AKB48『RIVER』は2009年の曲。AKBがはじめてオリコン1位を獲得した記念すべき曲です。AKBは2016年の今でこそ1位を獲るのが当たり前のポジションについていますが、この曲までは決して順位が安定していたわけではありません。であるがゆえに、初期のこの頃までの雰囲気を好むファンも存在します。良くも悪くも、この曲以降AKBは拡大し続けていくのです。
『RIVER』は「川を渡れ!!」と歌う曲。この当時ならではのAKBの勢いが、歌詞の「!」の多用に反映されています。作曲は井上ヨシマサ。作詞はAKBのプロデューサーである秋元康。
秋元康はかつても「川」をモチーフにした名曲の作詞をしています。それが美空ひばりの代表曲の一つともいえる『川の流れのように』。美空ひばりの曲は川を縦に見て、人生の流れを表現しています。
“ああ 川の流れのように ゆるやかに いくつも 時代は過ぎて
ああ 川の流れのように とめどなく 空が黄昏に 染まるだけ“
この曲における川とは、大きな人生の流れ。それは越えていくものというよりは、流れに身を任せるもの。大ベテランで、昭和を代表する美空ひばりだからこそ、この曲が生まれたとも言えるでしょう。ちなみにこの曲はAKBメンバーの演歌歌手、岩佐美咲によりカバーされています。
対してAKBの曲『RIVER』は川を横に見て、乗り越えるべき障害として表現しています。MVでもメンバーが川を渡る姿が描かれます。
“行く手 阻む River! River! River! 横たわる River!
運命の River! River! River! 試される River!”
川は、行く手を阻む、横たわる、運命の、試される川。前半はラップで表現されるこの曲において、川とは超えていくものなのです。
“君の目の前に 川が流れる 広く 大きな川だ
暗く深くても 流れ速くても 怯えなくていい
離れていても そうだ 向こう岸はある もっと 自分を信じろよ”
サビのメロディ。「暗く深くても」「流れ速くても」「離れていても」という川の描写。川とは人生における障害、妨げの象徴。暗く深いのは自分達の不透明な未来。流れが速いのは、目まぐるしく変化する自分達の状況。そして離れているのは自分達の目標。そういったものが全て「川」として表現されています。
「そうだ 向こう岸はある もっと 自分を信じろよ」でしめるサビのメロディ。どんな困難も必ず出口がある、というメッセージを込めています。秋元康は若いAKBに対しては川を横に見たてて、それを超えて行け!と言っているんですね。いつか、振り返り川の流れのような人生だと感じる時が来るかもしれない。しかし、今はまだ始まったばかりのAKBは横に流れる川、様々な障害をとにかくがむしゃらに渡っていくのだ。同じ川のモチーフでも美空ひばりとは大きく異なるアプローチ。このアーティストによる使い分け、言葉の引き出し方、分かりやすいメッセージが秋元康の作詞の力なんですね。
この曲は、2009年当時のAKBの曲だから説得力をもったというところもあります。拡大して支店も増加し、次世代メンバーが中心になっていく今のAKBは、2009年当時とはメンバーも物語もポジションも異なります。グループ自体がまだ昇っていく途中だったからこそ、生まれた曲。この曲は、AKBに限らず様々な困難を抱えている人に向けて、困難を乗り越えていけ!とメッセージを送る曲になっているんですね。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)