「キュートなカノジョ」とリンクした最新ボカロ曲が話題
繰り返し聴きたくなる中毒性の高い楽曲を次々とリリースするボカロPのsyudouが、2021年8月14日にYouTubeで新曲のMV動画を公開。
タイトルは『カレシのジュード』で、このタイトルとくろうめによるイラストから“キューカノ”こと『キュートなカノジョ』を連想した人は多いでしょう。
syudouは前作で歌詞の内容と可不を使用したことを絡めて「浮気」と表現したのに対し、初音ミクを使用した今作では「復縁」とコメントしています。
まさしくこの楽曲は『キュートなカノジョ』の別視点を描いていて、カノジョが愛してやまない浮気性のカレシの気持ちが綴られているのです。
タイトルの「ジュード」はそのままカレシの名前とも受け取れます。
しかし、聖書に登場する“裏切り者のユダ”の英語名が「Jude(ジュード)」であることを考えると、このカレシの嘘つきな性格を表しているとも考察できそうですね。
また「重度」と変換すれば、カレシの知られざる重度な愛情が見えてくるようにも感じます。
歌詞の前に注目したいのは、MVで描かれているカレシの姿です。
『キュートなカノジョ』ではあえて首元を隠していることや指が骨張っていることから、カノジョは男の娘ではないかと考察しました。
同じように見ていくと、カレシの顔はカノジョよりも丸みがあり、華奢な首には喉仏がないように見えるので、カレシはジェンダーレス女子なのではないかと解釈できそうです。
そのことを踏まえ、『キュートなカノジョ』との繋がりも紹介しながら『カレシのジュード』の歌詞の意味を読み解いていきましょう。
すぐにバレる浮気を繰り返す真意とは?
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結局は積み重なりゃ簡単に
その心も眼中御中がバレるバレる
知ったこっちゃ決め込めども全然で
ただ動かぬ物的証拠の前無意味
≪カレシのジュード 歌詞より抜粋≫
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浮気の事実が何度もバレれば、いくら愛を囁いても隠しても簡単にまた浮気がバレてしまうもの。
カレシは「知ったこっちゃ」ないの態度でしらを切ろうとしています。
しかし『キュートなカノジョ』が見つけた「背中につけられた誰かのキスの跡」という「動かぬ物的証拠の前」では無意味です。
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一生子供のガイダンス
困ってしまうのも仕方がない
失笑大人は相反する
もうニヤけたフリして心は揺れていた
≪カレシのジュード 歌詞より抜粋≫
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「一生子供のガイダンス」と「失笑大人は相反する」の韻を踏んだフレーズは、カレシとカノジョの関係性を表していると考えられます。
『キュートなカノジョ』では「笑っちまう程に」という言葉が印象的なので、おそらく失笑する大人はカノジョのこと。
大人が子供を指導するように、カノジョが浮気性のカレシに注意している様子が見えてくるでしょう。
いつも同じ展開に困ってしまうカレシは、顔ではニヤけて軽薄なフリしていながら心は揺れています。
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誰かの言葉じゃ満たされない
アナタを待ってる僕がいるんだ
2人は永遠には繋がれない
「守っていたいとかなめないで」
痛みだけが青く澄んで
≪カレシのジュード 歌詞より抜粋≫
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カレシは浮気性で、カノジョも自分が浮気相手だと思っているようですが、サビの歌詞を見るとカノジョ自身が本命のように思えてきます。
浮気を注意してくれる「アナタを待ってる僕がいる」、他の「誰かの言葉じゃ満たされない」のです。
しかし、カレシが浮気を繰り返すのは「2人は永遠には繋がれない」から。
「永遠には」とあるように今は恋人関係を続けられているものの、結婚など生涯を共にすることはできないと考えているようです。
もしこのカレシが考察通り女性であるなら、男性として生きている自分と女性として生きる男性のカノジョとの逆転した関係はいつまでも続けられないと思っていると解釈できます。
「守っていたい」という言葉は男性から女性へ伝えられるイメージで、ここではカノジョからカレシへの言葉のようです。
体は女性でも心は男性のカレシにとって「守っていたい」と言われることは、男性の心を否定されているように感じるのでしょう。
カノジョを愛しているからこそ、もっとカノジョに依存してほしいと願って浮気を続けているのかもしれませんね。
カレシの現在と過去から人間味が見えてくる
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すったもんだそりゃ生きてりゃ全然ある
その都度接待 アイウォンチューなだめるランデブー
結果今日もジェラピケ着てエンジョイ中
その全部が全部崩れる前の日々
≪カレシのジュード 歌詞より抜粋≫
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誰でも生きていれば恋人との「すったもんだ」くらいあるものです。
