音楽での成功を夢見る少年の苦悩を描く
新進気鋭のボカロPすりぃが作詞作曲した注目ボカロ曲『限りなく灰色へ』。
スマホ向けリズムゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』内のユニット「25時、ナイトコードで。(通称ニーゴ)」のために書き下ろされました。
リリース直前に開催されたゲーム内イベント『満たされないペイルカラー』のストーリーとリンクする内容で、ファンにとってはより重要な曲となっています。
YouTubeで公開されている津田によるオリジナルMVでは、ニーゴのいる世界を舞台に音楽制作に苦悩する少年が主人公で、鏡音レンが歌唱するボカロバージョンも魅力的です。
今回はゲームのストーリーには触れず、歌詞とMVの内容から意味を考察していきます。
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才能なんてないからここで一生泣いているんだろ
目に映った景色の青さが羨ましく思っていた
路肩に転がる人生アスファルトの温度下がってる
真夜中を照らす灯りを求めつなぐ電波セカイへと
≪限りなく灰色へ 歌詞より抜粋≫
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芸術を生み出そうとする人がまずぶつかるのが、才能という壁。
どんなに曲作りが好きで自分の才能を信じていても、評価されないでいると「才能がなかった」と感じてがっかりするでしょう。
人知れず涙を流しては、人の才能の鮮やかさを羨むこともあるはずです。
それでも真夜中のような暗い現状を照らす成功を掴みたいと、主人公は今日もパソコンを開いて新しい音楽を作ります。
灰色になってしまったものの解釈とは
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Rainy Rainy 求めるものだけ描いた
心閉まって待って!本当は叫びたいのよ
Rainy Rainy 強くありたいと願った
声は無情に散って孤独を奏る
指先から伝わっていく虚しさの色
『認めてはくれないの?』
≪限りなく灰色へ 歌詞より抜粋≫
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ここで「求めるものだけ描いた」とありますが、「心閉まって待って!本当は叫びたいのよ」と続くことから、自分が求めるものではなく他人が求めている音楽を作っている様子が伝わってきます。
「Rainy Rainy」は、そんな彼の涙や心が沈んでいる状態を雨に例えているのかもしれません。
彼が「駄作」と題されたデータを削除すると、同じようなデータでゴミ箱が一杯になっています。
黒いカラスで表現されるのは、彼の心を支配する「虚しさの色」です。
自分が求めるもので認められたいと願う一方で、弱さから人に認められやすいものを選んでしまう。
そんなジレンマと虚しい気持ちがよく表れていますね。
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燻んでしまったの灰色に
こんな才能なんて借り物
まだ人生終わっていないから
諦めんなって誰かの声
見失ってしまったのアイロニー
気付けなくて今も抗ってる
この感情奪って去ってよ
ドロドロになってしまう前に
≪限りなく灰色へ 歌詞より抜粋≫
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かつては純粋で真っ白な気持ちで曲作りを楽しんでいた彼ですが、認められたい気持ちが強くなるあまりに音楽への思いが「燻んでしまった」ようです。
「こんな才能なんて借り物」というフレーズから、良い評価を受けた曲もあったものの、やはりそれは人に求められて作ったものだったために素直に喜べないでいると考えられます。
「アイロニー」とは皮肉を意味する言葉なので、「諦めんな」と励ましてくれた「誰かの声」を見失って、まるで皮肉を言われたような気持ちになってしまったのかもしれません。
そんな時、彼は街の大型ビジョンでニーゴの歌に触れます。
そのはっとした表情は、周囲の才能への嫉妬で「ドロドロになってしまう前に」あんな風に音楽を作ることをもう一度楽しみたいと感じたように思えます。
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wow..私だけみて愛を伝えて
wow..こんなセカイとバイバイバイバイ
wow..滲む想いなぞって描いた
wow..夢の形に泣いちゃった
≪限りなく灰色へ 歌詞より抜粋≫
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「私だけみて愛を伝えて」という表現に、自分自身が生み出す音楽を愛してほしいという想いが感じられますね。
