世界が注目するEveの新曲『夜は仄か』
インターネット発の音楽アーティストが数多く注目を集める中、一際存在感を放つのがシンガーソングライターのEveです。歌い手やボカロPとしての活動で人気を確立し、アニメ『呪術廻戦』の主題歌『廻廻奇譚』を筆頭に多くのタイアップ曲を手がけ、今や世界的な人気を誇るシンガーの1人となっています。
ファンからの期待を背負い、2021年4月30日にデジタルシングル『夜は仄か(読み方:よるはほのか)』を配信リリースしました。
Eveらしい世界観が詰まった疾走感あふれるアッパーチューンです。
MVは海外の映像クリエイター・Zemとの初タッグで制作され、早くも神曲として大きな話題に。
さっそく歌詞の意味の解釈を考えていきましょう。
人生を諦めた少年が見るのは暗い風景
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今日も生きてしまったな これで何年
息を吐くように吐いた嘘は何千
這い蹲って けんもほろろになって
目が回るわ
≪夜は仄か 歌詞より抜粋≫
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1番冒頭から不穏な雰囲気を感じさせるフレーズで始まっていますね。
「今日も生きてしまったな」という言葉から、主人公が本当は生きていたくないと思っていることが分かります。
「これで何年」と続くため、人生を諦めたのはここ最近のことではないようです。
嘘で身を守りながら必死で生きてきても「けんもほろろ」、つまり周囲から呆気なく拒絶されてしまった経験がトラウマになって絶望してしまったのかもしれません。
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そのかかとすり潰した靴でどこ行くの
蔑んだその目を閉まっておくれよ
紫煙を燻らせる染みついた部屋で一人
仄日は切なくあなたに寄り添い
≪夜は仄か 歌詞より抜粋≫
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しかし、人生に絶望しているのは彼だけではないようです。
この部分で後半に「あなた」と呼ばれる存在が出てくることと、語りかけるような言葉が使われていることに注目すると、この「あなた」も主人公と同じ気持ちを抱いているのではないでしょうか。
履き潰した靴のままあてもなく歩き、周囲を見下している姿に主人公は自分と同じものを感じ取ったと考えられます。
それでも彼は「あなた」と出会ってさらに落ち込むのではなく、その出会いに希望を見出したようです。
「仄日」の意味
「仄日(読み方:そくじつ)」とは西に傾いた太陽のことで、言い換えれば夕日のこと。
夕日が沈んでいく様は切なさを感じさせるものですが、沈み切ってもまだしばらくの間空は温かなオレンジ色に染まっています。
その点を踏まえると、沈む夕日のように「あなた」はいなくなってしまったけれど、まだ「あなた」に抱いた愛情が自分の心を温めてくれている、というメッセージが込められているように解釈できますね。
浮ついた花心
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今すぐに言いたい
痛い 浮ついた花心
哀 会いたい言葉が
焼き増しした記憶を辿り
≪夜は仄か 歌詞より抜粋≫
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「花心」とは、花がすぐに散るように移りやすい心のことです。
「今すぐに言いたい」「浮ついた」という表現からも、「あなた」に対して湧き立つような恋心が芽生えている様子が読み取れます。
思い出をいつまでも残したいから写真を「焼き増し」するのと同じく、「あなた」との記憶をいつまでも残していたいと思い、繰り返し記憶を辿っているのです。
温かな恋心は生き方を変える
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寂しい星を待って
愛されたいを知ってしまった少年
夜空を見上げたなら 今踊って
さよならを謳って 希うまで
≪夜は仄か 歌詞より抜粋≫
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ここで言う「星」は「死」と捉えてみましょう。
人生に絶望して生きることも嫌になっていた彼は、孤独に死んでいく日を今日か明日かと待っていました。
しかし「寂しい星」が迎えに来る前に「あなた」と出会い、「愛されたい」という気持ちを知ってしまった。
初めてそんな気持ちを抱いたために、我慢を知らない「少年」のように欲求が募っていると考えられます。
つらい思いをしていると、星空がどんなに綺麗でも顔を上げることすらままならない時もあるでしょう。
しかし、彼は「夜空を見上げたなら 今踊って」と、少し明るく活動的な気分になっているようです。
だからこそ、悲しいはずの「あなた」との別れも前向きな気持ちで受け止めることができたのではないでしょうか。
「希う(読み方:こいねがう)」は、強く願うことや切望することを指す言葉です。
希望の希の字が使われているので、その願いはポジティブな内容と考えていいでしょう。
そのことから、今はまだ自分の「愛されたい」気持ちの方が強いものの、いつか彼女自身の幸せを切に願えるようになりたいと考えているのかもしれませんね。
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誰にも言えない秘密があって
