久々に作った明確な「ラヴソング」
──今回のジャケット写真は、中央の部分に別の景色が写っていて、さらに人の足が出ているといったように、非常に不思議なビジュアルになっていますね。この構図にはどのような意図がありますか?柳沢亮太:『愛しい人』の歌詞の中に“本性”という部分の歌詞があり、“一部は見えているけれど、全体は分からない”といったことをジャケットで表現できないか、となったんです。それでデザイナーさんからいくつかアイデアをいただいた時に、このパターンがあって。
ぱっと見ると一枚の絵なんですけれど、違う絵が入っていたり、足と手の一部だけがちょっと写っていて。僕らも最初に見た時は何がどうなっているのか分からなかったので、そのアイデアを非常に面白いなと思って、こういうジャケットになりました。
──デザイナーさんの提案は思ってもみない方向から来るので、そういう見方があるんだ、と新鮮ですよね。
渋谷龍太:前回のアルバムは僕の手だけ、という感じだったんですけれど、これまでは自分たちが登場するジャケットばかりだったので。こういうデザインのジャケットは、自分たちの中でも斬新ですね。
柳沢亮太:僕らもジャケットやミュージックビデオに関して、自分たちの頭の中で想像するのは限界があるし、かつ自分たちで考えるとイメージを限定しすぎそうな気もしていて。だから見た方が“これはどういう意味なんだろう?”と想像してくださるようなものにしたい、と数作前くらいから話をしていたので、こういった形になって面白いな、と思っています。
──表題曲『愛しい人』はテレビ朝日系ドラマ「あのときキスしておけば」の主題歌でもある恋愛の歌ですが、制作はどのように進んでいかれましたか?
柳沢亮太:SUPER BEAVERとしてはこの数年、明確に“ラヴソングだな”と考えて作ってきたことがなくて。いわゆる恋愛的な要素も含んだ上で、もっと大きな愛といったものを歌ってきたんですけれど、もう少し局所的なものを歌いたい、作りたい、と漠然と思ってはいたんです。そういったタイミングで今回、ドラマのお話もいただいて。
だからといって、どういったことを歌にしたいかというと、結局のところは恋というより、恋が少しずつ恋よりも大きなものに変化していく部分を歌にしたいな、と思って出てきたのが、この『愛しい人』でした。恋愛は大きなテーマではあるんですけれど、それ以外のシチュエーションにもハマる瞬間というのは、たくさんあるのかなと思って。自分たちでもそう思えるような1曲になっています。
──特に印象的なフレーズは「死ぬまで味方でいよう」だと感じたのですが。
渋谷龍太:この一言でこの曲の対象となる人間の幅が広がるような感じがしますね。『愛しい人』はSUPER BEAVERにとってめずらしいぐらいのラヴソングだと思うんですけど、そこのみにフォーカスが当たらない、とても良い部分だなとは思いました。
すごく単純なんですけれど、“これを言われてうれしい人は、いっぱいいるんだろうな”と。とても素敵で包容力のある言葉だなと思ったので、個人的にもこの部分はすごく好きですね。
──そして冒頭の<ぱっと一言じゃ 言い表せないのが 愛だ>ですべてをつかみますね。
渋谷龍太:これを言えちゃったら、バンドをやっている必要もないような気はするんですけれど(笑)。でも、あえてこういうふうに言わないと、気づけない部分でもあったりすると思うし。自分たちは言葉にすることを一生懸命にやっているバンドだと思うんですけれど、すぐに言える類のものではないことがテーマだと思うので。
自分以外の人に向く「言葉にできない気持ち」を突き詰めていく作業というか。それがあるからこそ、想像力や愛情、思いやりにつながるような感じがするんです。だからここは、すごく大事な部分だな、と。それこそ友人との関係性といったラヴソング的ではない関係の中でも、この部分はとても大事だと思いますね。
──「ぱっと一言じゃ言い表せない」という言葉の中に、瞬間的ではなく、永続的なニュアンスを感じ取りました。
柳沢亮太:恋をした最初の頃って、例えば「顔が好き」とか「性格で好き」とか、わりとぱっと言えるというか。もちろんそれが悪いとかではないんですけれど、そこからいわゆる恋人と呼び合う関係になって、しばらく時を過ごしていくうちに、もっといいものを見たり、反対に「え?」と思う部分も見えてきたり。最初のぱっと第一印象で思ったこと以上の、人と人との関係性みたいなものが芽生えていくのかな、と思っていて。
