「不滅のあなたへ」の主題歌に抜擢
宇多田ヒカル『PINK BLOOD』は、アニメ『不滅のあなたへ』主題歌。2021年6月2日にリリースされた最新曲です。
『不滅のあなたへ』は、不死身の命と肉体を持つ存在・フシを中心に描かれるファンタジー。
不死身の存在を取り巻く、普通の人間たちや、フシを観察する存在などが登場する、摩訶不思議な世界が描かれています。
不死身の存在は、これまでに何度も題材にされてきたもの。
それだけ、人間にとって魅力的で、描く価値のある存在なのかもしれません。
「価値」という言葉を使いましたが、これからご紹介する『PINK BLOOD』もまさに、人の価値観を描いた作品。
我々が生きていく中で感じる他人との壁や軋轢、生きにくさ。
そこには少なからず、人の価値観というものが関わってきます。
『PINK BLOOD』で歌われる価値観とは、一体どのようなものなのか。
宇多田ヒカルが今、この曲を世に出す意味は何なのか。
歌詞に込められた意味を、読み解いていきましょう。
「PINK BLOOD」から伝わる揺るぎない意思
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Pink blood
誰にも見せなくても
キレイなものはキレイ
もう知ってるから
誰にも聞かなくても
キレイなものはキレイ
もう言ってるから
≪PINK BLOOD 歌詞より抜粋≫
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人は生きていると誰かの意見や価値観に左右されたり、感覚の違いに悩まされたりする事は避けられません。
それでも「キレイなものはキレイ」と、迷わず言える強さ。
自分の中にある信念が、歌詞に現れています。
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他人の表情も場の空気も上等な小説も
もう充分読んだわ
私の価値がわからないような
人に大事にされても無駄
≪PINK BLOOD 歌詞より抜粋≫
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人から理解されないこと、価値のない人間だと思われることは辛いもの。
実際、それで人間関係に悩んだり、自分に自信をなくしてしまったりする人は少なくないでしょう。
しかし「私」は揺るぎません。
「私の価値がわからないような人に大事にされても無駄」と、バッサリ切り捨てています。
たとえ大切にされようとも、自分の価値のわかっていない人間に、その人の価値基準で評価されることに何の意味も見出していないのです。
これは、生きる上で非常に大切なことではないでしょうか。
自分の価値を人に合わせたり委ねたりすることで、その人に認められなかった時に、自分というものを見失ってしまう危険性があります。
だからこそ、他人の価値観など意にも介さず、我が道を突き進む強さが、真っ当で美しく思えます。
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他人の表情も場の空気も上等な小説も
もう充分読んだわ
私の価値がわからないような
人に大事にされても無駄
≪PINK BLOOD 歌詞より抜粋≫
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どうせ頑張るなら自分のために。
“他人の価値基準など当てにもならない。そんなものにすがりつかずに、自分のために努力しましょう”
そう言われているような気がします。
他人のための努力は、否定された時に虚しくなるもの。
しかし自分のための努力なら、自分さえ過去の頑張りを認めてあげれば、期待を裏切られることはありません。
誰のためでもなく自分のために頑張ることは、何より健全な自分磨きなのかもしれませんね。
他人の価値観より自分の価値観
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傷つけられても
自分のせいにしちゃう癖
カッコ悪いからヤメ
≪PINK BLOOD 歌詞より抜粋≫
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傷つけられた時、自分に原因があるのでは?と思いつめてしまうのは、よくあることです。
特に優しくて真面目な人ほど、そうなってしまいがち。
しかし、それを「カッコ悪い」と言い放ち、やめてしまおうとする姿はすがすがしいものがありますね。
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あなたの部屋に歩きながら
床に何個も落ちる涙
自分の価値もわからないような
コドモのままじゃいられないわ
≪PINK BLOOD 歌詞より抜粋≫
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「私の価値がわからないような人」を切り捨てた「私」は、今度は自分自身の価値観にもメスを入れます。
自分の価値がわからないことを「コドモ」と言い放ち、いい加減大人になろうとしているのです。
他人の評価を気にして、自分の価値を見出せないことを哀れむのではなく、“もう大人になろう”と前に進む姿が印象的ですね。
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心の穴を埋める何か
失うことを恐れないわ
自分のことを癒せるのは
自分だけだと気づいたから
≪PINK BLOOD 歌詞より抜粋≫
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ここで言う「心の穴」とはおそらく「あなた」。
ずっと自分の価値を委ねてきたその人と別れを告げ、自分の感覚で、自分の価値観で、前に進み始めた「私」は頼もしいですね。
これまで心のよりどころにしていた存在を失っても、怖くない。
自分の寂しさや心の傷を癒やすために他人を求めると、他人に踊らされることになります。
自分の心の穴は自分で塞げる、満たす術があると知ったことで「私」は、誰にも惑わされることのない、確固たる自分を手に入れたのでしょう。
『PINK BLOOD』で歌われるのは「自己愛」
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サイコロ振って出た数進め
終わりの見えない道だって
後悔なんて着こなすだけ
思い出に変わるその日まで
≪PINK BLOOD 歌詞より抜粋≫
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人生をサイコロに見立て、出た数だけ進めばいいと言い聞かせる。
そうすれば、捨てたものやこれまで拠り所にしてきた人への未練も、断ち切ることができるでしょう。
後悔を着こなし、それすらも自分の一部と受け止めて前に進む。
その姿に、もう迷いはありません。
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サイコロ振って一回休め
周りは気にしないで OK
王座になんて座ってらんねえ
自分で選んだ椅子じゃなきゃダメ
≪PINK BLOOD 歌詞より抜粋≫
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もしも疲れた時には、周りの視線なんて気にせず休めばいいのです。
体力が回復して、また立ち上がれる時まで。
「王座」とは、誰かが用意してくれた居場所のことでしょうか。
そんなものに頼っているから、自分を見失ってしまう。
だからこれからは、他人の用意した椅子ではなく、自分の居場所は自分で掴み取るのだという、強い決意と気概が伝わってきます。
誰かの求める理想の姿を演じてきた「私」を捨て、何よりも自分のために。
リスクも失敗も後悔も、すべて受け入れて前に進む覚悟のできた「私」には、もう怖いものはありません。
『PINK BLOOD』には、自分の価値観を信じて進む、強い信念を感じます。
誰もが思う「赤い血」ではなく、ピンクの血。
人とは違う価値観で自分の思う道を行く「私」の覚悟が表れたタイトルではないでしょうか。
この楽曲を通じて感じることは、誰もが縛られてる「他人からの評価」からの開放。
『PINK BLOOD』で歌われているのは、まさに自己愛です。
結局どれだけ尽くしても、合わせても、他人は裏切ります。
ならば自分のために生きればいい。自分だけは「私」の味方でいてあげて。
そんな願いが込められているのではないでしょうか。
現代で生きづらさを感じている全ての人に聴いて欲しい歌です。
『PINK BLOOD』は不死身の肉体を持つフシと、それを取り巻く者たちを描いた作品。
不死身の存在というのも、我々が生きる「普通の」社会にはなじめない特殊な存在です。
人と違う命だからこそ、見えるもの。
人と違う価値観で、生きること。
『PINK BLOOD』は、聴けば聴くほどそのテーマの深さに魅入られてしまいます。
この歌は、自分を愛することや、他人との価値観の違いから来る悩みなど、とても普遍的なことを歌っています。
だからこそ受け止める人によって、その解釈は様々あっていいはず。
YouTubeで『PINK BLOOD』のMVが配信されているので、ぜひ自分の目で、耳で、楽曲の世界観やメッセージを受け取ってみてください。