「逢いたくていま」はドラマ「JIN-仁-」の主題歌だった
MISIAの『逢いたくていま』は、2009年に放送され高視聴率を記録したTBS系のドラマ『JIN-仁-』の主題歌として書き下ろされたバラードです。
『JIN-仁-』は、ある日1人の入院患者が病室から姿を消したことをきっかけに、脳外科医の南方仁(みなかた じん)が幕末の江戸時代へとタイムスリップする物語。
幕末に活躍した坂本龍馬らと関わりながら、人々の命を救うために奔走する南方仁と仲間たちの姿が大きな感動を呼び、国内外で大ヒットしました。
そのヒットの一端を担ったのが、MISIAが歌う主題歌『逢いたくていま』ではないでしょうか。
MISIAの圧倒的な歌唱力で歌い上げられるのこバラード曲は、南方仁を支えながら彼を慕う江戸時代の女性、橘咲(たちばな さき)の気持ちを歌っているという考察があります。
その歌詞を見てみましょう。
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初めて出会った日のこと 覚えてますか
≪逢いたくていま 歌詞より抜粋≫
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美しいピアノのイントロに乗せて、まるで咲さんが南方先生に優しく問いかけるようなフレーズから始まります。
この後、どんな想いが綴られていくのでしょうか。
ドラマのラストを予感させるような歌詞
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過ぎ行く日の思い出を 忘れずにいて
あなたが見つめた全てを 感じていたくて
空を見上げた 今はそこで 私を見守っているの? 教えて…
≪逢いたくていま 歌詞より抜粋≫
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『逢いたくていま』が主題歌だった2009年版の『JIN-仁-』は、多くの謎を残したまま最終回を迎え、2011年に続編となる『完結編』が放送されました。
『完結編』のラストでは、南方先生が未来へと帰った後、江戸時代の人々から彼の記憶が消えて行きます。
咲さんも、自分の中で先生の記憶が薄れつつあることに気がつき、記憶が完全に消えてしまう前に先生に宛てた手紙をしたためました。
このフレーズは、その時の咲さんの気持ちのように聞こえてくるのではないでしょうか。
この楽曲の依頼を受けた時、MISIAはすでに原作を読んでいて物語の展開を知っていたそうです。
とはいえ、2009年の時点では原作のコミックはまだ連載中で、その後の結末も原作とドラマでは違いました。
まるで、ドラマの結末を予感させるような切ない歌詞を書いたMISIA。
その豊かな感性に驚かされますよね。
「逢いたくていま」は死別の歌?特攻隊との関係を考察
『JIN-仁-』の原作はすでに読んでいたMISIAですが、作詞をするときには物語に寄せなかったそうです。
曲を作るときには「ストーリーを追うことなく、MISIAの純粋な世界観を描いてほしい」とプロデューサーからオファーされていたのだとか。
曲のテーマは「逢いたい」そして、ドラマの内容が歴史ドラマであり医療ドラマでもあることから「いのちのメッセージ」について考えた彼女は、ある場所へと向かいました。
それは、第二次世界大戦末期の特攻隊員に関する遺品や資料が展示されている、鹿児島県の「知覧特攻平和会館」。
特攻とは、爆弾を装備した飛行機もろとも敵艦に体当たりする必死の攻撃で、その出撃とは死を意味していました。
隊員たちが出撃前に愛する人に宛てて書いた手紙を読んだMISIAは、「これ以上、切実に会いたいという思いが込められた手紙はない」と感じ「曲の芯の部分が決まった」と語っています。
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もう二度と逢えないことを 知っていたなら
繋いだ手を いつまでも 離さずにいた
『ここにいて』と そう素直に 泣いていたなら
今も あなたは 変わらぬまま 私の隣りで 笑っているかな
≪逢いたくていま 歌詞より抜粋≫
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戦時中の日本は、自分の本心を口にすることが難しい時代。
まだ10代、20代の若者だった隊員たち、そして、夫や息子を戦地に送り出した女性たち。
皆、どれほど辛く怖かったことでしょう。
このフレーズからは、当時の人々の心の声が伝わってくるような気がします。
「今」と「逢う」の解釈
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今 逢いたい あなたに
聞いて欲しいこと いっぱいある
ねえ 逢いたい 逢いたい
≪逢いたくていま 歌詞より抜粋≫
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MISIAはなぜ「今」という言葉を使ったのでしょう。
それは、彼女が歴史を過去のものとは捉えていなかったからではないでしょうか。
戦争を知らない世代にとって、第二次世界大戦は歴史の教科書の中で見る過去の出来事。
しかし、戦時中に生きた人々にとってはその時代が「今」ですよね。
MISIAは隊員たちの手紙から、当時の人々が懸命に生きた「今」を感じ取ったのではないでしょうか。
また「逢う」には、ただ単に学校や会社で人と顔を合わせる時に使う「会う」とは違って「会いたいと強く願っている人と巡り会う」という意味があるそうです。
「会いたい」ではなく「逢いたい」と綴ることによって、大切な人を想う気持ちの強さがより心に響きますよね。
戦争が残した消えない想い
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涙があふれて 時は いたずらに過ぎた
ねえ 逢いたい 抱きしめてよ
あなたを 想っている ずっと
≪逢いたくていま 歌詞より抜粋≫
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戦争が終り時が流れても、残された人々の心の中には、戻ることのない愛する人が若々しい姿のまま生き続け、消えることはないでしょう。
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運命が変えられなくても 伝えたいことがある
『戻りたい…』あの日 あの時に 叶うのなら 何もいらない
≪逢いたくていま 歌詞より抜粋≫
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歴史に「もし」は存在しないとわかっていても、後に残された人は、ふとあの時に戻りたいと思うこともあるはすです。
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どうしようもなくて 全て夢と願った
この心は まだ泣いてる
あなたを 想っている ずっと
≪逢いたくていま 歌詞より抜粋≫
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このフレーズには、自分たちの力では変えようのなかった運命を想う、戦時中を生きた人々の悲しみが表現されているような気がします。
より良い未来に向かって
『JIN-仁-』の舞台となった江戸時代が終わり、明治時代が始まったのは、今から150年以上前。
そして、日本の終戦は75年以上も前です。
人生100年時代と言われる今、それほど遠い昔ではありませんよね。
その間に日本はこれほどに発展し、豊かになりました。
私たちの今の暮らしは、昔の人々のたゆまぬ努力と大きな犠牲の上に成り立っています。
今日のこの日も、明日になれば過去になるのです。
その積み重ねが未来へと繋がっていくのならば、私たちも「与えられた人生を精一杯生きなければならない」と、この曲は伝えようとしているのではないでしょうか。