言い換えるなら、ある意味の信頼関係かな。友人でも家族間でもそうだと思いますけれど、情報が増えていくので、ずっと第一印象のみで付き合い続けていくことはめずらしいことなんじゃないかな、と。自分も少しずつ年を重ねていく上で、お互いの関係値はどんどん変わっていくものだと考えるようにもなってきているんですけれど、それはすごくいいことだなあとは思っていて。
最終的には人と人として、どういう関係を築き上げていくのか、というところなのかな、と。だから『愛しい人』はラヴソングといえども、やっぱりずっと自分たちが歌いたかったことではありました。
──サウンド面でいうと、藤原さんは歌詞の中でご自身がキーワードだと感じる言葉から演奏のイメージを広げているというお話を以前に伺ったのですが、この曲に関してはどの辺りにポイントを感じられましたか?
藤原”32才”広明:この曲はめずらしく「この歌詞に合わせてこうして」というのは、やっていないんです。逆にあえてキーワードをあまり持たないように、自分の中でいろいろ挑戦していて。僕の癖だったりやり方だったりみたいなものではない表現で、できるだけ聴いた人が“いいな”と思ってくるようなものは、どういうアレンジなんだろう?とか、どういうプレイなんだろうな?というのはすごく考えてやったという感じはしていますね。
──今までとは違うアプローチに挑戦されたのですね。
藤原”32才”広明:『愛しい人』はいわゆるラヴソングだと思うんですけど、「死ぬまで味方でいよう」というワード一つで、すごく対象の感じが広がるというか。そういう意味では、キーワードはこの歌詞かもしれないですけれど。自分の中では、できるだけこれを聴いてくれた人が、一人でも多く“良い曲だな”と思ってもらうためにシフトできたというか。自分の癖をできるだけ抑えた中でも、届いてほしい、という思いがあって。そういう楽曲が“SUPER BEAVERが久々に作ったラヴソングだ”といったら、それはそれで面白いかな、と思って作りました。
──上杉さんは、今回演奏する上で意識された点はどんなことでしょうか?
上杉研太:この曲はテンポ感が勢いだけで持ってくような感じではないし、なおかつこういう歌詞なので。ただ常に歌詞とリズムがすっと入ってくるような、逆に耳障りになるような動き方であったりブレイクであったりというのは、特に考えなくても、自然に出てきたような気はしますね。
──ベースが語っている、という感じが非常にしました。
上杉研太:はからずとも感情の部分のようなベースになっているのかな、とは思います。
ラヴソングが持つパワーと可能性
──皆さんは、改めて恋愛の歌にはどんな思いがありますか?渋谷龍太:僕はラヴソングが大好きなんですよ。映画を見たり、本を読んだり、歌にしてもそうですけど、そういう題材のものって、結構好きなんですよね。多分、万人に共通することだとは思っているんです。どれだけかっこつけてる人でも、どれだけサバサバした人でも、“〇〇ちゃん好き”とか“〇〇くんかっこいい”と感じたことは、たぶんあるだろうから。
例えば何か一つ伝えるにしても、それを題材にした時に、もっと染み込んでくる可能性がたくさんある気がしていて。だから聴いていても、歌っていても、好きなんですよ。
──80歳の方が目の前にいたとしても、この『愛しい人』は伝わっていると思います。
渋谷龍太:多分通ってきているだろうし。価値観はそこまで進化しないというか。その都度の感覚が、わりと消えずに残っているものだと思うんですよね。この歳になってみて思うんですけど、学生時代のあの甘酸っぱい感覚とか、結構風化されずに、何故かそのまま残っているんです。
──冷凍保存されていますよね。
渋谷龍太:そうそう。だから思ってもいない瞬間にぶっ刺さったりとか。そこに含めた言葉・メッセージが、その刺さった部分を通して浸透する可能性が多分にあるのがラヴソングなのかな、と思っているので。“何か素敵だなぁ、これ”と思ってますね。革新的なことを伝えるとしても、これにパッケージングしたら、もっと伝えられる可能性があるかな、といったことも少し思ったりするので。
──なるほど。自分はまだ恋愛ソングについてインタビューする時、少し小恥ずかしさがあって、まだまだだなあと。
藤原”32才”広明:いや、分かりますよ(笑)。僕も恋愛ソングに関して、渋谷みたいにワーッと語れるのが、いいなあと思いつつ、自分で語るのはちょっと恥ずかしいというか。音楽ならいいんですけれどね。
──まさにそうです(笑)。
柳沢亮太:逆に失恋ソングはどうですか?
