大人になったことを象徴しているのではないでしょうか。
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いつかぼくも子どもと
語りあうだろう
この世に生きるよろこび
そして 悲しみのことを
≪グリーングリーン 歌詞より抜粋≫
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そして「約束」は、未来へと繋がっていくのです。
「僕」が大人になり、父親になった時、今度は自分が交わした約束を、子供と交わす。
『グリーングリーン』で歌われているのは、「パパ」との別れだけではなく、この世の摂理を知り、どんな状況でも受け止める、心の強さなのでしょう。
その普遍的なテーマを、親子の対話を、未来へ引き継いでいくとことこそ生きることである。
そんなメッセージが込められているのはないでしょうか。
「緑」「丘」が象徴するもの
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グリーン グリーン
青空には ことりがうたい
グリーン グリーン
丘の上には ララ
緑がもえる
≪グリーングリーン 歌詞より抜粋≫
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グリーン グリーン
まぶたには 涙あふれ
グリーン グリーン
丘の上には ララ
緑もぬれる
≪グリーングリーン 歌詞より抜粋≫
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『グリーングリーン』のサビには、常に「緑」や「丘」が登場します。
空は青く澄み渡り、大きな悲しみを目の当たりにした時でさえ「僕」の前には緑溢れる丘があります。
7番まである歌詞の中で、サビで常に登場するこの風景は、「僕」にとっての心象風景なのかもしれません。
遠いの約束や、悲しみに触れた日の記憶。
どんな状況に身を置いていても変わらない緑の丘は、「僕」の澄み渡る心の中を象徴しているように思えます。
時に悲しみに押しつぶされそうになっても、かけがえのない存在を失っても、心の中に変わらずにある風景。
それこそが「僕」を支え、「僕」を形作ってきたものなのでしょう。
「生と死」を彷彿させる壮大なテーマを扱い、聴く人によって戦争や病気など、「パパ」との別れに対する解釈が変わる『グリーングリーン』。
幾通りにも、自由に解釈できる懐の広さこそが、この楽曲が多くの人の心に息づき、愛され続ける所以なのかもしれません。