そんなdoaの『ゼロの気持ち』は2006年発売の曲。アニメ『内閣権力犯罪強制取締官 財前丈太郎』の主題歌。このアニメはコミックバンチに連載されていた同名タイトルの漫画原作。財前丈太郎が権力犯罪を取り締まっていく、タイトル通りの内容です。アニメはツッコミどころ満載の、一部の人に大ウケした内容でした。
「だっぽん」に聞こえる財前の決め台詞「Da bomb!」、唐突なカットインで人物のアップが入るインパクト重視の独自の演出など、当時の深夜アニメらしい実験精神にあふれている作品でした。おそらく結構なアニメ好きにしか知られていないでしょう。そんなアニメを盛り上げたのが、この力強い主題歌です。
“アスファルトの匂いにクラッときちゃう まぶしい太陽に目を細めた
後ろめたさを感じるほど 見上げた大空は子供の頃見た空
いつからか胸の ずっと奥のほうしまい込んだもの
不幸じゃない 少し不便になっただけ 言い聞かせて”
歌いだしがまず良いですね。アスファルトの匂いにクラッとくるのは、それだけ暑い状況だということが分かります。そんな熱い中で見上げた大空は子供の頃に見た空と変わっていない。そんな大空を見上げて、歌詞の主人公は気付くわけです。いつの間にか大人になっている自分に。いつからか胸の奥に様々な感情をしまい込んでしまっている。大人になって不幸になったと思っているけれど、少し不便になっただけなんだ、と自分に言い聞かせます。
大人になると誰しも「子供の頃は良かった」と考えがち。しかしこの曲は、そうではない、子供の頃の気持ちはまだ自身の中にあるはずだと言っているんですね。
“燃やしてくれ 凍りつく前に ゼロの気持ち 取り戻せるくらい
勝敗はない 続いていくMy Life ゼロの気持ち ゼロの気持ち I want it!”
そして凍りつく前に、心を燃やすことを決意します。「ゼロの気持ち」というタイトルのフレーズが登場。ゼロ=子供の頃のまっさらな気持ちのことですね。まっさらな気持ちを取り戻すくらいに燃えるぞ!という力強いメッセージ。歌唱力がその力強いメッセージに説得力を与えます。「勝敗はない 続いていくMy Life」のフレーズも良いですね。人間は大人になるとやたら勝ち負けにこだわるようになります。しかし、人生というのは大きな視点で見れば勝ちも負けもないのです。それは一時的な現象に過ぎない。そんなことにとらわれるくらいならゼロの気持ちを取り戻せ!と歌っているんですね。
この曲は子供のころの熱い気持ち、ゼロの気持ちを忘れるな!という歌。こういうメッセージを押しつけがましくなく、かつ力強く歌う曲というのはなかなかありません。財前丈太郎のアニメはとにかく実験的でした。限られた予算の中でいかに面白く見せるか創意工夫がされた作品です。スタッフがゼロの気持ちで作っていたんですね。だからこの真面目な主題歌がしっかりハマっていたのです。
アニメもバンドも曲も知られていませんが、こういう曲が存在したということは少しでも多くの人に知ってもらいたいですね。不景気で暗い話題が多い今の時代だからこそ、ゼロの気持ちというのは大事なことだと思うからです。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)