──個人的には、失恋した時は異性の歌は聴きにくいです。
柳沢亮太:そうなんですね。僕は失恋だったり物悲しい気持ちになる時は、女性ボーカルの失恋ソング的な楽曲を聴くのが多くなった気がします。たぶん男性の方がその雰囲気にひたるんでしょうね。後で“何、ひたっちゃってるんだろうな”と自分のことを少し冷めた目で見る時もありますけれど(笑)。
──確かに悲しい時は、その空気に染まる方が癒されるかもしれないですね。上杉さんは恋愛ソングについては、いかがですか?
上杉研太:僕もラヴソングは好きですね。さっきから話しにも出ていましたけれど、やはりラヴソングは人を好きになって、はたまた振られるとか。そういうようなことは、多分誰しもが経験することだから。それは小学生だろうが高校生だろうが、はたまた社会人だろうが、結婚しそうだったのに、みたいな人だろうが、ご高齢だろうが、その時その時で響くものがラヴソングにはあると思っていて。
そんなに意識しなくてもすっと入ってくるような、共感という意味でのパワーは絶対持っていますよね。
この曲がお守りになってくれたら
──2曲目の『ほっといて』は、ベースがグイグイ曲を引っ張っている感じがします。サウンド面の主役は上杉さんでは?柳沢亮太:もともとこの楽曲はベースから始まる曲を作りたいな、と思っていて。上杉に“ベースのリフみたいなのを作ってくれないか”と言っていて、何パターンか投げてくれた中の1つが、ド頭のベースのフレーズだったんです。だから音に関してはまさにベースが主役の1曲になっています。
──柳沢さんから託されていかがでしたか?
上杉研太:いやもう“大変だな”というくらい、たくさん弾きました(笑)。でもフレーズを送ったといっても、最初のワンフレーズを弾いているエレキの生音を携帯のボイスメモで何個か送っただけなんですけれど。それがここまでのものになるから、“すごいな”と思いました。ただ自分が送ったフレーズがマイナー調だったりすると、そういう曲調になってきて、それに合った歌詞がついてくるから、過程が分かっていた分、非常に面白かったですね。
──―最初は音がすっと入らない感じがありますね。
上杉研太:あれはベースのノイズを入れたミックスになっているんですけれど、それはエンジニアといろいろ話したうえで提案してくれた部分もあって。でも“すごくいいね”という空気感が流れたので、そのまま採用しました。
──あのちょっとした間がいいな、と感じました。さきほどのデザイナーさんの提案と共通していますね。
上杉研太:本当にそういうのが、いろいろあるんですよね。
──『ほっといて』は飛びかかってくる悪意に対して警告している歌詞ですが、もともとどういったところからこの詞が生まれたのでしょうか?
