「だから僕は音楽を辞めた」はエルマへの手紙
『だから僕は音楽を辞めた』は、n-bunaとsuisによる男女2人組ロックバンド『ヨルシカ』の1stフルアルバム。
このアルバムは、音楽の道を諦めた青年「エイミー」が主人公の物語を軸に製作されており、エイミーが旅をしながら「エルマ」へ向けて作った楽曲集という設定で収録されています。
その全14曲の収録曲の中から今回ピックアップするのが、アルバムのタイトルでもあり、ラストを飾る一曲でもある『だから僕は音楽を辞めた』です。
主人公のエイミーは一体どのような思いを抱えていたのか、歌詞を考察していきます。
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考えたってわからないし
青空の下、君を待った
風が吹いた正午、昼下がりを抜け出す想像
ねぇ、これからどうなるんだろうね
進め方教わらないんだよ
君の目を見た 何も言えず僕は歩いた
考えたってわからないし
青春なんてつまらないし
辞めた筈のピアノ、机を弾く癖が抜けない
ねぇ、将来何してるだろうね
音楽はしてないといいね
困らないでよ
≪だから僕は音楽を辞めた 歌詞より抜粋≫
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冒頭で描かれているのは、音楽を辞めた後のエイミーの様子。
夢や目標がなくなり、どうしたらいいのかわからないという喪失感が表現されています。
「君」というのはおそらくエルマのこと。
エルマに対して自暴自棄な言葉を投げつける様子からは、エイミーの混乱や切なさを感じますね。
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心の中に一つ線を引いても
どうしても消えなかった 今更なんだから
なぁ、もう思い出すな
≪だから僕は音楽を辞めた 歌詞より抜粋≫
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「線を引く」というのは、音楽に対して区切りをつけるということでしょうか?
音楽に対する未練を感じる描写ですが、その想いは続く歌詞でも表現されています。
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間違ってるんだよ
わかってないよ、あんたら人間も
本当も愛も世界も苦しさも人生もどうでもいいよ
正しいかどうか知りたいのだって防衛本能だ
考えたんだ あんたのせいだ
≪だから僕は音楽を辞めた 歌詞より抜粋≫
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「間違っている」というのは、音楽を辞めるという選択に対しての言葉かもしれませんね。
自分の選択は正しかったのか。
むしろ真実なんてどうでもよくて、選択が正しかったとただただ信じたい。
そんな葛藤が歌詞に表れているようです。
歌詞に描かれる乱れるエイミーの心情
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考えたってわからないが、本当に年老いたくないんだ
いつか死んだらって思うだけで胸が空っぽになるんだ
将来何してるだろうって
大人になったらわかったよ
何もしてないさ
≪だから僕は音楽を辞めた 歌詞より抜粋≫
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2番で歌われているのは、将来に対する不安や恐怖。
昔は「大人になったら音楽家になる!」なんてキラキラと夢を抱いていたのかもしれません。
しかし、その夢は叶わず。
結果的に、将来の宛ても何もない自分がここにいる。
そんなエイミーは「何もしてないさ」と自暴自棄になると同時に、周囲の幸せそうな人に対して憎しみを抱き始めます。
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幸せな顔した人が憎いのはどう割り切ったらいいんだ
満たされない頭の奥の化け物みたいな劣等感
≪だから僕は音楽を辞めた 歌詞より抜粋≫
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うまくいかないことがあると、周りのことを羨ましく感じることがあるでしょう。
その羨望の思いが憎しみに変わってしまうほど、エイミーの心は乱れているようです。
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間違ってないよ
なぁ、何だかんだあんたら人間だ
愛も救いも優しさも根拠がないなんて気味が悪いよ
ラブソングなんかが痛いのだって防衛本能だ
どうでもいいか あんたのせいだ
≪だから僕は音楽を辞めた 歌詞より抜粋≫
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続くサビでは、音楽を辞めた自分を肯定しようとする様子が伺えます。
「救い」や「優しさ」というのは、音楽を辞めた自分に向けられた周囲の態度のことでしょうか?
自分を取り囲む優しさや、甘い言葉が並ぶラブソングに対して湧き出る否定的な想い。
「そんな幸せあるわけない!」と自分に言い聞かせることで、万が一裏切られた時に傷つかないようにバリアを張っているのかもしれません。
エイミーの弱さが垣間見えます。
歌詞の意味から音楽を辞めた“本当の理由”を考察
後半部分では、エイミーの葛藤が畳み掛けるように表現されています。----------------
考えたってわからないし
生きてるだけでも苦しいし
音楽とか儲からないし
歌詞とか適当でもいいよ
どうでもいいんだ
間違ってないだろ
間違ってないよな
≪だから僕は音楽を辞めた 歌詞より抜粋≫
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音楽は儲からない。
歌詞も適当。
これが音楽を辞めた理由なのでしょうか?
「間違ってないよな?」と誰かにすがるように問いかける歌詞に、エイミーの不安定な感情が色濃く現れていますね。
さらに、続く歌詞ではエイミーの本音が現れます。
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間違ってないよな
間違ってるんだよ わかってるんだ
あんたら人間も
本当も愛も救いも優しさも人生もどうでもいいんだ
正しい答えが言えないのだって防衛本能だ
≪だから僕は音楽を辞めた 歌詞より抜粋≫
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エイミーは音楽を辞めたことこそが失敗だと、心のどこかではまだ音楽を続けたいという自分の想い気づいていたようです。
では、一体なぜエイミーは音楽を辞めたのでしょうか?
本当の理由は、最後のサビにありました。
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どうでもいいや あんたのせいだ
僕だって信念があった
今じゃ塵みたいな想いだ
何度でも君を書いた
売れることこそがどうでもよかったんだ
本当だ 本当なんだ 昔はそうだった
≪だから僕は音楽を辞めた 歌詞より抜粋≫
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エイミーが音楽を辞めた本当の理由。
それは、音楽を純粋に楽しめなくなったから。
音楽アーティストとして活動する中で、いつしか売れることだけを考えるようになってしまった自分。
歌詞も本心ではなく、世間にとって受けのいい歌詞を書いてしまう。
そんな音楽活動を続けているうちに、音楽を始めた頃のキラキラした気持ちや、自分の信念すらも忘れてしまったようです。
「音楽では食べていけない」というのが音楽を諦めた理由ではなく、「音楽を愛せなくなった」というのが、本当の理由だったと解釈できませんか?
とても深く、そして切ない理由だったのですね。
歌詞考察から広がるヨルシカの世界
以上、『だから僕は音楽を辞めた』の歌詞考察でした。
この楽曲には、アニメーションを駆使して作られたMVもあります。
ヨルシカの独特な世界観が表現されているので、ぜひチェックしてみてくださいね。
MVを見ることでさらにヨルシカの世界が広がり、新たな考察ができるかもしれませんよ。
TEXT ゆとりーな