笑顔の裏には影があって
知らない自分を知って欲しいんじゃなくて
そうじゃなくて
≪夜は仄か 歌詞より抜粋≫
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生きたくないと思っていた彼にもいなくなってしまった「あなた」にも、「誰にも言えない秘密」がありました。
笑顔で振る舞っていても、その本心まで楽しい気持ちでいるとは限りません。
彼が持つ「あなた」への「愛されたい」という願いは、そんな複雑で見せたくない部分まで見て受け止めてほしいと願うような大それたものではないようです。
自身でもうまく言葉にできていませんが、きっとただ隣にいてくれるだけで満たされるような単純なものなのではないでしょうか。
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あの時ドキドキする胸の高鳴りは
凍てつく心を溶かしてしまえたら
この手をすり抜ける 陽だまりの中で独り
仄日は切なくあなたに寄り添い
≪夜は仄か 歌詞より抜粋≫
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一緒に過ごした時間の中で感じた「ドキドキする胸の高鳴り」。
生きたくないと思い続けたために「凍てつく心を溶かして」しまえそうなほど、「あなた」の存在は大きく育っていきました。
ところが、掴みたくても掴めない陽の光のように「あなた」は今や手の届かない存在で、彼は見えなくなる仄日に「あなた」の姿を重ねて見送っています。
愛を知った人生は気分がいい
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真っすぐに誓い
痛い 浮ついた水心
愛 咲いた花びら
散りゆく最期までを僕に
≪夜は仄か 歌詞より抜粋≫
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1番で「花心」だった部分が、2番では「水心」となっています。
水心とは、「魚心あれば水心」ということわざの略です。
魚に水を親しむ心があれば水もそれに応じる心があるのと同じように、相手が好意を示せば自分も好意を示す気になることを意味する言葉です。
つまり、彼は自分が抱いている恋心に応えて、彼女も自分を想ってくれているのではないかと期待しているのでしょう。
「痛い」「浮ついた」とあるように、それがもう叶えようのない願いであることも分かっています。
咲いた花が散っていくのは自然の摂理です。
同様に、愛にも終わりがあります。
そうであれば「散りゆく最期まで」大切にしたいという気持ちも自然なものでしょう。
ここでやっと主人公は自身のことを一人称で「僕」と呼んでいます。
彼女と出会い心が動いたことで、やっと自分自身という存在に目を向けられるようになったことを表しているのかもしれません。
「夜は仄かに」の意味を考察
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寂しい星を待って
愛されたいよ少年
夜は仄かになって
≪夜は仄か 歌詞より抜粋≫
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ここで率直に「愛されたいよ」と自身の気持ちを吐露しています。
これまで散々苦しみ絶望して孤独を受け入れてきたけれど、本当はただ誰かに愛されたかっただけなのだと本心に気づくことができたのでしょう。
そして、タイトルの「夜は仄かに」というフレーズも出てきます。
「仄か」はかすかに認められることを指す言葉。
夜がかすかになるということは、星の光や朝焼けで真っ暗な夜がほんのり明るくなっていく様子を表現していると考えられますね。
きっと愛されたい気持ちを知り、愛する想いも知ったからこそ、暗く思えた人生が少しずつ明るく見えてきているのでしょう。
人との出会いは人生を変える
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今日も生きてしまったな これで何年
ただなんだか気分はいいみたいだ
≪夜は仄か 歌詞より抜粋≫
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最後にまた冒頭と同じ歌詞が出てきます。
自身が生きているという事実に後ろ向きな言葉です。
とはいえ「ただなんだか気分はいいみたいだ」と歌い、いつもと変わらないように見える毎日の中で彼の心持ちが変化したことがわかります。
愛した人はいないけれど、愛を知ったから前向きな気持ちで生きられる。
生きたくないと思っていた彼が生きることにわずかでも喜びを感じられるようになったことを思うと、心が温まるのではないでしょうか。
現実はいつもハッピーエンドとはいきません。
願うもの全てを手に入れることも、どん底の人生が突然バラ色になることもないでしょう。
気持ちが少し上向きになっただけでも素晴らしいことです。
何気ないものに思える人との出会いや愛には、意外と考え方や人生そのものを変えてくれる力があることを教えてくれます。
「夜は仄か」で見せる愛の力で元気をもらおう
『夜は仄か』は、生きにくい現実に悩む全ての人に人の温かさや、愛の持つ力を改めて気付かせてくれる楽曲です。Eveが描く歌詞は、難しい漢字や言い回しが多く登場しますが、ひとつずつ噛み砕いて考察していくと、このフレーズでしか感じ取れない微妙なニュアンスが伝わってくるでしょう。
ぜひ歌詞をじっくり味わって、自分なりの解釈を考えてみてくださいね。