特にこのカレシは浮気をしているので、もめ事は日常茶飯事でしょう。
その度にカノジョの機嫌を取るためのデートを重ね、繰り返し「アイウォンチュー」と伝えてなだめています。
そうしていつも、最終的にお気に入りのルームウェアを着て二人の時間を楽しんでいました。
しかし「その全部が全部崩れる前の日々」という歌詞に不穏な雰囲気が漂います。
いよいよカノジョに我慢の限界が来て、これまでとは全く違う状況になってしまっているようです。
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あの日あの時あの場所の帰り道には
そうあんなモンが買えるショップは1つだってない
知んない顔してガンガン吸う
まぁ余裕をカマせど膝は震えていた
≪カレシのジュード 歌詞より抜粋≫
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ここの歌詞は『キュートなカノジョ』の「一人じゃ買う訳ないそれ」に対しての発言のようです。
あの日カレシが通った場所には「あんなモンが買えるショップは1つだってない」。
その事実から考えられるのは、カレシがカノジョを嫉妬させるためにわざわざ用意したのか、浮気相手がこっそり忍ばせたのか。
どちらにしてもタバコをふかしながら余裕ぶって誤魔化そうとしているカレシですが、見て見ぬフリをするカノジョを見て「膝は震えていた」ところに本心が隠れているようです。
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生身の言葉じゃ生かされない
穴ただどんどん増えていくんだ
「自分の普通で生きてみる」
誓った日とっとと開けたんだ
舌に刺した15ゲージ
≪カレシのジュード 歌詞より抜粋≫
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「自分の普通で生きてみる」というのは、男性として生きようと決めた時のカレシ自身の気持ちと考察できます。
周囲は否定的で、その激しい「生身の言葉」に心が傷つけられている様子を「穴ただどんどん増えていくんだ」という言葉で表現しているのではないでしょうか。
そんな周囲の思う普通ではなく、自分が思う普通を大切にして生きていきたいとの決意が表れています。
その決意表明として「舌に刺した15ゲージ」とは舌ピアスの穴の大きさのこと。
MVのカレシの舌にもピアスが描かれていますね。
カノジョからすればふらふらして見えるカレシも、実際は心の葛藤と芯の強さを持った人だと伝わってくる気がします。
浮気性のカレシが迎える衝撃のラスト
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誰かの言葉じゃ満たされない
アナタを待ってる僕がいるんだ
2人は永遠には繋がれない
「守っていたいとかなめないで」
でもでもアナタも独りじゃ生きられない
分かって黙ってる僕はイルだ
「2日も過ぎたら落ち着くさ」
放ってくるって振り返った
背中がふと熱くなった
詰んだ
≪カレシのジュード 歌詞より抜粋≫
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カレシは真剣にカノジョのことを思うからこそ、永遠には繋がれない二人の関係から解放してあげたいと考えているようにも思えます。
しかし、今度はカノジョの方が「守っていたいとかなめないで」と気持ちを口にしたようです。
そう言いながらもカノジョが「独りじゃ生きられない」ことを分かっていて、自分から離れて行かないことをどこか安心してもいるのでしょう。
「イル」がカタカナになっているのは「病気」を意味する「ill(イル)」とのダブルミーニングだからかもしれません。
『キュートなカノジョ』の方で出てきた「シック」も「病気」を指す言葉と言えるので、二人が互いに病的なほどに愛し合っていると捉えられますね。
そしてMVの背景がエレベーターなのは、カノジョの気持ちが落ち着くまでそっとしておこうと部屋を出てきた状況を表しているようです。
ところが背後にはハサミを手にしたカノジョが迫っていて、カレシの「背中がふと熱くなった」ということは、カノジョがハサミをカレシの背中に突き刺したからだと思われます。
愛されていることに安心しきって、本当の想いを伝えようとしなかったツケが回ってきたということなのでしょう。
どうしようもない状況を「詰んだ」と軽い一言で済ませているところに、現代の若者らしい雰囲気が漂っていますよね。
この二曲が男女逆転カップルの歌だとすれば、『キュートなカノジョ』と『カレシのジュード』はそれぞれ相手のことを指しているとも考えられそうです。
恋人が好きすぎて浮気をして嫉妬させようとするキュートな彼女と、重度な愛で恋人を刺してしまう彼氏。
結末はあっと驚くような悲しいものですが、究極にお似合いのカップルだったのかもしれませんね。
聴き方次第で考察が広がる名ボカロ曲
『カレシのジュード』では、浮気者の心情と末路がsyudouならではの巧みな手法でかっこよく描かれていました。
別視点の『キュートなカノジョ』と合わせて聴くと、歌詞がカップルの掛け合いを見ているような絶妙な構成になっているので、単体で聴くのとはまた違った楽しみ方ができます。
そうした構成や世界観の面白さもあって、MVは公開から1ヶ月足らずですでに300万回再生を突破。
ぜひ何度もリピートして、お気に入りのポイントや自分なりの考察を見つけてくださいね。