柳沢亮太:書き出しの4行の感覚というのは、個人的にもバンドのスタンスとしてもずっと持っていたものであって。“損はしたくない”というのは、皆、同じだと思うんですけれど、人が得をしてる様を見て、相対的に“自分が損をしている”と思うのは、やはり何か違うな、と思っているんです。“損をした”と考えて焦ったり悔しくなったりするだけだったらいいのですが、最近、その先がすごく多いようにも感じていて。
自分が明確に損をしたわけではないけれど、周りが何か楽しそうだったりうれしそうだったり、金銭で得をしていたりする時に、あたかも自分が被害者であるかのような振る舞いで攻撃をするというか。そういった感情はすごく嫌だな、と思っていて。そういったところに関して、“ほっといてくれ”と言うか。そもそも放っておくも何も、関係ないじゃないか、と。今は見えない空間を飛び越えて簡単に手を出せるので、よりそういうものを感じるようになったのかな、と思うんですけれど。
──なるほど。
柳沢亮太:もちろん、実害があったら別ですよ。でも関係ない人のことを後ろからはたくような真似をするのは、何か嫌だなと強く思っていて。それがこういった楽曲を歌にしたいな、と思った最初のきっかけですね。
──特に表現に携わる方々は、いろいろな人の関心を引き付けなくてはいけないですよね。だからその分、妬みや負の感情をかなり受けるのではないかと思うのですが。
渋谷龍太:たくさんの人が聴いてくださるようになり、いろいろ知ってくださる機会も増えてきて、そういうことに遭遇する場面はやはり増えますね。ただそれに関しては、“俺がこうだから仕方ねえな”とは思ってないです。いろいろなことを超越したり卓越した人間ではないので、ちゃんとくらいますし、ちゃんと“嫌だな”と思います。
──今まではある意味、大勢の人の前でパフォーマンスする人たちが受けがちな負の感情も、SNSが発達して、一般の人でも同じような状況になっているのではないかと思っていて。これまで選ばれし人たちの多分悩みだったことが身近になっているからこそ、すごく響くのかな、と。
柳沢亮太:それはあるかもしれないですね。決して僕たちが特別そういうものをくらってるとは思わないですけど。でもそれがおっしゃる通り、あらゆる職業、あらゆる年齢の中でも巻き起こってきてるというか。可視化されている、みたいな。
ただ、昔から似たようなことはあると思うんですよ。それこそ子どもの頃に、自分が欲しかったオモチャを彼は持っていて、やっかみで意地悪しちゃうとか。それが直接だったら喧嘩したりして、そこで気づくことや学ぶことがあるかもしれないですけれど。
今は範囲外というか、無作為に来ることもとても多い。“せめて名乗れ”という気持ちは、どこかにあったのかな、と。それは時代がどうこうというより、根本的なことだと思うんです。ただ、やりやすくなっているだけだと思うので。でも、やりやすければやっていいのか。それとも目の前にしたらやれないのか。その幅というか、食らってしまうスペースの広さは、確かに増えていると思うので。この曲をお守りみたいにしてくれる人がいたらいいな、という気持ちは非常にあります。
──お守り。つまり、心のよりどころになるような存在になれたら、と。
柳沢亮太:一番キツいのは“そう思っているのは、自分だけかもしれない”という、孤独感のようなものじゃないでしょうか。それが“SUPER BEAVERもそうなんだ”とか“〇〇も、こういうふうに思うんだ”“やっぱりこれは嫌だよね”と感じることができれば、少し間引ける部分はあるのかな、と思うので。そんな感じで届いたらいいな、という気がします。
──逆に自分が妬みといった気持ちに傾いたとしたら、この歌が戻してくれるようにも思いました。そしてドキッとしたのは「だけど 意地悪な人の心は 顔によく出ているね」という部分です。
柳沢亮太:最近、これは本当にそう思いますね。僕はイライラしている人の顔って、すごく伝わってくるような気がしていて。普通に道を歩いていても、“なぜこの人は、わりこんだんだろう?”と思って顔を見ると、決してニコニコはしていないですよね。それは疲れているのか、何か理由があるのかもしれないですけれど、感情は思っている以上に顔に出ているような気がしていて。
特に“意地悪いな”というのは、顔に出ているように見えるんですよね。それも成人してから気づくようになったので、やはりいろいろな方と会うようになってからだと思いますけれど。
──お話を伺っていて、意地悪がモロに顔に出るのは、長い人間関係を作ろうという意識がない、というのも関係しているのかな、と思いました。たとえばメンバーの皆さん同士だと、イライラしているのは分かりますか?
