STUTS&松たか子 with 3exes という異色のコラボ
トラックメイカーでMPC PlayerのSTUTSと、女優で歌手の松たか子の異色すぎるコラボに驚いた方も多いのではないでしょうか。『Presence I』はドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の主題歌ですが、ドラマのプロデューサーと脚本家で「主題歌は松さんでラップはどうだろう?」という話で盛り上がったことから、このコラボが実現したようです。
ドラマは3回の離婚を経験した主人公・とわ子が4回目の結婚を考えて揺れるなか、三人の元夫が互いに接点を持つようになり、とわ子の元に現れるという物語となっています。
主題歌はドラマのエンディングとして流れるのですが『Presence I』『Presence Ⅱ』『Presence Ⅲ』『Presence Ⅳ』の4部作となっており、ドラマが進むにつれてエンディングが変わるという仕掛けがありました。
アーティスト名が「with 3exes」となっており「exes」は「元夫」という意味です。
アーティスト名のとおり、Iはfest. KID FRECINO、Ⅱはfeat. BIM,岡田将生、Ⅲはfeat. NENE,角田晃広、Ⅳはfeat. Daichi Yamamoto,松田龍平で、ⅡからⅣで3人の元夫役が順に登場します。
ⅡからⅣは元夫の視点のように聴こえる歌詞もあるので、Iは主人公・とわ子の視点が強い歌詞になっているのかもしれません。
今回は『Presence I』の歌詞について深く考察していきます。
タイトル「Presence I」の意味は?
「presence(プレゼンス)」の和訳は「存在」です。『Presence I』というタイトルは、「I」をローマ数字の1だと捉え、ⅡからⅣに元夫がフューチャリングすることを考えると、1つ目の存在としての主人公・とわ子の視点という意味に捉えられそうです。また「I」を英語の「I(和訳・私)」と捉え「私」という解釈もできるかもしれません。
一人称や二人称に注目して歌詞を見ると、この楽曲では「私」「あなた」「貴方」「君」という表現が使われています。ドラマが夫婦の物語であることを考えると「あなた」「貴方」というのは妻から夫に使われることが多く「君」は夫から妻に使われることが多いように思います。
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この肩と手と耳、君に貸すためのもの
all night long過ぎて 東の窓 息を吐いて描く傘へ誰を入れよう
≪Presence I (feat. KID FRESINO) 歌詞より抜粋≫
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肩は寄りかかるための肩、手は支えるための手、耳は悩みを聴くための耳だと解釈すると、とわ子を見守る三人の元夫が、とわ子を「君」と表現していると考えて違和感はなそうです。
しかし、次の行で曇った窓に相合傘を描くような歌詞があり「誰を入れよう」となっているので、とわ子だけでなく、元夫それぞれの新恋人を含んだ表現になっているのかもしれません。
一方「あなた」と「貴方」は同じ意味で同じ音の単語ですが、なぜ2種類を使用したのでしょうか。
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あの日のあなたは
とても輝いてみえた
夢はもう醒めた
≪Presence I (feat. KID FRESINO) 歌詞より抜粋≫
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「あの日」というのは過去を指す言葉なので「あなた」は元夫を指していると考えて良さそうです。
「あなた」はひらがなであることで「貴方」、よりも柔らかく打ち解けた印象を与えますので、お互いを深く知っている元夫を「あなた」、まだ深くを知らない新恋人を「貴方」と表現しているのではないでしょうか。
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まだ知らないことの方が多いのにどうして、
全部知ったふりして歩いているweekday
待たせてるかも 一生ものの貴方を
まあお待ちなさい
≪Presence I (feat. KID FRESINO) 歌詞より抜粋≫
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「知らないことの方が多い」という表現は「貴方」を新恋人だと解釈するとしっくりきそうです。3回の離婚を経験しているからこそ、安易には返事できずに揺れ動く心が「待たせてるかも」という歌詞に凝縮されているのかもしれません。
二人称の表現にこだわることで、主人公や元夫にとって「それぞれの登場人物とはどのような存在なのか」を表している味わい深い歌詞だと言えそうです。
歌詞を考察すると見えてくる主人公の心情
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今日を終える 永遠にチャンスは無くなる?
濡れた思い洗濯物のように揺れる
≪Presence I (feat. KID FRESINO) 歌詞より抜粋≫
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前半の歌詞は3回の離婚を経験し、先行きに不安を抱く主人公の寂しさや焦りを表現しているように思います。「永遠」を「とわ」と読み、主人公「とわ子」に重ねられる歌詞だという解釈もできそうです。
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流れる時に立ち止まったとしても
自分の来た道は振り返らない
≪Presence I (feat. KID FRESINO) 歌詞より抜粋≫
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一方で、サビの歌詞には力強く前を向くような主人公の決意が込められています。元夫との再婚は考えていないという主人公の意志も含まれているのかもしれません。
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足跡はどこまでも伸びていく
物語の先は見えないけど
曖昧で 純粋で
私が自分で決めた
幸せの姿
≪Presence I (feat. KID FRESINO) 歌詞より抜粋≫
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終盤には先行きの分からない不安を感じつつも、自分で決めた幸せの姿を信じて追う主人公の姿が表現されています。
離婚を経験した人々の後悔や不安に寄り添いながらも、自分らしく幸せを追う背中を後押ししてくれるような楽曲に仕上がっていると言えそうです。
ドラマ自体も自分の道を進む背中を押すようなメッセージ性をもった作品なので、ドラマの内容と歌詞をリンクさせることで、より一層メッセージ性を増しているのではないでしょうか。