続く「こんなセカイとバイバイバイバイ」の歌詞は、誰かが求めるものを作って満足するような現状から早く抜け出したい気持ちの現れではないでしょうか。
実際にその想いを表現して作った音楽は、自分が本当に抱いていた夢を思い出させます。
それと同時に夢を掴むには程遠い現状も鮮明になって、思わず涙が出たのでしょう。
大切なのは夢を諦めない気持ち
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いつかはできると思ってただけど現実は残酷だろ
焦りと不安の渦の間に黒くなって浮かんでいる
退廃的なセンスと曖昧な表現なんかじゃ
奇を衒った奴らの芸術に
飲み込まれて消えていく
≪限りなく灰色へ 歌詞より抜粋≫
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人の成功を見て憧れ、自分も「いつかはできる」と信じて追いかけてきた夢。
しかし、流行りが過ぎてしまったような音楽で勝負しても、人々の関心は奇抜な音楽に向けられ、自分の作品は人目に触れないまま埋もれていってしまいます。
焦りと不安ばかりが募り、同じことの繰り返し。
移り変わりの激しい音楽の世界の現状や夢を叶える難しさをはっきり示していますね。
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Rainy Rainy 雨と流れていく徒労感
肩を濡らして残った冷たい記憶の体温
Rainy Rainy 雲の隙間から覗いた
光当たって届いて身体を軽くしたんだ
美学とかプライドとか語る前に
『やれることやっていけ』
≪限りなく灰色へ 歌詞より抜粋≫
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降り続く雨で暗い外の景色は、気分を落ち込ませます。
どうやっても上手くかない現実が心を暗くしていくのも、その様子と似ているかもしれません。
ところが、やがて「雲の隙間から覗いた光」が彼のもとに届きました。
認められることは決して簡単なことではないですが、諦めず努力を続けていればきっと光を浴びることができる。
そう確信した彼は「やれることやっていけ」と自分に言い聞かせます。
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閉ざしてしまったの退路に
焼けた才能を一つ置いてけ
ただやったもん勝ちなんでしょ?
固唾飲んでる場合じゃないでしょ!
目を開いても変わらぬアイロニー
気付いたってどーしようもないから
それを虎視眈々と狙ってる
ペルソナになんて越されんなよ
≪限りなく灰色へ 歌詞より抜粋≫
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彼は逃げずに行動することを決意し、自身で退路を閉ざしました。
使い物にならない才能は捨て、「固唾を飲んで」見守るよりも「やったもん勝ち」の精神で新たな一歩を踏み出します。
「ペルソナ」とは架空の人物像のことであり、ここでは批判で弱ったところにつけ込もうしている人たちのことのようです。
どんなに素敵な音楽を作っても、すべての人に愛されることはありません。
だからそんな周囲の声に惑わされる必要はないのです。
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wow..滲む想いなぞって描いた
wow..夢の形笑っていた
≪限りなく灰色へ 歌詞より抜粋≫
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そうして作り上げた音楽は、彼にとって納得のいくものとなったのでしょう。
嫉妬の気持ちは醜くも思えますが、それが人の糧になることもあります。
夢を追いかける想いは真っ白でなくていい。
灰色でも、自分の好きなものを信じて努力を続けていけばいいという温かなメッセージが感じられる楽曲です。
挫折しそうな時に聴きたい楽曲
これまでアップテンポなボカロ曲を中心に活動してきたすりぃですが、『限りなく灰色へ』では静かなメロディと印象的な歌詞で新たな音楽性の一面を見せています。
すりぃは自身のTwitterで「生きている以上誰かを愛してやりたいし誰かに愛されていたい だからこんな活動しているのかも」とコメントしています。
つまり、この楽曲で描かれている主人公は作者のすりぃ自身でもあり、誰もが同じく人に認められたい気持ちを持っているということでしょう。
そうして葛藤を抱えながらも、自分が良いと思えるものを追求しようとする姿勢に、きっと誰もが頑張る力をもらえますよ。