上杉研太:ずっといるから、なんとなく分かりますよね。だから変に自分がイライラしている時もそう思われてしまうから、イライラしないようにしなくては、と思うし。顔だけじゃなくても、行動で分かるんじゃないですか? でもその時々で自分で処理できる能力を少しずつ大人になって培っていけたらな、と。
自分もまだまだですけれどね。ずっといるメンバーに関しては、“何かあったのかな?”“何か思ってることあるんだろうな”と、やっぱり分かったりするんじゃないですかね。
──お互いを大事に思っているからこそ、なるべくイライラを見せないようにしたい、と思うんでしょうね。でも無関係だからと思っていると、意地悪ができてしまう。
柳沢亮太:そういう場合も多いと思いますね。それこそ2度と会わないから、決して顔を合わせることはないからこそ、という。実感がない、というのがすごく大きいと思います。
──でも、中途半端に関わる勇気もないなら、ほっとけよ、と。
柳沢亮太:そもそも交わっていないのだから、というのはありますね。もちろん交わっていれば、今言ったように気をつかったり、“言ってしまった”と心苦しくなったりしますけれど、そもそも人生が交わっていないのであれば、ほっといてくれよ、というのはすごく思いますね。
──そういう目にあったときに、“ほっといてくれよ”と言える強さ、というのもありますよね。
柳沢亮太:ただやはり、なかなかそうは言えないとは思うので。だからこそ、音楽みたいなものが逃げ道みたいになったらいいな、という気はしています。
演奏の設計図を詳細に作成し完成した
──3曲目は『はちきれそう』というタイトルの強さに目が留まりました。たとえば“はりさけそう”といった表現はよく使われている気がするのですが、“はちきれそう”は歌詞の中でめずらしいのかなと思って。柳沢亮太:どうして“はちきれそう”になったかと言われると、ちょっと分からないんですけれど、“はりさけそう”というより、“はちきれそう”だったんですよね。パンパンになっている感じというか。
──確かに“はりさけそう”だと、破れてしまう。
柳沢亮太:そうですね。“はちきれそう”の方は、あと一つの刺激でパンッと割れる感じ。
渋谷龍太:語感として“はりさけそう”は、あまりポジティブじゃないんですよね。逆に“はちきれそう”は、ポジティブな語感で。同じような状況を表しているにも関わらず、こっちの方がポジティブだから、この歌に対しての語感としてはマストなのかな、と思いますね。
──まさにそうですね。そしてサウンドも階段を上っていくように次第に高揚していく音になっているのが、“はちきれそう”を表していて。特に「はちきれそうだ」に入る前の一呼吸あるところに、その緊張感がみなぎっているように思いました。
柳沢亮太:この楽曲は本当に音の濁流、みたいな。部屋全体で音が鳴っているみたいなところと、そうでない部分との強弱をすごくつけようとしていて。サビ前の一瞬の間みたいなところからドバッと開く感じがするのも、“極端に抑揚をつけよう”と意識しながらレコーディングしていましたね。
藤原”32才”広明:今回は、みんなで設計図みたいなのをすごく細かく作ったんです。“ここははちきれないよな”“ここはちょっとはちきれてるかな?”みたいな感じで。ブロックごとに“どのくらいまでのこのエネルギーを入れていくか?”とか。もちろんいつもある程度はやりますけれど、ここまで設計図をみんなで共有してやるのは初めてかもしれないですね。
──綿密にやった方が、この曲はすごく良くなるのではないか、と思われたのでしょうか?
藤原”32才”広明:柳沢が“明確に言葉にするのは難しいけれど、はちきれそうな気持ちはこんな感じで”と、いろいろな例えを使ったりして必死に説明してくれていたので。そこにみんなで追従して、“柳沢の思うこれは、たとえばこういうことなんじゃないかな”とメンバーとエンジニア、スタッフの間で話し合ってすごく綿密に作っていったんです。
柳沢がイメージしているものを自分たちの担当の楽器で、“こんな感じじゃない?”とか“近いね”“あ、遠い”みたいにやり取りしたというのは、バンドマンというか、音楽家になった気分というか。すごく面白いレコーディングでしたね。
──どんな例え話が出たのでしょう?
柳沢亮太:明確と言っているんですけれど、明確じゃないことが明確だったんですね。でもこの曲って、さっきの「ぱっと一言じゃ」という以上に、何も結局言えてないというか。“なんというか”“何だ この気持ちの 正体は”と言ってしまっている。
でも確かにあるんですよ。寂しいのかうれしいのか、苦しいのか分からないけれど、嫌いじゃない。でもなんでこんなにモヤモヤするんだ、ドキドキするんだろう、みたいな。この感じを歌にしたいと思ったのがこの曲だったんですけど、結局なんなんだ、というか。とにかく、はちきれそうなものが明確でなかった、ということだけが明確で。
上杉研太:そうそう。
柳沢亮太:だから音を足していきたくて。とにかくここは“何か分からないけれど、走りたくなっちゃう感じ”とか“もうちょっとドラムも手数を増やしてほしい”“でもやっぱり、ここで最後にさみしさを残したいんだよな”とか。そういう会話はすごくしていましたね。
上杉研太:デモはもともとあったんですけれど、ギターも一本しか入ってなくて。でも骨組みはできていたんですよね。その骨組みから、このはちきれそうなところに、いろいろな感情がのっかってきているわけで。それを音で構築していくには?となってから、ディスカッションがどんどん生まれてきて。
ベースのことを言うと、人には分からないことを結構やっています。回想しているシーンのところだけに、めちゃめちゃコーラスをかけて揺らしていたりしていて。それがアンサンブルの中になってくると、ずっと奥に蜃気楼がある、みたいな。それは自分の音を変化させるというより、全体的なシーンを揺らすというか。
あと、最後のオチのところの「何かを憶えているよ」とか、「何かを思い出してるよ」とかは、もうちょっとで不協和音になってしまう、ギリギリ気持ちいい和音にする、みたいな。そういうのが、逆にこの曲には合っているんじゃないかなと思ったんですよね。
──まさにはちきれそうな、ギリギリ感が音に表れている。
上杉研太:鈍くひっかかってくるけれど、すごく何かくるな、みたいな感じですね。そういうものが話し合いの中からチョイスされていって作っていったから、どんどんビルドアップされた感じはしましたね。
もともとあった楽曲のパワーは一緒ですけれど、そこからの広がり方は、独特になった。轟音の渦の中でも、いろいろ後ろの景色が変わっていくようなストーリーになっています。
──最終的に『はちきれそう』がポジティブに捉えられる言葉だから、力強く、エネルギーがみなぎった曲になったんでしょうね。
渋谷龍太:そうだと思いますね。つらい歌じゃないから。すごく内省的で、苦しいは苦しいですけど、何で苦しいのかという根源は、つらいことだけじゃないような気もしているから。どちらかというと、愛ゆえのつらさといったような方だと思うんですよね。そこはこの『はちきれそう』というタイトルからも、非常ににじんでいるのかな、と思います。
TEXT キャベトンコ
PHOTO 井野友樹
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SUPER BEAVER(スーパービーバー)。 渋谷龍太(Vo)、柳沢亮太(G)、上杉研太(B)、藤原“35才”広明(Dr)の4人によって2005年に東京で結成された。 2009年6月にEPICレコードジャパンよりシングル「深呼吸」でメジャーデビュー。 2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、···